1931年3月31日、エンパイアステートビルが初めて世界一高いビルになって以来、人々は以下のような説を口々にしました。
「ビルの1860段の階段を上り、102階の高さからペニー硬貨を落とすと、下の通りの歩行者はそれにあたって命を落とす」
この説は、コインのような小さな物体でも、十分な高さから落とすとスピードが増すことで、不運にも下にいた人を傷つけてしまう弾丸と化す可能性があるというものです。
果たしてそんなことは起こり得るのでしょうか?
以下に、硬貨が、どのくらいの速さで落下するのかをもとに考えてみましょう。
落下する硬貨の速度
まずこの説の最初の問題にぶつかります。根本的な問題は、硬貨がはるかに長い時間、速度を上げ続けると想定していることです。
実際には、落下する物体は一定の速度以上にはなりません。
これはすべて、地球が大気と呼ばれる心地よいガスの層に包まれているためです。
私たちの周りは、実際には対流圏(地表から高さ約10~16kmまでの層)と呼ばれ、地面に最も近い最も低い領域です。
地球の表面を移動するすべてのものは、その中を移動する必要があるため、空気抵抗に遭遇します。
重力の力が硬貨をどんどん速く地面に引っ張ると、その速度に依存する空気抵抗の量も増加し、最終的に加速力が空気抵抗と釣り合って変化しなくなり、硬貨はそれ以上速く移動できなくなります。
終端速度に達したことになります。
硬貨は、わずか15メートル落下した後に終端速度に達します。
これは、15メートルを超えるどんなに高いビルから硬貨を落下させても、同じ速度で地面に衝突することを意味します。
443mのエンパイアステートビルの5階の高さが約22メートルである事実を考えると、それよりもどれだけ高い位置に上がって硬貨を落とそうとしても時間のムダです。86階、または、100階の展望台でも入場料を払うだけムダなのです。
たとえば、標準的なアメリカの1セント硬貨の重さは2.5グラムです。
この重さのペニー硬貨を15メートル以上の距離から落とすと、時速約40キロの猛スピードに達します。
しかしこれは、人を殺したり、大きなケガをさせたりするのに十分な速さではありません。
少し痛いかもしれませんが、エンパイアステートビルの前を歩いているときにペニー硬貨に当たったというだけの話で大きな事件にはならないでしょう。
その理由は、ペニー硬貨が平らで軽い金属の円盤なので、空気抵抗を受けやすく、不規則に動いたり回転したりして、落下速度が大幅に遅くなるからです。
さらに、これらの計算はすべて、完全に非現実的な完璧な気象条件を前提としており、風がコインに与える影響は考慮されていません。
実際、エンパイアステートビル自体は上昇気流を生み出し、風が建物の側面に当たるとコインは上向きに押し上げられるため、建物の上から落とされた軽いものはすべて吹き飛ばされ、上層階の外側のでっぱりに着地することも多くなります。
そのため、上層から発射した物体は地面に届かない可能性があります。
では、空気抵抗の影響を完全に排除し、エンパイアステートビル全体を空気のない真空に包んだらどうなるでしょうか。
もしこれがほんの少しでも可能だとしたら、空気抵抗がないため、ペニー硬貨はスピードアップしながら地面に届くでしょう。
時速約320キロメートルの速度では、槍のように安定して空中を進む物体でない限り、命を落とすことはまれでしょう。
エンパイヤステートビルからの硬貨落下速度については、以下の動画で見ることができます。