「トリウム燃料の原子炉」は次世代エネルギーの主軸となるか?

「トリウム燃料の原子炉」は次世代エネルギーの主軸となるか?地球温暖化

原子力発電所は、メルトダウン事故や有毒廃棄物の処理問題などの理由から、少し評判が悪い。

しかし、デメリットがある一方で、原子力発電には温室効果ガスの発生が少ないというメリットもある。

それが、気候変動対策の一つとして大きく期待されている。

なんとかして原子力発電の廃棄物問題やデメリットを回避する方法はないのだろうか。

そこで、科学者たちは、新たな有効策として資源量に恵まれている「トリウム」に注目し始めたのだ。

これは中国にとって耳寄りな話かもしれない。

なぜなら、レアアースを加工するプロセスで多量に廃棄していたトリウムが有効な核燃料になるからだ

トリウムなら、資源量が豊富なだけでなく、これまでのウラン燃料と比べて、廃棄物の問題もエネルギー効率も安全面でも勝る

今回は、トリウム炉が新たなエネルギー供給源となるかについて、これまでの原子力発電所(軽水炉)との違いなどをあわせて分かりやすく紹介する。

トリウム炉は、地球温暖化に対するエネルギー源として必ずしも成功するとは言い切れないが、何らかのヒントになるかもしれない。

今までの原子力発電の仕組み

原子力発電の仕組み

トリウム資源は、天然に存在し、その埋蔵量ウランの3倍から4倍ともいわれる。

しかし、現在の原子力発電は、燃料にウランを使用している。

ウラン235の原子の中心にある原子核に、中性子があたると、原子核が二つに分裂

原子力発電所では、原子炉の中で、U-235(ウラン235)と呼ばれる特殊なウランの原子の真ん中にある大きな塊「原子核」を分裂することで、巨大なエネルギーを生み出している。

U-235の原子核が分裂すると、熱エネルギーが放出され、中性子という電気的に中性な粒子が発生する。

中性子とは、原子核を構成する粒子のひとつだが、この電気をもたない(無電荷)という特徴のおかげで、他の物質中にある大量の電子の影響に作用される(電荷による反発や散乱に無駄なエネルギーを使う)ことなく、他の物質の内部深くまでまっすぐに侵入できるのだ。

新しく発生した中性子は、原子炉の中で、他のU-235原子核にぶつかり、その原子核を分裂させ、さらに中性子を放出というように、自立した核分裂の連鎖反応を引き起こす。

ちなみに、このように熱中性子との相互作用によって効率的に自活できる核物質を核分裂性物質(かくぶんれつせいぶっしつ)と呼びます。

そして、天然に存在する核分裂性核種はU-235のみで、それは天然のウランの1%にも満たない。

トリウム資源はウランに比べて資源量が豊富なうえ、消費量も少ない

トリウム燃料
しかし、トリウムは少し違う。

トリウムの主な種類であるT-232は、U-235と違ってそれ自体は核分裂しない

T-232は、そのままでは核分裂してエネルギーを生み出すことはないが、中性子を吸収することで、核分裂性のU-233(ウラン233)になる。

このU-233のすごいところは、自らが核分裂して、中性子とエネルギー(燃料)を自然に生み出していくことだ。

一度核分裂が始まると、その連鎖反応がずっと続くため、次々にエネルギーが生まれる。

つまり、自分で小さな核燃料の赤ちゃんを作るという意味では、繁殖力があるといえるだろう。

原子炉で投入した燃料をより多く使えるので、無駄な燃料消費を大幅に減らし効率のよいエネルギー供給ができる。

使用済み廃棄物の処理問題が軽減

また、トリウムを使った反応では、ウランのように千年経っても有害だとされる厄介な廃棄物はあまり発生しない。

100年から200年くらいで放射能は安全レベルまで下がると考えられている。

さらに、トリウムによる反応の連鎖は、ウランによる反応の連鎖よりもステップ数が多く、最終的に発生する廃棄物の量が少ない

トリウムは天然に存在する物質

ウラン鉱石から取れるウラン元素には、中性子を吸収して核分裂をするウラン235が0.7%程度しか含まれていないため、天然ウランでは核分裂の連鎖反応を起こしにくい。そのため軽水炉では効率よく核分裂を起こさせるために、ウラン235の割合を3~5%まで高めることが必要になる。

自然界のウランの99%以上が、核分裂しにくいU-238。

これは、核分裂にはほとんど使えない形をしているため、核分裂しやすい残りの0.7%を取り出す必要がある(ウラン濃縮)。

しかし、これはたやすいことではない。

U238とU235は化学的性質ほとんど同じであるため、この2つを分離するのはとてつもな
く大変で大きなエネルギーを要する難しい作業なのだ。

しかし、トリウムにはこの問題がない。

自然界に存在するトリウムは、すべてT-232という形ですでに存在しているからだ。

トリウムを掘り出して、原子炉の中に入れればいいという単純な作業で行えるのは大きなメリットといえる。

安全性に優れている

原子力発電の安全
正しい形式の原子炉を作れば、ウランよりもはるかに少ない労力で、トリウムを採掘して原子炉に入れることができる

このことからも、原子炉を見直すのは優れたアイデアといえる。

現在の原子炉の設計には、主に冷却方法の問題がある

実際、主要な原子力発電所の事故はすべて、冷却装置の故障が原因となっている。

たしかに事故は原子力発電所での非常に稀であり、安全性は時代とともに大きく向上している。

しかし、より安全な代替手段を探すことは常に良い選択肢であるはずだ。

最近の原子炉では、ウラン棒は水の中に沈み、炉内は高圧になっている。

これは1950年代に初めて発電に使用されたもので、それ以来、ずっと使われている。

水蒸気爆発や放射能漏れを防ぐ

原子力発電所の仕組み
水の目的の一つは、原子炉を冷却すること。

それがうまくいかないと、福島やチェルノブイリで起きたようなメルトダウンが起きてしまう。

トリウムは、このような問題を抱えていない別の種類の原子炉に適している。

例えば、MSR(Molten Salt Reactor)と呼ばれる種類の原子炉。

この原子炉は、ウラン炉よりもはるかに小型で、水の中にウラン棒を浸すのではなく、金属などを混ぜた溶融塩の中にトリウムを溶かして使うもの

高熱の溶融塩を熱交換器に引いて熱を取り出している。

極端な話だが、これがかえって安全だという。

溶解した物質は、熱を加えても液体のままなので、より低い圧力で液体を保つことができる

つまり、チェルノブイリのような水蒸気爆発を防げるのだ。

また、溶融塩がもれても、冷却されて固体になるため、放射性物質が外に漏れる危険性がおさえられる。

また、事故に備えてMSR原子炉の設計を工夫することで、温度が上がりすぎると反応が停止したり、燃料が自動的に排出されたりするような受動的な冷却機構を作ることもできる。

トリウムベースの原子炉がすぐに採用されない理由

しかし、このようなメリットがあるにもかかわらず、ウランベースの原子炉からのトリウムベースの原子炉へ切り替えはすぐにはできないだろう。

トリウムを使った原子炉の設計は、ウランを使ったものとほぼ同じくらい古くから行われているにもかかわらず、そのアイデアは完全には発展していない。

まだまだ研究開発が必要なのだ。

また、批判的な意見もある

科学者の中には、多くの工学的問題を考慮した上で、トリウム原子炉が実際にどれほどの利益をもたらすかを疑問視する人もいる。

思ったほどエネルギー効率が上がらないかもしれないという危惧があるようだ。

それなら、普通のウランを使った改良型の原子炉デザインを考えるという選択肢の方が適していると指摘する科学者もいる。

たとえば、2021年にワイオミング州で発表されたプロジェクトのように、溶融塩を使った改良型の原子炉の開発。

しかし、このような改良型原子炉の設計にも批判がないわけではない。

ウラン炉が発展した理由のひとつが核兵器開発

なぜウラン原子炉がこれほどまでに発達しているのかというと、それは、残念ながら核兵器があるからだ。

核兵器を作るにはウランの方が便利だったのだ

事実、初期の原子力研究のほとんどは、そのために行われていた。

つまり、ウランを使った原子炉は、研究面で大きなアドバンテージを持っていたために発展したに過ぎないのだ。

兵器開発の背景があったため、それはベータマックスとVHSの戦いのようなもので商業的にはウランベースの原子炉を新設する方が常に有利だった。

気候変動対 vs 政治

実際、エネルギー供給の話はすべてそうだといえる、誰かがトリウムベースの原子炉を作るかどうかは、科学や工学の問題だけでなく、政治的にも難しい判断となる。

しかし、工学的な問題を解決できれば、気候変動対策にもつながるだろう。

そのリスクやデメリットに見合うかどうかを決めるのは、常に私たち次第なのだ。

参照元:A Better Way to Do Nuclear Energy?