一見すると、魚は、水中でくらしているため、森林火災とはあまり関係がないような気がします。
しかし、科学者らは、森林火災が水生生物の生活にも大きな影響をもたらすことを発見しました。
今回は、森林火災が魚や他の水生生物に与える影響をはじめ、大規模な山火事を防ぐために新たに期待されている「火で火に対抗する森林管理方法」について紹介します。
自然災害と生態系の意外な相互作用についてかなり興味深いお話です。
北米では、ここ数十年で森林火災の発生件数が4倍に増え、年々規模も大きくなっています。
実際、山火事には多くのデメリットがありますが、ある種の山火事は生態系を保つのに有益であり、以下のように水生生物にとって必要でさえあることも分かってきていました。
山火事が水生生物や川にもたらす悪影響
山火事が起こっても、池や川が燃え尽きるわけではありません。
しかし、火災の直後は、そこに住む生物のよりどころとなる小川や湖、河川は灰と泥に覆われ、水質が一時的に悪くなります。植物が燃えた後の灰は、かなりアルカリ性なので、水のpHは上昇。
川辺の木々が焼けると、川が太陽光にさらされて水温は上昇。光に敏感なサケやマスの卵は突然変異を起こし、死に至ることもあります。
さらに、焼け焦げた木の根が地形を支えられなくなり、地盤が不安定になります。
その結果、大量の瓦礫が近くの水域に落ちたり、次の大雨が土手の浸食や土石流を引き起こして流れを変えたりせき止めたり、焼けた木や岩、泥などが水域に流れ込んだりすることがよくあるのです。
そうなると、デリケートな魚のエラを傷つけ、詰まらせ、稚魚や卵を窒息させます。
植物が燃やされると、リンや窒素が増加し、藻類が異常発生しやすくなります。
水質と生息環境の変化により、外来種が侵入しやすくなることも、在来魚にとっては危険です。餌や場所をめぐって争いが置いたり、在来種が食べられてしまうこともあるのです。
藻類の異常発生が水中の酸素量を減らす
藻類の大量発生は、一見すると生態系にとって素晴らしいことのように聞こえます。
多くの生物が藻類を主な食料源としているからです。
しかし、大量な藻類は、河床への日光を遮り、水中の酸素を奪います。また、水生生物が食べ残した藻の大部分は、やがて死んで底に沈みます。そうなると藻類の分解者が水中の酸素を大量に消費してしまうのです。
酸素を必要とする水生生物にとって、これはかなり悪いニュースです。
しかし、メリットもあります。
川に流れ出た丸太や砂利がもたらす魚へのメリット
たしかに山火事の熱で水温が上がると、魚は直接影響を受けます。
しかし、長期的には、小川や川の水質が改善される可能性があります。
水中に落ちた木や岩が水中の魚やその他の生物にとっての新しい生息地を提供し、サケ科魚類の産卵に必要な石や砂利も運ばれます。水中の丸太の数が増えれば、幼魚の隠れ家も増えます。
また、丸太や岩があるスポットは、水深が深くなり、浅瀬よりも水温が低くなります。水温が低くないと生きられない魚類にとってこれはありがたいことです。
エサが手に入るかどうか分からないまま水温の高い場所を泳ぎ回ることは、魚にとってエネルギー消費量が増え、大きなストレスにもなるため、水温の低いスポットを確保することは、命にかかわる大切な問題なのです。
火災の数年後に昆虫の個体数が増加したという調査結果もあります。
防火剤の使用がもたらす悪影響
山火事で魚の生態系を乱すのは、自然だけではありません。
人間は、消火にあたる際に、炎に土や粘度、水をかけたり、山火事が広がる前に草や木をすべて刈り取ったり濡らしたりして、炎を食い止めようとします。
大きな山火事の消化には、化学系消火剤のように環境に負荷の高いものが要求されることも。
アンモニアや窒素を多く含む化合物は、高濃度になると魚や水中の生物に有害となり、さらに藻類の繁殖を引き起こします。
全ての山火事をなくそうとしてはいけない
それなら、このような生態系の混乱を引き起こす前に山火事をなくせばよいと思うかもしれません。
しかし、アメリカ太平洋北西部の研究者たちは、すべての山火事を撲滅しようとするのは逆効果であることを発見しました。
実際に、ウェナッチー川(wenatchee river)流域では、そのようなやり方が魚類の生息に悪影響を及ぼしていることが判明しました。
カリフォルニアでも、大規模な山火事が頻繁に起こるようになったのは、アメリカ合衆国森林局ができた1905年。森林火災を撲滅するための取り組みが、かえって大規模な火災を発生しやすくしたのです。
そもそも山火事は、すべての動植物にとって必ずしも悪いことばかりではありません。
火事の後、灰を肥料にした肥沃な大地で成長した植物は、動物に栄養価の高い食べ物を提供します。
サケやニジマスは山火事に強い
サケやマスは山火事が発生した地域に適応しており、通常、数年以内に回復することができるといわれています。
彼らは「遡上性」、つまり稚魚のうちは海へ移動し、成魚になると淡水河川に戻り、産卵するからです。
春、秋、晩秋など季節ごとの「遡上」があり、すべての成魚が同じ年に戻ってくるわけではないため、集団の一部が山火事、土砂崩れ、干ばつなどの自然災害から生き延びる可能性が高くなります。
逆に、山火事がなければ、川に丸太の塊や岩が少なくなり、サケの生息に必要な生態系が形成されにくくなります。
このため、キングサーモン(chinook salmon)や岩魚などの絶滅危惧種は、生息地の損失など他の要因と相まって、減少の一途をたどるのです。
ある程度の山火事は許容しなければならない
幸いにも2015年、これらの研究者は、私たち人間が火災管理戦略を変更した場合に、これらの脆弱な魚の個体群がどのように回復するかをモデル化できました。
彼らは、異なる火事の規模や生息地のつながりを考えてシナリオをモデル化し、より温暖な気候のもとでは、一部の森林火災を許容し、火事によって岩魚の生息に必要な冷たい水たまりを含む多様な生息地を作り出すことで、水生生物の生活はより改善されると予測したのです。
山火事を完全に防ごうとするのではなく、森林を管理し、定期的かつ小規模な山火事を許容することが、温暖な気候の中でこの脆弱な種を支えるのに役立つと主張しました。
しかし、難しい現実もあります。
気温が高くて乾燥した大地では、高温・高強度の大規模な山火事が頻発しやすくなります。
穏やかに燃える小規模の山火事は、時間の経過とともに水陸の両方で生態系の多様性と豊かさを改善しますが、大規模な山火事は、深刻な被害をもたらし、再生に最も時間がかかってしまうのです。
山火事には「火で火に対抗」する
カリフォルニア州の山間部では、ヤギやシカなどの草食動物の群れに草を食べさせて山火事の大規模化を防ぐ試みが行われましたが、それが逆に生態系を崩し、大規模火災の原因となる低木や針葉樹を増やす危険性を高めてしまいました。
どうやら、昆虫、小動物、草食動物などそこに生息する在来種の特性が、複雑な相互作用によって火災リスクを減らしていたのです。
研究者らは、このような過去の取り組みによって規模の大きな火災がますます増えてしまったことから、今後の防火管理は文字通り「火には火で」対抗する必要があることを学びました。
小規模な山火事を起こして大規模な山火事を減らす試み
研究では、低強度の山火事を模した火災で、森林生態系全体を破壊するような超強烈な火災の燃料となる低木や草の一部を取り除くことができることが分かっています。
今やほとんど見られなくなった「焼き畑」や「野焼き」は、実は、小規模な火災で大規模な山火事を防ぐための有効な手段だったようです。
山火事を防ぐことができるのは私たちだけかもしれません。
しかし、山火事が多くの生態系にとって重要な要素であることは、心に留めておかなければなりません。
適切な森林管理によって、火は生態系を繁栄させることができるのです。
たとえ、まったく燃えない場所であってもです。
参照元:
・ Boise National Forest (fs.fed.us)
・Why Fish Care About Forest Fires