今までに、なぜガラスは透明なのか疑問に思ったことはありませんか?
たしかに、こんなに硬い物質が透明なら、ぼくたちパンダが透明であっても不思議ではないよね。
実は、パンダも人間も透明です。ただし、それはX線で見た場合の話。
では、X線とヒトの目で見える波長(可視光線)は何が違うのかな?
その答えを探るために、ミクロの世界までズームアップして考えてみましょう。
今回は、原子レベルでのとてもおもしろい話「ガラスが透明な理由」について、科学的な視点で紹介します。
「原子」というと、ちょっと難しそうに感じるかもしれませんが、ガラスが透明な理由を知るには、まずその「もと」となるガラスの正体や光(電磁波)について、目には見えないミクロの世界で考える必要があります。
そして、そこから原子の仕組みと光エネルギーの関係を考えると、私たちが透明人間でない理由も自然と分かってきますよ。
原子は、原子核と電子からなる
世の中のあらゆるものが、「原子」と呼ばれる想像もつかないほど小さな粒子からできています。
原子の大きさは、なんと1億分の1cm(0.1ナノメートル)。中心にある原子核においては、その1万分の1から10万分の1以下。
もし地球が1つの巨大な原子だったら、原子核のサイズは、野球場の中にすっぽりと収まるでしょう。それほど、目には見えない原子や分子のミクロの世界は小さいのです。
それでは、地球の中心にある野球場(原子核)の周りにはなにがあるのでしょうか?
そこには、電子があります。
野球場の外の世界には、ただの「粒子」ではなく、「波」の性質もあわせもったとても小さな電子がありますが、実際には、そのほとんどが何もない空間というふしぎな雲のような世界なのです。
原子が結びついて分子となる
原子同士の間で、この電子がなかだちとして結びつく(媒介)と、分子と呼ばれる粒子ができます。
一番身近なところでいうと、空気中の21%を占める酸素分子(O2)かもしれません。これは、酸素原子(O)が2つ結びついたものです。水分子(H20)は、水素原子(H)が2つと酸素原子(O)からなります。
もちろん人間も例外ではなく、原子からなります。原子が結びついて分子となり、その分子の集合体が細胞に、細胞から臓器がつくられるのです。
そして、私たちが透明になるには、電磁波が人間の原子に吸収、または錯乱されないで内部を通り抜ける必要があります。
ここでいう電磁波とは、可視光線(ヒトの目で見える波長の光)のことです。
電磁波は、種類によって異なる波長とエネルギーを持つ
電磁波と呼ばれるものには、光(可視光)より波長が短く(エネルギーが)強いX線をはじめ、紫外線や赤外線など他にもあり、それぞれに波長とエネルギー量が異なるため、電磁波の種類によって通り抜けられる物質も違ってきます。
たとえば、私たちの体は、可視光では透明ではありません(透過しない)が、X線では透明(光を透過するため、体の向こう側が見通せる)です。
一方で、ガラスは、可視光(線)に対しても透明です。
それでは、なぜ光は、人間の体やレンガ、鉄やチョコレートアイスクリームなどの原子を透過しないのに、ガラスは透過するのでしょうか?
ガラスは光を錯乱せずに透過させる
ガラスを原子レベルまでズームインすると、ガラスはケイ素と酸素の原子の束でできています。
これは、砂粒の主成分と同じで、これらが結びついたものが二酸化ケイ素(SiO2)。ちなみに、地球の表層部「地殻」に最も多くあるのもこの酸素(O)とケイ素(Si)です。
(詳しくは「砂が不足している?限りある天然資源「砂」の代替品は見つかるのか」をご覧ください)
この二酸化ケイ素が結晶化したものが、ガラスや砂の主成分として使われている石英(水晶)です。
ガラスは、この結晶を熱で溶かしてつくられます。加熱されると、二酸化ケイ素の分子は、熱エネルギーで振動して分子間の結合が壊れ、動きまわれるほど流動的な液体になるのです。
しかし、この液体は、冷ましても再び結晶体には戻りません。
冷却スピードが速いため、分子同士が規則正しく並ぶ(結晶化)時間もないうちに、分子のエネルギーが失われて動きが固まり、固体でありながら結晶化しないというごちゃごちゃな状態になるからです。
繰り返しますが、物が透明であるのには、入ってきた光を内部で散乱しないことが条件です。
このように、原子の規則的な配列がないランダムな構造をもつ非晶体は、まるで液体のような状態であるため、結晶の境目がなく、光が入ってきても錯乱しません。
ガラスが透明な理由はそれだけではありません。
光は、ガラスに吸収されずにそのまま通り抜ける(透過)ため、ガラスの向こう側のものが透けて見えるのです。
何かがどれだけ透明であるかは、「光のエネルギー量」と「原子の電子」の関係に依存している
すべての原子は、波動的、量子的な電子雲に囲まれています。
原子核の周りの電子はどこにでもあるわけではありません。電子は特定のエネルギーレベルで、決められた軌道を回っているのです。
しかし、運よくちょうどよいエネルギーを持ってやってきた光子とぶつかると、電子は、光子のエネルギーを吸収してより高いエネルギーレベルに引き上げることができます(原子核からより離れた軌道に飛び移れる)。
しかし、もしその光子がちょうど良いエネルギー量を持っていなければ、それは吸収されずにそのまま通り過ぎてしまうのです。
分かりやすくマリオのゲームでたとえてみましょう。私が電子だと想像してください。私は低エネルギーで、ジャンプ力がなく、上の壁までジャンプが届きません(原子核の近くの軌道を回った状態)。
壁に登りたいなら、より高いエネルギーレベルをもった光の稲妻に当たってエネルギーを吸収しなければなりません。
しかし、このときの光のエネルギーレベルが高すぎると、一気に上の壁を通り越してしまい、うまく着地できません。
光のエネルギーレベルは、低すぎても高すぎてもダメで、ちょうど良い量のエネルギーを持った光の稲妻でなければ使えないのです。
ガラスは光を吸収せずに透過させる
ガラスを構成する特定の原子については、電子が回るための決められた軌道が、それぞれ離れているため、外の軌道に飛び移るにはある程度大きなエネルギー量が必要になります。
可視光ではこの電子を次のレベルに引き上げるのに十分なエネルギー量を持っていないため、そのまま光は通過してしまうのです。
それが、可視光線がガラスを構成する原子に吸収されずに透過して物体の向こう側が見通せる状態になる理由です。
しかし、紫外線の光子は、その電子をパワーアップさせるのにちょうど良い量のエネルギーを持っているので、吸収されてしまいます。
それが、窓からは日焼けしにくい理由です。ほとんどのガラスが紫外線を通さずに吸収してしまうためだったのです。
人間が透明でない理由
それぞれの元素は、その電子が光を吸収するために必要とするエネルギー量が異なります。
そして、可視光は、人間の原子に当たると吸収される(透過しない)レベルと同じ量のエネルギーをもっています。
そのため、いくつかの光は皮膚細胞の最上層を通過するかもしれませんが、数ミリ以内にはすべての光子が吸収されつくしてしまうのです。
それが私たちが透明でない理由です。
しかし、X線のように、可視光線よりも高い光エネルギーをもつ波を当てれば、私たちは透明になるのです。
さて、私たちが透明人間ではない理由は分かりましたが、そもそも、原子がほとんど空洞であるなら、なぜそのまま電信柱や壁を通り抜けることができないのでしょうか?
この疑問については、次回原子がほぼ空洞なら、私たちはなぜ物に触れるのか?で分かりやすく紹介していきましょう。