私たちは、3歳頃からの記憶なら断片的にとはいえ思い出せるかもしれません。しかし、それまでの赤ちゃんの頃の記憶はほとんど覚えていません。
自分が生まれた瞬間や初めて歩いた日など、新しい世界に感動したであろうはずなのに、このような大切な日をどうして覚えていないのでしょう。
以下に、赤ちゃんの頃の記憶はどうして覚えていないのかについて、最近の研究をもとに紹介します。
意味記憶とエピソード記憶について
記憶には、意味記憶とエピソード記憶があると考えられています。
意味記憶とは、言葉の意味や知識、情報に関するもので、覚えようとして学ぶ記憶のことです。
それに対してエピソード記憶とは、「いつ」「どこで」「なにをどうしたか」といった個人の人生における具体的な経験のことです。赤ちゃんの頃の記憶は、エピソード記憶にあたります。
実際に、生後5ヶ月の赤ちゃんにも、記憶が保持できる期間は短時間とはいえあります。
赤ちゃんにも意味記憶は存在しますが、一方で、エピソード記憶に関しては、3歳から4歳頃から機能するといわれます。
なぜエピソード記憶の発達が遅いのか
エピソード記憶は、単に映像の断片を脳が受け取っているだけでは機能しません。
ひとつのことを覚えるには、それを表現する言葉や意味、状況を把握したり、原因と結果のつながりを理解するといったいろいろな能力が発達して初めて可能となります。
また、長期間の記憶が定着するには、脳の発達が深く関係しており、海馬や大脳皮質といった各機能が一緒に働いて記憶として残ります。
そのため、海馬が発達する2歳から4歳くらいまでの記憶は、脳の機能が未発達な赤ちゃんには覚えておくことが困難であることがわかります。