ガラスは固体です。
しかし、ガラスの分子構造は、液体にとてもよく似ているため、非常にゆっくりではありますが、あたかも液体のように動き続けている可能性があります。
実際に視覚的な変化が見られるまでには、何百万年もかかるかもしれませんが。
「ガラスは液体である」これは、よく聞く俗説で、古い教会の窓ガラスの下側が膨らんでいることからそう考えられるようになったようです。
ガラスが液体だと信じる人らは、その理由を「ガラスが下に向かってゆっくりと流れているから膨らんだのだ」と主張しました。
しかし、この点については、自分の常識を信じてください。
ガラスは液体ではありません。
一般的にはガラスは固体だと考えられています。
その意味するところはちょっと複雑で、なぜそのような不思議なことが起こるのか、いまだに謎なのです。
そこで、今回は、ガラスは液体なのか固体なのかについて、ガラスのナゾに迫って科学的に分かりやすく紹介します。
液体と固体の違い
まず、基本的なことから、液体と固体の違いについて説明しましょう。
どちらも基本的には無数の原子や分子の集まりです。
違うのは、液体の場合、原子や分子がゴチャゴチャに散りばめられていて、お互いに衝突しながら自由に行き来することができます。
対して固体では、原子や分子がその場にとどまり、安定した繰り返し構造で規則的に配置されています。
私たちは、その規則的なパターンの中で原子や分子がどのような位置にあるかを見ることができ、また予測することもできるのです。
ほとんどの固体は結晶構造をもつ
氷やダイヤモンドのような多くの固体でみられる安定した繰り返しの配置構造を「結晶構造」と呼びます。
私たちが「水晶」と呼んでいる物質もその一つです。
水晶を拡大してみると、同じのパターンの繰り返し構造が見えます。
もちろん、このような結晶構造をもつ物質は、他にもたくさんあります。
身近な水で考えてみましょう。水は、大気圧と0℃の環境下で結晶性の固体となります。これを「氷」と呼びます。
氷を溶かしてから再び凍らせれば、再び結晶化しますね。
一方で、ガラスは違います。
ガラスと一般的な固体の違い
ガラスは主に二酸化珪素からなる砂でできています。シリカとも呼ばれています。
そして、砂の中のシリカは結晶構造を持っています。
ガラスを作るためにこの種の砂を過熱して溶けた状態にすると、赤く光ってまるで水のように流れる液体になりますね。
しかし、液体化したガラスを冷やしても、必ずしも元の結晶構造に戻るわけではありません。
その代わりに、無定形固体(非晶体、アモルファスともいう)になります。
ガラスの他にも、無定形固体には、アスファルトやペットボトル、セラミック、ゴムなどがあります。
液体のような構造をもつガラス
私たちが窓に使っているガラスは、ケイ素と酸素の原子に加えて、余分な添加物があっても、従来の固体と同じようにその場にとどまっています。
そして、それらが溶けあって互いにつながり、広大なネットワークを形成しているのです。
しかし、この相互につながりあった構造には規則性がなく、長期的に繰り返されるパターンがありません。
液体のように無秩序に見えます。
しかし、どこから見ても固体のように振る舞っているのです。
なぜこのようなことが起こるのか、なぜガラスは冷えても結晶化しないのか。
実はこれが謎なんです。
物理学上の大きな謎の1つです。
ガラスは有用性が高い
ガラスがどのように形成されるのかを解明することは、実用的な意味を持ちます。
例えば、科学者やエンジニアは、さまざまな金属をガラスに組み込みたいと思っています。
金属ガラスは非常に強く、耐久性があるので、医療機器や電子機器のフレーム、さらには宇宙空間の部品などにも利用できるかもしれません。
しかし、ガラスを完全に理解していないため、まだこの能力を習得していません。
ガラスの正確な性質はナゾ
ガラス形成の重要なステップは、ガラスを急速に冷やすことだとわかっています。
シリコンや酸素をゆっくりと冷やすと、ガラスではなく、秩序の高い石英の結晶ができます。
しかし、急冷時に何が起こって、分子が落ちていかないのかはよくわかっていません。
また、他にも説明しなければならない不思議な点がいくつかあります。
技術的には、ガラス中の原子が動き続けることは可能で、非常にゆっくりではありますが、あたかも液体のように動き続けている可能性があります。
例えば、実際に視覚的な変化が見られるまでには、何百万年もかかるかもしれません。
ある見積もりでは、窓が完全に緩んで水たまりになるには、宇宙の年齢よりも長い時間がかかるといわれています。
また、きわめて長い時間をかけて、ガラスが無定形固体から結晶に変化する可能性もあります。
このように、ガラスの正確な性質については、いまだに議論が続いているのです。
ガラスが液体から無定形固体に冷えるときに何が起こっているのか
ガラスの定義は複数あり、中には「液体の一種」とするものもあるようです。
いずれにせよ、なぜガラスができるのかを説明する簡単な答えはありません。
良いニュースは、物質科学者たちがこの問題を研究し、少しずつガラスに対しての知識が増えていることです。
例えば、2015年にイギリスと日本の研究者が発表した論文では、コンピュータを使って、ガラスの中の個々の粒子が冷却中にどのように行動するかが示されました。
その結果、ある粒子群はゆっくりと弛緩して幾何学的なパターンを形成し、一方で、別の粒子群は急速に緩和して安定性の低い構造を形成することがわかりました。
つまり、ガラスの粒子は、冷却中にさまざまな挙動を示すことがわかったのです。
しかし、それがすべての答えではないことは明らかです。
そもそもなぜ古いガラス窓は下側が膨れているのか?
そこで2021年1月、別のグループが、シミュレーションと実験データを用いてガラスが液体から無定形固体に冷えるときに何が起こっているのかを調べました。
液体内に固体粒子が分散した液(懸濁液)を、高度な顕微鏡で見て、液を動かしながら粒子の位置や方向がどのように変化するかその様子を観察しました。
そして、この研究により、さまざまな粒子群の変化が明らかになりましたが、まだガラスについては多くの奇妙な謎が残されています。
さて、なぜ古いガラス窓が膨らむのかというと、答えは簡単です。
昔、ガラスを流し込んでいた頃は、技術的に完全に平らなガラスを作るのは難しかったため、ガラスを取り付ける際に、作業員は厚い方、重い方を下にして取り付けていました。
ただその方が安定するからという理由です。
ガラスの未来は明るい
いかがでしたか、ガラスといえば、私たちにはとても身近な存在で、ありとあらゆるところで目にしています。
しかし、これだけ種類も数も豊富にあるガラスについて、まだたくさんのナゾが残されているなんて不思議ですね。
ガラスには素晴らしい未来があります。家のガラスで太陽光を集めて発電する生活も近い将来訪れるかもしれません。
これから、奇妙なガラスの性質が少しずつ解き明かされていくのが楽しみですね。