カビが生えたパンはきれいな部分でも食べてはいけない理由

2019年1月11日

目の前にはおいしそうなサンドイッチ。

2枚の食パンに挟まれたレタスにトマトにチーズ、卵。

一口かぶりつきそうになったそのとき、パンにカビを発見。さぁ、あなたならどうしますか?

幸いにも、一部のカビを避けてしまえば、きれいな部分だけ食べられそうです。

しかし、残念ながら、一部でもカビが生えてしまったパンには、きれいな部分なんて存在しません。カビは、キノコと同じ真菌類だからです。

ここでは、カビの生えたパンを食べてはいけない理由について、真菌(カビ)の仕組みや私たちがカビをコントロールできない原因とあわせて科学的に分かりやすく紹介します。

パンに生えた真菌(カビ)の実態

おそらく、パンの表面に生えたカビは、簡単に見つけられるでしょう。この青みを帯びた色は、たいていカビが繁殖するためにばらまく胞子の色だといわれています。

しかし、実際には、パンの内部では、目には見えないほど細い糸状のカビの「菌糸」が、無数に枝分かれしながら広がった膨大な地下ネットワークを張り巡らせているのです。つまり、肉眼で確認された場合、カビ汚染が内部までかなり進行し、すでに手遅れの合図。

想像するだけで、気持ちのいいものではありませんね。

そこで、あなたは、同じ袋内にある他の食パンでサンドイッチを作り直そうとするかもしれませんが、それもおすすめできません。

なぜなら、カビが生えたパンで実際に目に見える部分は、カビの増殖のほんの一部分にすぎないからです。

カビは目には見えない菌糸の集合体

カビは、キノコと同じような(真菌類に分類)菌類です。

菌糸と呼ばれる数千もの細い糸状の構造(フィラメント)からなり、この菌糸を植物でいう根のように使って古くなったパンや腐ったトマトに伸ばしていき、そこで私たちの胃の酵素に似た消化酵素を放出して栄養を吸収します。

コーネル大学の真菌学者でありカビの専門家でもあるキャシー・ホッジは、カビについて次のようにいいます。

「カビは、私たちと同じように食べ物を消化しますが、ただやり方は異なります。仮にカビが人間のような姿をしているとしたら、食べ物に寝っ転がったり、肌を浸したりして消化している姿をイメージしてみると分かりやすいかもしれません。

私たちが実際に、カビの姿を目にする前に、菌糸はすでに食べ物の奥深くで広がり続けているため、仮にカビが生えた部分を切り取ったとしても、彼らの組織全体にとってはなんら問題ではありません。

それは、植物から葉を一枚剥ぎ取っても、植物が死なないのと同じなのです」

カビは見えないだけで大気中にうようよと漂っている

カビは、たった一つで何十万もの胞子を作ることができます。

空気中には、1平方メートルあたり何百ものカビの胞子が浮遊しているといわれ、1gのほこりでいうと10万以上にも相当します。

そうなると、シカゴをはじめとするいくつかの都市部では、カビの胞子数が一立方メートルあたり125,000個にも及ぶと聞いても驚くことではないかもしれません。

しかし、大気中に何百万トンも存在する胞子が、実際に目に見えたとしたら、あなたは間違いなく衝撃を受けるでしょう。

カビが生えたパンと同じ袋内のパンも食べない方がよい理由

パンに着地したカビの胞子は、そこで発芽し、パンから栄養を吸収しながら菌糸を伸ばして、先端に胞子のうを形成します。そして、胞子のうで作られた胞子を撒き散らして増殖を繰り返すのです。

無数にある胞子のうは、それぞれが何万もの胞子を放出するので、パンが入った袋の内部は、既に真菌(カビ)であふれている可能性が十分に考えられます。

すべてのカビが悪いわけではない

そうはいっても、私たちはわざとカビを口にすることがあります。私たちが好んで食べるチーズや醤油、さらにはペニシリンのような命を救う抗生物質の製造に用いられるのもカビの仲間なのです。

※ 微生物によって発酵食品ができる仕組みについては、こちらをご覧ください。
なぜ私たちは腐った(発酵)食品を好んで食べるのか?

世界初の抗生物質であるペニシリンが、偶然にも他の菌を培養中のペトリ皿(シャーレ)に付着したアオカビがつくる特殊な抗菌物質から発見されたことはよく知られています。ペニシリンは、医療分野で利用され、これまでに少なくとも2億人の命を救ったと推定されています。

シクロスポリンと呼ばれる免疫抑制薬を作るために使用されるトリポクラジウムのように、人の命を救っている種のカビもあります。

食パンで見られるカビの一種、クロコウジカビ(アスペルギルス ニガー)に関しては、世界で生産されうほとんどのクエン酸の製造に使われています。

クエン酸といえば、食品保存料や香料添加物(主に酸っぱさ」を生む酸味の成分)として利用されるとても有名な物質ですね。日本人の身近な食品、梅干しにも含まれています。

カビが生えたパンを食べるリスク

そう考えると、パンについたカビを食べる程度なら大丈夫な気がするかもしれません。

しかし、それは山できのこを食べるのと同じように危険な賭けでもあるのです。野生のきのこには、食べても大丈夫な種が数多くありますが、なかには致命的な毒性を持つきのこもあります。

同じように、カビにも何万もの種類があり、それらの多くが人体には無害である一方で、ときには人を死に至らしめるほどの毒素を生成する種も存在します。

食べ物に発生する種のカビは数多いため、アオカビだけでなく、それらの悪い影響を及ぼす有毒なカビも混ざっている可能性が十分に考えられるのです。さらに、残念ながらその食べ物が安全であるか見分けることは不可能なのです。

カビ毒を産生するおそろしいカビ

身近なところでは、空中で最もよく検出されるクラドスポリウムと呼ばれるクロカビがあります。窓際やベッド、トイレなど屋内外を問わずどこにでも1つは存在するといわれるカビです。

真菌に関する本を多数執筆しているNicholas Money氏によると、私たちの多くが、このクロカビに対して生体的に反応します。吸い込んだクラドスポリウムの胞子が肺にたまると、それが喘息やアレルギー反応の引き金となってしまうのです。

さらに悪いことに、ペニシリウムやスタキボトリスのように「マイコトキシン」と呼ばれる厄介な毒性物質を生成するカビもいます。それは、空中をただよいながら人体に入ると健康を害する可能性があり、高濃度になると認知能力にさえ影響を与えると考えられています。

2005年には、このカビ毒に侵されたスープ缶を食べた老夫婦が、激しい筋肉の震えの襲われて病院に運ばれました。

幸いにもこの老夫婦は助かりましたが、なかには人を死にいたらしめる感染症を引き起こすカビもあります。

デンプンを分解する力に優れており、パンにもよくみられるカビのひとつ「クモノスカビ」です。このカビは、黒い斑点を伴う青緑色が特徴的で、まれに、「ムーコル症(接合菌症)」と呼ばれる人を死に至らしめるほどの感染症を引き起こすことがあります。感染すると、血液を凝固させて酸素の運搬を阻害し、細胞を壊死させてしまうのです。

また、チーズのなかには、神経に作用する毒素をつくりだすペニトレムを含む可能性が高いものもあります。

おそろしいのは、カビ毒が熱に強く、食べ物を焼いたり、茹でたりと過熱調理しても分解することが難しく、加工されても死なないことです。バクテリアとは違い、たとえ毒を産生したカビ自身が死んでも、毒性はそのまま残ってしまうのです。

これらが、カビの生えたものを食べないほうがよいといわれる大きな理由のひとつです。

カビをコントロールできない理由

カビをコントロールできない大きな原因が「胞子」にあります。胞子とは種子のようなもので、カビが繁殖に使用しています。

この胞子は、細く枝分かれした茎のような目には見えない空中構造を作り出し、それらの茎の先端に新しく胞子を形成します。そして、気流に反応して、数万にも及ぶ大量の胞子を大気中にばらまきます。そして、それらを肉眼で見るのはほとんど不可能です。

私たちの周りには、有害無害を問わず、望むか望まないかにもかかわらず、目には見えない「カビ」がありとあらゆるところに存在するのです。そして、今この瞬間も、呼吸をするたびにの体内に取り込んでいます。

カビは、食べ物の好き嫌いがなく、非常に幅広い食生活を送っています。一部の種は、死んだ皮膚や石鹸、さらには壁紙さえも食べてしまいます。水分や温度、養分が十分にあれば胞子はどこでも成長します。やわらかい食品であればなお進行が早く、冷蔵庫の中でもカビの増殖を防ぐことはできません。

残念ながら、私たちの生活からカビを完全に取り除くのは難しそうです。

しかし、たとえカビが毒素を産生したとしても、人体に影響を及ぼすには大量に摂取する必要があるため、ほとんどの家は安全だと考えられています。

そもそもカビは、ソーダを飲むときや感染症と闘うときなど、私たちの生活で活躍する種も多いため、世の中から完全に取り除くべき存在ではないのかもしれません。

とはいえ、次にカビの生えた食べ物を発見したら口にする前に、「目には見えない菌糸を体内に取り込むリスクに見合う価値があるのか」をもう一度考えてみてください。

それは安全な種かもしれませんが、カビ毒を産生する種が混ざっている可能性も十分に考えられるのです。

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