なぜトマトは冷蔵庫で保存してはだめなのか?

2019年9月 3日

今までに「トマトは冷蔵庫で保存すべきではない」と聞いた経験はありませんか?

実のところ、それはある意味では正解です。

科学者は、トマトを20度未満の温度下におくと、細胞の構造や機能における遺伝子情報が変換されてしまうこと(遺伝子発現)を示しています。

それによって影響を受けるのが、トマトのおいしさの要素の一つである「香り」です。実際に、研究がすすむにつれて、トマトを冷蔵庫で保存すると、味の変化はなくとも、風味の多くが失われることも分かってきました。

ここでは、冷蔵庫で保存したトマトがなぜおいしくなくなったように感じるのかについて、研究をもとに分かりやすく紹介します。

食べ物の風味はどのように感じているのか

一般的に、私たちが食べ物から感じる風味は、舌に付着する特定の化学物質の混合物によって決まると考えられています。

つまり、風味を左右するのは、舌で味覚を感じる役割のある小さな感覚器「味蕾(みらい)」に到達した刺激によるものだという考えです。

それは、たしかに正しい面もありますが、正確にいうとそれだけでなく、私たちは、食べ物を食べたり、飲み物を飲んだりするときに得られる全体的な印象によって、味や匂いを感じ取っているのです。

味蕾が区別できるのは、甘い、塩辛い、酸っぱい、苦い、そして、うま味といったほんの一握りの特融の味に限られています。

一方で、香りは実質的に無限です。

一部の研究では、平均的な人の鼻は1兆にもおよぶ異なる匂いを区別できることが示されており、その多様性こそが、食べ物から感じる風味を決定づける最大要因が「香り」である理由を説明しています。

子供が、嫌いな物を食べるときに鼻をつまむのもそのためです。

食べ物の風味は香りに依存しているため、鼻をふさいで何かの臭いをブロックするだけで、実際に風味が大幅に減少すると考えられています。

そして、それは、冷蔵庫でトマトを保存すべきでないという意見にもつながっていきます。

トマトの風味は摘み取った後も変化する

トマトの風味は、おいしい糖と酸の組み合わせの結果だけではなく、トマトに含まれている芳香化合物(ほうこうかごうぶつ)と呼ばれる化学物質のおかげでもあります。

この芳香をもつ化学物質の分子は空気中に揮発しやすく、空気中に漂う分子が嗅覚まで届くことによって、私たちはにおいを感知しているのです。

そして、この芳香化合物は、摘み取った後の果物でも作り続けられ、その多くは、熟す過程で形成されます。

トマトでいうと、摘み取られた後でも、たくさんの生きた細胞が芳香化合物を形成し、他のものを分解し続けて、全体的な風味を時間とともに変化させているのです。

冷蔵庫に入れた完熟トマトは香りの分子が減少する

2016年の研究では、研究者が完熟トマトを冷蔵庫に7日間入れた場合、被験者は、これらの冷やされたトマトの味が、新鮮なトマトよりもはるかに劣ると評価しました。

しかし、味の重要な要素であるはずの糖分と酸のレベルは、新鮮なものと冷蔵庫で保管されたものの間で違いはなかったのです。

違うのは、トマトに含まれる芳香化合物の量で、冷蔵庫で保存されたトマトが作り出す化合物は、65%も減少したと示されました。

その結果、研究チームは、トマトの風味の変化は、実際の味の変化によるものではなく、香り分子の減少によるものだと結論付けました。

さらに深くこの研究を掘り下げていくと、研究者らは、冷蔵庫で保存したトマトには、ある特定の分子合成に関わる遺伝子発現の減少がみられることを発見しました。

それらは、分枝鎖アミノ酸、脂肪酸、エステルを含むトマトの香りに関わる重要な芳香化合物の合成に関連したものです。

研究者たちは、この結果は、寒いときにトマトがエネルギーを節約するための進化的反応である可能性があると仮説を立てましたが、それを確認するにはさらなる証拠が必要となります。

農作物は、熟すときに芳香化合物が作られる

冷蔵庫に保存することによって台無しになる農産物はトマトだけではありません。

一般的には、冷蔵庫に入れた後、さまざまな果物の味が落ちるように感じるのは、低温が熟成プロセスを止めるためだと考えられています。

熟した果実からは、さまざまな芳香化合物が生成され、それによって糖やその他のおいしさのもとになる分子が増加するためです。

つまり、果物の熟度が低いほど、おいしい分子は少ないことを意味します。

しかし、熟す前の果物を冷蔵庫から取り出してテーブルの上に置くと、再び熟すプロセスが始まり、ほとんどの風味は回復することも分かっています。

トマトは熟すまでは冷蔵庫に入れてはいけない

先に述べた2016年の研究で気を付けなければならないのは、熟す前のトマトから調査を開始したのではなく、熟したトマトで調査を行ったという点です。

したがって、風味が失われたのは、完全に熟すのを妨げたからでも、風味が回復しなかったからでもありません。

基本的に、トマトの熟成プロセスには、風味を失わずに冷蔵できるポイントはなく、この種の低温誘導による風味の損失は、他の熟した果実でも起こる可能性がありますが、現時点では、実際に確認できてはいません。

どちらにしても、最高の味の農産物が必要な場合は、果実が熟するまでは室温に置いておき、それまでは冷蔵庫に入れないでください。

おいしいトマトが食べたいなら

しかし、本当においしいトマトが食べたいなら、熟すのを待つだけでなく、おそらくもっと色付きにむらがあるものを選ぶ必要があるのかもしれません。

お店で見られる赤いトマトは、水っぽくて味が良くないことが多いからです。

過去に、科学者たちは、色むらがなく全体的に統一された赤い色のトマトは、甘みを抑制する遺伝的特性があることを発見しました。

これは、特定の遺伝子が、GLK2と呼ばれる葉緑体の生成に関わるタンパク質の働きを抑えるためです。葉緑体といえば、植物が光を吸収して糖に変えるのに必要な色素のひとつで、この糖は、トマトに風味を与える大きな要素の一つでもあります。

つまり、トマトのおいしさは、糖分が全てではありませんが、そういった色むらのない真っ赤なトマトは、特定の遺伝子によって甘みに影響がある可能性が考えられるようです。

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