記憶が飛ぶほど酔っぱらったとき、脳では何が起きているのか?

2018年12月 4日

週末の飲み会で、頭が痛くなり、どうやって家に帰ったのかすら覚えていない。

このように、記憶が消えるほど酔っぱらうことを「ブラックアウト」といい、アメリカでは半数以上の大学生が経験するといわれています。

記憶が飛ぶとは、意識を失うこととは違います。おそらくあなたは、泥酔中でも人と話したり、歩いて家に帰ったりすることができるでしょう。家に帰ると歯も磨いたかもしれません。

しかし、それらの記憶は一体どこへ行ってしまったのでしょうか?

それでは、週末の夜に時間を巻き戻して、酔って記憶を失った「空白の時間」に脳では何が起きているのかについてできるだけ分かりやすく紹介します。

ブラックアウト(記憶の抜け落ち)の原因

通常は、会話をはじめ、どのような体験に関しても、新しい記憶は短期記憶として脳の前頭前皮質(ぜんとうぜんひしつ)と呼ばれる領域に保存されます。

そして、脳内の海馬と呼ばれる領域の助けによって、長期記憶に保存できるようになります。

しかし、ここで重要なポイントがあります。

これらの新しい記憶を長期記憶に保存するには、NMDAやGABA(ギャバ)といった特別な神経伝達物質の働きが必要だといわれています。

しかし、お酒は、これらの神経伝達物質の適切な働きを妨げ、不完全な記憶や空っぽのファイルのみを脳に残して、昨夜のできごとを思い出せなくしてしまうのです。

肝アルコールが血液を通じて脳の届くと「酔い」が生じる

一般的に、摂取したアルコールは、胃や小腸で吸収された後、(一部は尿や汗などで排泄されますが)ほとんどが肝臓で代謝されます。そして、肝臓の許容量を超えて分解しきれなかったアルコールは、血液を通じて心臓や脳などに送られます。

血中のアルコールは、再び肝臓に戻って少量分解され、また体中を巡るといった循環を繰り返ししばらくの間、体内にとどまります。

このとき、脳に送られたアルコールが、脳機能を低下させ、理性や長期記憶などにさまざまな影響を及ぼして「酔い」の症状を生じさせているのです。

お酒の摂取量は、記憶量に影響を与える

一般的に、酔いによる記憶の消失の程度は、脳内のアルコール濃度によります。

血中アルコール濃度0.2%で短期間のブラックアウト

たとえば、体重73kgの成人で、1時間で8杯のお酒を飲んだとしましょう。

彼の血中アルコール濃度はおそらく約0.2%になり、これは酒気帯び運転の基準値の2倍以上に相当します。

このとき、脳にはまだ、いくつかの記憶を保存する余力は残されていますが、所々が抜けた断片的な記憶に終わるでしょう。

このように、飲み過ぎて意識がはっきりとしないことを「短期間のブラックアウト」、または、グレーアウト、ブラウンアウトと呼びます。

それでもさらにお酒を飲み続けると、血液中のアルコール量が増えていき、事態は悪化します。

0.3%で海馬がマヒ

ブラックアウトは、記憶の中枢である海馬とのかかわりが深いといわれており、たとえば、それから30分の間にさらに4杯追加で飲んだ場合、血中アルコール濃度は約0.3%に達し、海馬がマヒします。

この段階になると、少し前のことや今やっていることすら記憶できなくなったり、何度も同じ話をしたりして、完全な記憶の喪失が起こる可能性があります。ここまでくると、おそらく次の日には、その夜の記憶がぽっかりと空白となるでしょう。

それ以上に血中アルコール濃度が上がると、一時的な機能障害が脳の広範囲にわたり、それが心臓の働きや呼吸など生命維持の中枢を担う延髄(えんずい)にまで影響すると、命にかかわる危険性があります。

周囲が酔っぱらっていることに気づかないこともある理由

興味深いことに、本人は記憶が消えるほど酔っぱらっていたとしても、なぜか周りの友人が酔っぱらっていることに気付かないこともよくあります。

なぜなら、アルコールによって海馬の働きがマヒする前までの長期記憶は消されることはないので、ある程度の会話を続けることができ、多かれ少なかれ普通の人のようにふるまえることが多いからです。

ブラックアウトのリスク

ブラックアウトは、アルコールの血中濃度が上がって、脳の働きがマヒしたことで、新たな記憶を形成できなくなり、記憶の保存に一時的な障害が起こった状態だと考えられています。

一方でアルコールは、推理や意思決定の機能をつかさどる脳の他の領域にも干渉するおそれもあります。

そのため、酔った人は、交通事故やけんかを引き起こしたり、犯罪の犠牲者になったりすることも多いようですが、記憶の一時的な障害のために、ほとんどそれを覚えていないのです。

ブラックアウトを予防するために

誰もがブラックアウトを経験するわけではありません。

酔い方に個人差があるのと同じで、ブラックアウトも、性別や体重、遺伝子や家系的なものなどさまざまな要因によって引き起こされやすさが異なります。

また、飲んだお酒の量や種類、濃度にもよりますが、特に空腹時に飲んだり、強い酒を短時間で飲んだりして、血中アルコール濃度が急激に上昇することも大きな要因になります。

恐ろしいことに、慢性的なブラックアウトは、長い目で脳の記憶力低下につながるリスクが高いともいわれています。

いずれにしても、血中のアルコール濃度を急激に上げる飲み方はしない方がよいことだけは確かです。