タイタニック号が、氷山に正面から衝突していれば船は助かったと主張する専門家がいました。
それはなぜ、そして、本当に正しいのでしょうか?
1912年4月14日の運命の日、「不沈船」と言われた豪華客船タイタニック号が氷山に衝突し、壊滅的な事故を引き起こしました。
何百人もの命が失われ、多額の財産が失われました。
事故後、世界中の専門家によってこの事故は、極めて高い精度で調査され、衝突による損失を最小限に抑えるために何ができたのかについて、いくつかの仮説が立てられました。
そのうちの一つは、「もしタイタニック号が氷山と正面衝突していたら、人命や財産への被害は大幅に軽減されていた」というものでした。
では、さっそく以下にタイタニック号が氷山に正面衝突していた場合の結果についてみていきましょう。
氷山に正面衝突説
氷山に正面から衝突した場合、球状船首(抵抗を減らして推進力を上げるために水面下の底部を膨らませた形状)への衝突であれば、損傷を免れた可能性が最も高いでしょう。
そして、衝撃による浸水は、先頭の3つ、多くても4つの防水区画にとどまった可能性があります。
それなら、タイタニック号は4つの水密区画が損なわれても浮いたままになるように設計されていたため、壊滅的な人命損失は避けられたかもしれません。
そのため、この仮説に同意した人々は、マードック副操縦士の行動を無責任だと口々に非難しました。
正面衝突論の問題点
タイタニック号は55,000トンの船で、時速約41km、22ノットで航行していました。
氷山を発見したとき、操縦士は直接衝突を避けるために船を左に操舵しようとしましたが、衝突は避けられずに、氷山が船の側面をこすって船体が引き裂かれたのです。
ただし、マードック氏を擁護すると、正面からの理論にはいくつかの問題点があります。
タイタニック号の船首にある衝突隔壁は、他の船との衝突に耐えられるように設計されていますが、氷山には耐えられません。
船との衝突なら可能性はある
このような隔壁の区画は、現代の車両の「クラッシュゾーン」に似ており、 衝突エネルギーを吸収して乗客への衝撃をやわらげる役割のある部分です。
他の船でも、この前方部分は衝撃エネルギーを吸収するために変形しやすく、衝撃を分散します。
このような場合、ぶつかった両方の船は大きな損傷を受けることにはなりますが、おそらく沈まずに浮かんだ状態は保てる可能性は高くなります。
氷山ではありえない
この問題点を考えると、もしタイタニック号が氷山という静止した巨大物体に正面衝突したら、その衝撃のエネルギーのほとんどは船の全長で吸収されなければならず、事態はさらに悪化したことでしょう。
まず、船は急停止します。
さて、運転中にブレーキを踏まなければならないときの気持ちを考えてみましょう。
正面衝突によって急停止すれば、人々は激しく投げ出されるでしょうし、夜でほとんどの乗客は眠っていたので 、衝撃に耐える準備もできていません。
船の前部で働いていた労働者の運命はさらに悪かったでしょう。
正面衝突が発生した場合、衝撃は船の全長に広がり、つぎ目が裂けたり、リベットが破裂したりして、多くの船室が浸水し、船の沈没速度はさらに速くなる可能性があります。
したがって、もし船が氷山に正面から衝突したとしても生き残っただろうという考えはありえないといえそうです。