今までに「果物が甘く柔らかくなるまで熟れるのを待っていたら、腐らせてしまった」といった経験はありませんか。
今回は、そんなあなたのために「果物を腐らせない秘訣」について、そもそも果物がなぜ、どのようにして熟していくのかをもとに適切な果物の保管方法とあわせて科学に基づいて紹介します。
実は、果物には、リンゴやバナナのように熟すのを待つとやわらかくなって甘味が増す「追熟」タイプと、パイナップルや柑橘類のように待てば待つほど腐敗がすすんでしまうタイプがあります。
収穫後には追熟しないタイプの果物は、成熟してから収穫され、その後はいくら待っても甘味が増すことはありません。
それどころか、放置しすぎるとかえって腐らせてしまいます。
以下に、追熟がすすむ果物と進まない果物の違いをもとに「果物を腐らせない秘訣」を科学的にみていきましょう。
植物には繁殖上の問題がある
植物には動物のような足はありません。
それは、植物にとって繁殖上大きな問題となります。
ほとんどの植物がその場にじっと留まり、種子が発芽して成長するためのスペースと資源がある場所に種を運んでくれる動物に頼っているのです。
しかし、種を動物に早く食べられてしまうことは望んでいません。
種から芽が出る準備が整う前に運ばれてしまっては、種が無駄になって子孫を残せなくなってしまうからです。
このジレンマに対する答えの1つが果実にあります。
種に発芽の準備が整うと果実は熟れる
果実には、植物が子孫を残すための種子が入っています。
発芽の準備が整う前の種を含んだ果物は、厚い皮と堅い果実で覆われ、ときには苦い化学物質を出して、生き物を寄せ付けない防御システムのようなカモフラージュが働いています。
しかし、種子が成熟すると、果実は変化し始めます。
皮が薄くなり、堅くて苦い果肉は、柔らかくて甘い果実に変わるのです。
そして、酵素が細胞壁を分解し、できた隙間からおいしそうな匂いを漂わせ、鮮やかな色で動物を誘います。
この変化が終わる頃を、私たちは「熟成」と呼びます。この段階になると、果実と一緒に種子を運ぶ動物にとって果物はたまらなく魅力的なものとなるのです。
枝から離れたら熟成が停止する果物
しかし、すべての果物が同じメカニズムで甘く熟成するわけではありません。
リンゴとオレンジの違いでたとえてみましょう。
オレンジをはじめパイナップルやブドウなどの果実は、植物の他の部位から糖分や熟成ホルモンを取り込んで熟します。
これらの成分を多く取り込むことで、果実はより美味しく、より魅力的な風味になっていくのです。
しかし、果実が落下したり、収穫されたりして、植物とのつながりがなくなると、熟成は停止します。
そのため、これらの果物は、十分に熟成するのを待ってから収穫されます。
これが、キッチンでパイナップルを追熟させることは期待できない理由で、残念ながら放置しすぎるとかえって傷みや腐敗がすすむだけになってしまうのです。
台所でも追熟できる果物
一方で、リンゴやバナナ、桃などの果物は、植物の他の部分と繋がっていなくてもどんどん甘く美味しくなります。
要は、コードレスで熟成できる果物です。
これらの果物は、種が成熟するまでに既に大量のデンプンを実の中に蓄えており、後は酵素を使ってそのデンプンを甘い糖分に変換するだけ。
これを「追熟」といい、放置しておくだけで果実はやわらかく、甘味や風味も変化します。
尚かつ、この糖への変換を調整する「エチレン」と呼ばれる植物ホルモンは、果実自身が生産しているのです。
熟成後のエチレンの発生量は一気に増え、近くにある果物まで追熟させることができます。
逆に近くで同様に熟している他のコードレスな果物からエチレンを吸収することもあります。
たとえば、まだ固いキウイフルーツやアボカドなどを、エチレンの生成量が多いリンゴや桃のそばに置くと、追熟を促します。ただし、熟成後は、腐るのも早くなります。
果物によって熟成方法が違う理由
バナナをはじめ、木や茎から落ちても、追加の栄養分を必要としない果物は、森の中やキッチンでもどこでも自らの果実を熟すことができるのね。
これは植物にとっては、とても便利だね。
ではなぜすべての果物がコードレスで追熟できないの?
正確なことは分かってはいませんが、果物は、種を運んでくれる動物にアクセスしやすい場所で熟すのが有利だからではないかと考えられています。
例えば、マンゴーのような比較的大きな果実は、一般的に地上を歩く大きな動物によって食べられて、彼らの糞によって種が運ばれるため、地上に落ちてから熟した方が動物へのアクセスがよくなり、より大きなメリットが得られます。
一方で、サクランボのような小さな果実は、木の上で暮らす小さな動物によって運ばれる傾向があるので、高いところで枝にぶら下がったまま熟す方が良いのかもしれません。
果物を腐らせない秘訣とは?果物をおいしく食べる方法
現代人の多くは、実際にスーパーマーケットでしか果物を見る機会がないので、これらの果物がどのように熟していくのかを知るのは難しいかもしれません。
そのため、最後に果物を腐らせずに、おいしく食べるためのヒントを紹介します。
一般的に、自らのエチレンガスによってキッチンで熟成がすすむものには「リンゴ、イチジク、マンゴー、パパイヤ、アボカド、パッションフルーツ、キウイ、桃、バナナ、トマト」などがあります。
一方で、枝から落ちた時点で既に熟成しており、収穫後の追熟は期待できない果物は「サクランボ、ザクロ、ブルーベリー、ラズベリー、イチゴ、柑橘類、ブドウ、パイナップル」など。
ちなみに、キュウリやブロッコリー、キャベツやレタスなどの葉野菜は、自らはあまりエチレンガスを生産しなくても、リンゴなどエチレンガスの生成量が多い果物と一緒に保存することで影響を受けて腐敗しやすくなるので注意してください。
また、エチレンガスには、じゃがいもの発芽を遅らせる特徴もあるので、リンゴの近くでじゃがいも保存するのもおすすめです。