圧搾空気を使ったエアスプレー缶が冷える理由

圧搾空気を使ったエアダスター缶やダストスプレー缶の仕組み知的な好奇心

実は、圧搾空気を使ったエアダスター缶やダストスプレー缶がガスを勢いよく噴射する仕組みや缶が冷却されるのは、圧力鍋と同じ原理です。

缶を逆さにしたり、振ったりと誤った使い方をしたときには、缶に凍傷の警告が表示されるほど冷たくなることもありますが、それには理由があります。

さらにその理由を逆手にとって利用したコールドスプレーもあります。

以下に、圧搾空気を使ったエアダスター缶の仕組みやスプレーすると冷却される原因を紹介します。

圧縮空気缶をガスが通るとバルブが冷却される

膨張する気体が熱くなるか冷たくなるか(または、どれくらい熱くなるか冷たくなるか)は、気体の膨張の仕方によって決まります。

「通常の」気体の膨張に関連する方程式を適用すると、圧縮空気缶の中の気体は室温から摂氏-100度くらいまで下がるはずですが、

気体の膨張と冷却の方程式

実際には、圧縮空気缶から出る気体はそこまでは冷たくはありません。

なぜなら、缶の蓋を完全に取り払って、気体を通常の方法で全方向に自由に膨張させるならこの方程式が当てはまるかもしれませんが、圧縮空気缶ではフタを取るなんてありえないからです。

圧縮空気缶の場合、実際には細いバルブを通してガスが押し出されています。

空気圧縮缶からガスがでる仕組み

そして、この違いが重要なのです(ジュールトムソン効果)。

バルブを通過したガスは外に出ると単に膨張するだけでなく、その後ろにある残りのガスによって押し出されています。

バルブを通る気体にかかる圧力

そして、この背後からの圧縮は、膨張による冷却を打ち消すのに十分な熱エネルギーをガスに与えているのです。

気体の法則で言えば、温度が一定のとき、圧力が下がると反比例して体積が増える(ボイルの法則pV = k(一定))ので、圧力×体積はほぼ一定です。しかし、この場合はそうではありません。

室温にあるほとんどの気体は、バルブを通過するときにわずかに冷たくなります。

自転車のタイヤから空気を抜くと、バルブが冷えますが、それほど冷たくはありませんね。

同様に、圧縮空気缶から出た空気は、ノズルを通過するという過程で少し冷やされているのです。

さらに、これだけが缶の冷却に寄与しているわけではありません。

勢いよくガスを噴射できるのは、缶内部の液体のおかげ

本当の冷却力は、圧縮空気缶に貼られている「振らないでください」「逆さにして噴射しないでください」という警告ラベルにヒントがあります。

圧縮空気缶を実際に振ってみてください。中には気体だけでなく液体も入っていることがすぐにわかりますね。

この液体は、常温常圧では気体ですが、大気圧の6倍程度まで加圧すると液体になる1,1-ジフルオロエタンのような液体です。

そして、この液体は、圧縮空気缶には欠かせない成分なのです。

缶の中で、1,1-ジフルオロエタンは液体と気体が平衡状態にあり、缶の上部を6気圧に保つために十分な量の液体が気化(沸騰)し、残りの部分は液体のまま維持されています。

大気圧の6倍もあるので、バルブを開けるとジフルオロエタンが勢いよく出てくるわけです。

缶の圧力を保つには、再び6気圧に達するまでさらに液体を気化(沸騰)させる必要があるため、缶の中の液体は少しずつ減って新しい平衡に達しています。

このようにして、缶の中の液体がほとんどなくなっても、ガスは一定の強さで噴出し続けることができるのです。

液体が気化するときに缶の熱を奪う

しかし、温度の問題でもっと重要なことは、液相から気相への変化には膨大なエネルギーが必要であり、そのエネルギーはどこから来るかということです。

それは、汗の蒸発が皮膚からエネルギーを奪って体を冷やすように、圧縮空気の缶の中では気化(沸騰)が液体からエネルギーを奪って体(缶)を冷やすのです。

内容物の約10%を噴霧すると、残りの缶全体が約20℃も冷やされるのです。

これはかなり大きいですね。

空気圧縮缶は圧力鍋と同じ原理でガスを噴射する

沸騰した物質がそれ自体を冷却するのは直感に反すると思われる方は、圧力鍋を見ればその仕組みがわかりやすいでしょう。

水は通常、100℃以上で沸騰しますが、蒸気を封じ込めることで圧力が上昇し、鍋の中の水は水の沸点をはるかに超えた状態でも液体を保つことができます。これは、圧縮空気缶を振ったり逆さまにしたりして内部が高圧になった状態と同じ

また、圧力鍋のノズルから水蒸気を放出すると、内部の圧力が下がり、少しづつ水が水蒸気として沸騰し、鍋に残った水の温度が下がりますが、これも圧縮空気缶からジフルオロエタンを噴出したときに缶の温度が下がるのと同じ状態です。

そして、そのまま蒸気を出し続ければ、やがて水は通常の沸点である100度まで冷えますが、これも圧縮空気の缶をスプレーし続けたときに、中のジフルオロエタンが通常の沸点であるマイナス25度まで冷えるのと同じです。

圧縮空気缶は、文字通り1,1-ジフルオロエタンの圧力鍋なのです。

圧力鍋を振ったり、逆さまにしたりしてはいけないのと同じように(超高温の水をそこらじゅうにまき散らしたいのでなければ)、圧縮空気の缶も振ったり、逆さまにしたりするとあまりうまく機能しません。

液化したままのガスを逆手に取って利用したコールドスプレー

缶の中のジフルオロエタンが(振ったり逆さにしたりすることで)高圧によって液化したままになっているので、ガスを噴出する代わりに、気化していない液体が噴出して、それがすぐに蒸発して接触したものを劇的に冷やす結果となるのです。

実際に、液化したままの噴射物を水にかけると、水が氷になる様子を観察することができます。それはまさに即席氷。

(ただし、ジフルオロエタンは水に溶けると有害なので、食品関係には絶対に使わないでください)

実は、この液化した状態のままガスが出る事を逆手に取って肌の冷却用に考えられたコールドスプレーもあります。

圧縮空気缶がスプレーすると冷たくなる理由

つまり、圧縮空気缶が冷たい原因は、「圧縮された空気が噴射されたことが直接の原因ではない」ということを理解することで解明できるのです。

1,1-ジフルオロエタンと呼ばれる物質を加圧希釈した缶で、(噴射によって)スプレー内部の圧力を下げると、より多くの液体が気化(沸騰)し、残った液体を冷却することができるのが大きな理由だったのです。

ブラックホールや量子力学もかっこいいですが、私たちが日常的に接しているものほど、具体的で親しみやすい科学の材料はありません。

もしあなたが、日常的な物の物理をもっと深く知りたいと思ったら、冷蔵庫や給水塔、自転車など、日用品の物理を学んでみるのもおもしろいかもしれません。

参照元:Why Do Compressed Air Cans Get Cold?