「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラムはどうやって生まれたのか?

ちょっと一息

指輪に魅了され、邪悪な存在となったゴラム。彼の人間くささのある表情やリアルな動きはアカデミー視覚効果賞に導くほどとても印象的でした。

視覚効果アーティストのジョー・レッテリー氏は、

映画「ロード・オブ・ザ・リング」で、私たちがスクリーンに登場させたかった最初のキャラクターはゴラムだった

といいます。

ここでは、瞬き一つをとっても精巧なあの動きがどうやって映像としてつくりだされたのかについて、ョー・レッテリー氏の話をもとに紹介します。

ゴラムというキャラクターの魅力

ゴラムは、邪悪で醜いゴラムと善良なスメアグルという2つの人格をもつキャラクター。

ホビット族の一人「スメアグル」が、「指輪」に執着し、性悪な姿「ゴラム」へ。内にスメアゴルと呼ばれる善良な別人格を持ち、己の悪と戦う姿も見所のひとつです。

誰もが「善良さ」と「悪」の両方の側面をもつからこそ、見た人がみな魅了されてしまうのかもしれません。

ゴラムの演出の見所

ゴラムの演出にとって最初の突破口のひとつは、アンディ・サーキスを声優に起用したことでした。

アンディ・サーキスといえば、キング・コングをはじめ、猿の惑星のシーザーなど、人間以外をモーションキャプチャで演じるモーションアクターの第一人者です。

以下、ジョー・レッテリー氏によるゴラムについての演出効果を紹介します。

撮影現場でのアンディの肉体的な存在感は、ゴラムを成長させる重要な要素となりました。

そこで私たちがやりたかったのは、その肉体性をすべて記録し、それをゴラムというデジタルのキャラクターに取り込む方法を見つけること。

善良な人格(スメアグル)が、己の悪(ゴラム)と戦うシーンもアンディの演出をもとにつくられています。

スメアグル:消えろ。消えろ。お前なんか嫌いだ。大嫌いだ。
ゴラム:俺がいなかったらどうなってた?オレはオレたちを救った。オレのおかげで生き延びたんだ。

そして、10年後、『ホビット』のためにゴラムを復活させなければならなくなったとき、私たちはその間に、たくさんの経験をもとに、適切な筋肉システム、適切な骨格システム、適切な表情を開発することができました。

 

光が目や肌、髪の中でどのように運ばれるかを研究し、そのディテールを適切に機能させるためには、人体における筋肉の働き方、筋肉がすべての関節にどのように付着しているのか、人が動いているときの筋繊維の結束等を研究することであることにもと気づきました。

そこで私たちは、骨格から皮膚に至るまで、すべての筋肉とその動きを本物のようにシミュレートできるTissueと呼ぶ新しいシステムを開発しました。

ゴラムのようなキャラクターでは、基本的にほとんど服を着ていないので、その動きをすべて見ることができます。

ゴラムをよく注意して見れば、肋骨や筋肉が皮膚の下で動いているのがわかります。

CGキャラクターとしてのゴラムには、人間やスクリーンを見たときのようなリアルさ、肉感が必要でした。

そこで私は、SSS(サブサーフェススキャッタリング:表面下錯乱)と呼ばれるテクニックに出会いました。

SSSとは、光が物体の表面から入って、内部で錯乱し、再び表面から放出されることで半透明に見える現象をコンピューターでシミュレーションしてリアルな人間の皮膚や物体の質感を表現する技術。

「ホビット」では、この新世代のSSS技術を導入することができました。

映画の中でゴラムの演技をよく見ると、毛穴やシワ、皮膚の細かいシワなど、皮膚で起こるすべてのことが詳細なレベルで見ることができます。

ゴラムのようなキャラクターでは、特に目にSSSの技術が集約されていることに気づかされます。

なぜなら、目というのは、入ってくる光をすべて吸収する素晴らしい球体だからです。

ゴラムがどのように映像としてつくられたのかについては以下の動画で見ることができます。

Creating Gollum