イグルー(かまくら)はどのようにして雪を暖炉に変えるのか?

イグルー(かまくら)はどうして暖かいのか?身近なふしぎ

「かまくら」の暖かさの理由について、氷雪地帯に住む先住民族「イヌイット」のつくるかまくら「イグルー」を例に、雪の断熱効果、暖かい空気が循環する仕組み、などを中心に紹介します。

雪は冷たいのに、雪で作った「かまくら」の中はなぜ暖かいの?

かまくらの中で火を使っても雪の壁は溶けないのかしら?

たしかに不思議ですよね。

しかし、雪が寒さからあなたを守ることができることは、物理学的にも証明されています。

実際に、何千年もの間、ヒトや動物、植物は、空から降ってくる冷たい水「雪」を利用して暖をとってきました

実は、イグルーは、半円のような形に見えますが、実際には力の分散に優れた強度の高い形で作られているようです。人間の知恵ってすごいですね。

イヌイットにとって、寒さから身を守る手段は「雪」だけ

広大な氷からなる北極圏は、地球上で最も寒さの厳しい環境のひとつ。

このカナダ氷雪地帯には、日本人に似た先住民族「イヌイット」が約5千年も前から暮らしています。

氷上での冬の気温は、マイナス50度近くまで下がるため、人々は、寒さから避難できるシェルターを見つけなければなりません。

そこには、森林はありません。

イヌイットの人たちが利用できるのは雪だけ

雪で作られた「イグルー」は、氷雪地帯に住む人々の暮らしの知恵によって生まれたのです。

ところで、イヌイットが話すエスキモー語には、雪についての異なる言語が、何十も存在するって知っていますか?

「雪」を意味するエスキモー語の例
  • piegnartoq :ソリ滑りをするのにちょうどよい固さの雪
  • matsaaruti:湿り気のある雪
  • aqilokoq:空から降ってくるやわらかい雪

それは、「イグルー」を作る時に選ぶ雪の種類によって、暖かさや断熱性が全く異なるためだといわれています。

イヌイットたちは、雪についての見識がそれほど深いのです。

寒さとは何か?熱が伝わる仕組みについて

「雪で作るイグルーがどうして暖かいのか」その仕組みについて学ぶ前に、私たちはまず、「寒さとは何か?」について理解しておく必要があります。

ヒトは、体温が急激に低下し始めると、熱が体から逃げていくのを感じます。

ここで、熱をとして考えてみてください。熱が体から逃げていく量が多くなるほど、私たちはより一層寒さを感じますね。

この熱の量のやり取りは、「対流」「伝導」、そして「放射」の3つの異なる方法で行われます。

そして、まさにこの3つの熱のやり取りが、イグルーで実際に起こっているのです。

イグルーが暖かい理由

イグルーの出入り口は、風下に作られ、外からの冷たい風が入りにくくなっています。

さらに内部では、暖かい空気の循環も起こっています。

まず、イグルーの中では、人の体から逃げていった(放射された)熱によって対流が起こります。

対流とは、温められた空気が膨張(密度が小さくなる=同じ体積あたりの重さが軽くなる)して上に、冷たい空気は下にという空気の流れのこと。

この空気の流れによって、イグルーの中全体が暖められていくわけです。

一方で、動かない空気は、熱を伝えにくい性質があります。

この静止した空気をたくさん含んでいる雪の壁は、熱がイグルーの内外に伝わる(伝導)のを遮(さえぎ)り、外の寒さの影響を抑えてくれるのです。

実は、まさにこの空気の流れは、あなたの家で起こっていることで、リビングの断熱材も同じ役割をしてます。

雪は優秀な断熱材

クジラやアザラシのような動物は、たくさん蓄えられた脂肪によって、熱が体内から逃げるのを遮っています。

一方で、脂肪の少ない動物は、体を空気で包んで断熱効果を得ていることが分かっています。

例えば、ラッコの毛皮は、人間の毛の1,000倍も密度が高く、その断熱力の秘密は毛質にあるといわれています。

やわらかくてツンツンとした毛は、空気の分子を閉じ込めるのに非常に適しているのです。

雪にも同じことがいえます。

イグルーに使われる雪とは?

ふわふわとしたできたばかりの新雪は、最大で95パーセントの空気が閉じ込められ、優れた断熱性があります。

しかし、手で握って固められるほどの密度がないので、新雪では雪だるまやイグルーを作ることはできません

一方で、密度が高い氷は、風よけには最適ですが、持ち運ぶには重すぎます(1000kg/m3)。

そこで、イヌイットは、粉雪と氷の中間のちょうどよい密度の雪を使って、断熱力の高いイグルーを作る方法を考え出しました。

イグルーに使われる伝統的な雪は、固めて成形するのではなく、地面で固まった雪から切り取られています。

地面の固い雪は、氷ほど強固ではありませんが、氷よりも軽くて加工しやすく、空気も含まれているのです。

動植物も寒さから身を守るために雪を活用している

実は、動物は人間よりもずっと前から、雪によるシェルターを活用していました。

実際に、ホッキョクグマやウッドチャック、鳥類などは、雪に穴を掘ったり、雪で巣を作ったりして、寒さから身を守ります。

植物の中にも、凍結による死を防ぐために、雪で身を覆い隠す種類があることも分かっています。

雪は、太陽の光によって土壌にたくわえられた熱エネルギーが逃げる(放射)のを防ぐ役割をします。この雪の毛布は、植物の根や種、芽の中で氷結晶が形成されるのを防いでくれるのです。

イグルーは、力学的に安定した理想的な形だった

動植物たちは、凍え死ぬことがないように進化してきましたが、ヒトは、イグルーによってその一歩先を進み、暮らしに暖かさと快適性を得ました。

実は、イグルーの断面は半円ではないんだよ

よく漫画では、平底で半球のような形をしたイグルーが描かれていますね。

しかし、イグルーを半分にスライスすると、実際には「カテナリー曲線」と呼ばれるロープの両端を持って垂らしたときにできるたわみのような形になります。

カテナリー曲線は、半球よりも雪の重みによる圧縮力を均等に分散するため、雪の重みによって、へこみや突起ができることなく、アーチの形状を維持する力があります。

このカテナリー曲線は、自然の中で最も安定したアーチの1つだといわれ、建築や橋梁にもたくさん取り入れられています。

ちなみに、卵の形にもカテナリー曲線が見られます。

イグルーの中はどうなっているのか?

イグルーの家は、内部の床の高さを変えることで温かさや快適性を調整しています。

暖められた空気は上昇するため、食べたり寝たりする場所の床は高く作られ、冷たい空気は沈む性質を活かして入り口を低くし、そこから冷気を逃がしているのです。

イグルーの壁は、そこに住む人の体温によってわずかに溶けてるんだ

しかし、イグルーの最も内側の壁の層が溶けると、再び凍った時に、空気の隙間のない壁になり、強度が増します

時間の経過とともに、溶けたり凍ったりが繰り返されことによって、イグルー内の温度は、外の気温よりも40度から60度も暖かくなっていくのです。人数が多いほど、イグルーの内部は早く暖かくなります。

参照元:How An Igloo Keeps You Warm