1945年8月6日、アメリカは、広島市に1つめの原子爆弾を投下しました。
原爆のコードネームは「リトルボーイ」。
広島の原爆から3日後には、2つめの原子爆弾「ファットマン」を長崎に投下。
私は、原子爆弾が投下された広島で生まれ、祖母たちの周辺で実際に何が起こったのかを幼い頃から聞いて育ちました。
今回は、そもそもたった一発の原子爆弾が、なぜこれほどまでにけた違いの爆発力で悲惨な影響を与えたのか、そのメカニズムを調べてみることにしました。
実のところ、ファットマンはリトルボーイよりも効率的により大きな爆風を生み出す能力があったようです。
広島の原爆「リトルボーイ」は、64kgの濃縮ウラン(ウラン235)を使って、15キロトンの爆風を生み出したのに対して、長崎の原爆「ファットマン」は、たった6.4kgのプルトニウムで21キロトンの爆風を生み出すことができます。
このはかり知れないほど恐ろしい破壊力はどのようにして生まれたのでしょうか。
以下に、長崎に投下された原子爆弾「ファットマン」のメカニズムについてできるだけ分かりやすく紹介します。
原子爆弾を開発した研究所
この恐ろしい原子爆弾は、ロスアラモス国立研究所で科学者やエンジニアたちが行ったマンハッタン計画によって開発されました。
当時のロスアラモス国立研究所の所長は、あの「原子爆弾の父」として知られるロベルト・オッペンハイマー氏でした。
原子爆弾「ファットマン」のメカニズム
ファットマン爆弾は、長さ3.3m、直径1.5mの大きさ、重さは4670kg。
それでは、原子爆弾の中を詳しく見てみましょう。
プルトニウムの球体は、サッカーボールくらいの大きさで、重さはたったの6.4キログラム。
これだけの球体が、当時のトップシークレット「インプローション」と呼ばれる(内部の圧力を上げる)爆縮方式で驚異的な爆発を生み出すのです。
ご存知の通り、プルトニウム(PU-239)は放射性金属元素。
1940年に発見された元素です。
自然界に存在するウラン鉱石にも微量含まれています。
プルトニウムの球体は、高度に特殊化された爆薬レンズ(60%RDX、40%TNT)に覆われて、その周りには、32本のブリッジワイヤ(電流を流すと加熱して起爆を促すワイヤ)が起爆装置として備わっています。
燃焼速度の違う2種類の爆薬の衝撃派圧力を、プルトニウム中心にむけて全く均等に集約させるために、科学者らは計算と実験を繰り返してようやく開発したトップシークレットの技術でした。
爆弾の側面には、24ボルトのバッテリーが搭載され、核融合システムに接続されました。
原子爆弾投下
1945年8月9日の早朝に、ボーイング B-29 スーパーフォートレスは、サイパン島近くのテニアン島をファットマンとともに離陸。
第一目標は小倉の街でした。
7時間の飛行の後、航空機は目標地点の上空に到着ましたが、厚い雲のために原子爆弾を投下できませんでした。
そのため、そこから約160km離れた長崎に目標を変更。長崎は、世界でも有数の港町で人口はおよそ263,000人。
そして、標高約5キロの上空から原子爆弾は投下されました。
原子爆弾はどのようにして爆発したのか
47秒後、ファットマンは高度500mに達し、地上向けたレーダーアンテナを送信。発光と反射によって爆発の高度を確実に検知するために信号が使われました。
その後、32個の起爆装置、ブリッジワイヤーが一斉に解除され電気の火花によって、すべての爆発物が同時に爆発。
厚い金属ケースの層が、内部の爆破衝撃波の発生を助け、衝撃波は中心に向かって圧縮していくことで、中性子が放出され、それが約10ミリ秒後にはプルトニウムに入って核連鎖反応が起こります。
すると、プルトニウムの原子1個が中性子にぶつかって2つに分裂しながらエネルギーを放出し、他のプルトニウムの原子に次々と核の連鎖反応を起こすことで、とてつもない爆発が生まれます。
原子爆弾の被害を生んだ3つの要因
原子爆弾は、高度3,000メートルの地点で爆発したため、爆発のエネルギーはより広い範囲に分散されました。
同じ力で爆弾を地面で爆発した場合、影響は比較的低くなりますが、上空で爆発したために、震源地から3平方マイル(約5km)内の建物を全て破壊し、約4万人の命を奪うほど被害は広範囲に及びました。
震源地の内部では、爆発の熱で人は瞬時に蒸発。
核爆弾の爆風は、X線が空気を加熱したことで生じる「火球」の結果です。
火球は、球状になった極めて高温で高輝度の空気とガスの塊で、音速よりも速い速度で大きな衝撃波を全方向に発しました。
火災旋風の影響を受けた地域は、震源地からおおよそ3.2キロに及び、爆発による放射能が大気中に放出されました。
放射能とは
放射性物質が放射線を出す能力を「放射能」といいます。
原子爆弾による放射線の主な種類はアルファ線、ベータ線、そして、高エネルギーの電磁波、ガンマ線。
アルファ線の粒子にはあまり害はなく、放射線の影響は適切な衣服で防ぐことができます。
しかし、ベータ線はもう少し深刻な問題を引き起こしますです。
ベータ粒子は、皮膚を貫通し、皮膚のやけどのような放射線障害を引き起こすことができます。
そして、何よりも危険な放射線が、ガンマ線です。
ガンマ線は、人体を完全に透過することができ、さらに癌や心血管疾患、遺伝子の突然変異などの長期的な健康被害をもたらす可能性があります。
ヒトの生殖細胞にも伝わってDNAを損傷し、それは次の世代にも影響を与える危険性があるのです。
今、このような破壊力の強い核兵器を保有する国は、イギリス、アメリカ、中国、ロシア、インド、パキスタン、北朝鮮、フランスの8カ国で、世界の核兵器は推定13400個(2020年統計)に及びます。
今、ロシアのウクライナ侵攻によって、核の恐怖が再び迫っています。人類の過ちを二度と繰り返さないために、原子爆弾による悲劇を身をもって体験した日本人が何をすべきかが問われているのです。