ハトは、巣作りが下手で、雑な巣をつくることで知られています。
しかし、ただ構造的にしっかりした巣をつくるのが下手というわけはなく、それには理由があるようです。
研究では、主に2つの理由が示されています。
一つは、年に4回も産卵できるほど繁殖能力が高いハトにおいては、卵よりも親鳥の安全を優先して生存率と繁殖率を高めている。
もう一つは、実は本当に必要なときだけ、より安全な巣を作っている。
実は、ハトに限らず、「森に0.1%しかない特別な苔のみで巣をつくるハチドリ」をはじめ、「水面の浮き草に卵を産み落とす鳥」など、メリットがあるとは想像しがたいような巣をつくる鳥はたくさんいます。
しかし、それぞれの巣の詳細を知ると、材料の選択にしても構造にしてもこれらの鳥の一見ひどい選択にはちゃんとした理由があることが分かってきたのです。
以下に、問題な巣をつくる鳥を例にその理由をみていきましょう。
進化のトレードオフで得られたハトの巣づくり
キバシヒメバトは、地面から20メートルもの高さの巣に卵を産みますが、巣の基礎づくりが雑なので、ただ風が吹いただけで卵が落ちることがあります。
彼らは、なぜもっと構造がしっかりとした巣をつくらないのでしょうか?
実は、その理由はまだ完全には分かってきませんが、関連種のナゲキバトによる研究で、この種の巣作り行動は(飛ぶ代わりに泳ぐ能力を代償として得たペンギンのような)進化のトレードオフによる可能性が示されています。
それは、卵と卵を産む親鳥のどちらの命の方が価値があるかを測りにかけている可能性です。
母親の安全を優先した巣
より頑丈な巣をつくるためには、母鳥はより長い時間、捕食者に身をさらすことになります。
ナゲキバトの研究者は、卵が巣から落ちれば、母鳥はより多くの卵を産むことができることを発見し、実際に米国メリーランド州で行われた研究では、簡素な巣づくりがナゲキバトの生存率に影響を与えることが示されました。
さらに、ハトの巣は、実際には私たちが考えているほど脆弱ではないという説もあります。
枝の安定度によって巣を作り分ける
エクアドルで行われた研究では、スズメバトは状況に応じて頑丈な巣をつくることもわかりました。
なんと、不安定な枝の上にはより頑丈な巣を作り、安定した枝で卵をしっかりと支えられる場合にはより簡素で雑な巣が作られたのです。
これによってハトは、本当に必要なときだけ、より安全な巣をつくる可能性が示されました。
結局のところ、ハトは巣作りが下手なのではなく、賢い場所選びを優先し、親の安全のために簡素な巣づくりをしていると考えられています。
森に0.1%しかない苔でしか巣をつくらないハチドリ
ハチドリは苔で本素晴らしい巣を作ります。
苔は水分を保持し、卵が乾燥するのを防ぐので、優れた建築材料といえるでしょう。
しかし、ハチドリのなかには、Ancistrodes genuflexa(アンキストロデス ジェヌフレクサ)という最も希少な苔だけを使って巣をつくる種がいます。
チリで行われた調査では、採取されたハチドリの巣の100%に、この希少な苔が見られました。
さらに各巣の97%がこの特別な苔で作られていたのです。
実は、これらのハチドリが生息する森は苔で覆われているため、他の苔への選択肢は十分にあります。
それもかかわらず、その森で見つけられる苔のわずか0.1%に満たない、途方もなく希少な種類の苔で巣をつくることを選ぶのです。
それはまるで、木材や粘土や石の山を見ながら、隕石のかけらのみで家を建てようとするようなもの。
実は、この苔にどれだけの価値があるのかは、顕微鏡によってはじめて明かされます。
希少な苔を巣づくりに使うメリット
顕微鏡で調べた結果、この苔には抗菌作用があることがわかりました。
苔が、巣をブドウ球菌や大腸菌などの有害な菌から守ってくれるのです。
そして、驚いたことに、森にある他の苔には、それらの細菌への効果はみられず、それどころかこの特別な苔は、菌類、昆虫、さらには小型哺乳類も寄せ付けないことがわかったのです。
どうやらハチドリは、この苔が卵や赤ちゃんの健康と安全に良いことを認識しているようです。
苔に含まれる化合物がポイント
苔には、それらの有害な生物すべてが耐えられない化合物がたくさん含まれています。
そして、これらの化合物は極性があるため、水に溶けて、苔が生育しやすい湿った環境で最も効果が出せる傾向があります。
つまり、この珍しい苔だけが、潜在的な脅威から卵や赤ちゃんを守るための「危険分子の立ち入り禁止」サインを持っていたのです。
さらに研究者は、さまざまな苔のサンプルを研究室に保管していたときに、この珍しい苔は他の苔よりも腐りにくいことにも気づきました。
水面の草に卵を産み落とすだけのレンカク
レンカクは繁殖地にある草の上に卵をポイッと落とすだけです。
近くの固い地面に巣をつくることもできますが、レンカクは、繁殖地として、あえてリスクが高そうな水面付近を選びます。
レンカクは、長い脚と広がった足を持ち、水の上を歩くのに適応しています。
とはいえ、卵にとって水上は、流されるだけでなく、捕食者の標的にもなりやすく危険なはずです。
しかし、レンカクは、水面の赤ちゃんを守るために、頑丈な巣をつくる代わりに、卵の下に羽を入れて守りながら、体の近くで孵化させる方法を選びました。
その理由は、洪水になるとより顕著になります。
水面の草が卵を守ってくれる
レンカクは水面にある草の上に卵を産みます。この卵は、しばしば部分的に水に浸かりますが、実はこれが良いことなのです。
なぜなら卵が乾燥するのを防げるからです。
ここで重要なのは「部分的に」という言葉です。成長中の鳥の胚は他のものと同じように酸素を必要とし、卵殻は少し空気を通すので、卵が完全に浸かると卵にとってはよくありません。
しかし、水位が上昇し始めると、水面の草も一緒に上昇するため、それが浮き輪のように卵が溺れないように守ってくれるのです。
つまり、レンカクは、常に変化する環境で、卵の安全を確保するために最も賢い方法を選んでいるといえるでしょう。
巣を自分でつくることすらしない鳥
鳥のなかには、自分で巣をつくることすらしない寄生鳥と呼ばれる種もいます。
それらの鳥は、他の鳥の巣に卵を産み、育ててもらうのです。
しかも、寄生鳥の中には、ノドアカカッコウにとってのノドアカヒラのように、他の鳥の渡りや卵の孵化の時期などを考えてベビーシッターとして最適な特定の鳥種に狙いを定めて卵を産み付ける鳥もいます。
2020年の発表では、卵をいくつかの他の鳥の巣に分けて産み付けることで、基本的にリスクヘッジをしている寄生鳥がいることも示されています。
何世代にもわたって同じ方法で巣をつくるというやり方に固執するのではなく、どうやらこれらの鳥は、順応性をもって繁殖力を高めているようです。