水よりお湯の方が早く凍るというのは本当か?

身近なふしぎ

「お湯と冷水を冷凍庫に入れると、お湯の方が早く凍る」というなんとも不思議な現象を聞いたことはありませんか?

これは、科学に関するとても興味深いミステリーのひとつです。

実のところ、その答えは分かっていません。

水や冷凍庫はどの家庭にもあるのに、なぜ答えが分からないの?

この疑問は正しくもあり、間違ってもいます。

なぜなら水や湯を凍らせるだけなら、とても単純な実験のように思われますが、世界中の優秀な科学者たちが試みても、湯が先に凍ったり、水が先に凍ったりと結果は一通りではないうえ、出た実験結果を同じように再現するのでさえ難しい現象だからです。

物理学の世界ではこの「お湯が冷水よりも先に凍結する」という現象を「ムペンバ効果」と呼びます。

ここでは、湯が水よりも早く凍結するという不思議な現象について、科学的に考えられる要因をもとに分かりやすく紹介します。

ムペンバ効果は本当にあるのか?

ムペンバ効果を発見したのは、その名の元になったエラスト・B・ムペンバという人物です。

彼がこの現象に気付いたのは1963年。

わずか13歳のときに、クラスメートとアイスクリーム作りをしていたときのことでした。

彼は、熱いミルクで作られたアイスクリームミックスが、冷たいミルクで作られたものよりも早く凍結することに気付いたのです。

しかし、驚くかもしれませんが、この主張をしたのは彼が最初の人物ではありませんでした。

古代までさかのぼり、紀元前4世紀にはすでにアリストテレスが同じことを示したといわれています。

「我思う、故に我在り」の言葉で知られるルネ・デカルトや「知識は力なり」で知られるイギリスの哲学者フランシス・ベーコンも、お湯は冷水よりも早く凍結すると信じていた人物たちです。

しかし、このムペンバ効果にはまだ確証がないというのが科学者たちの見解です。

ムペンバ効果の要因

ムペンバ効果が引き起こされるには、さまざまな要因が関係していると考えられています。

水に含まれる不純物の影響

たとえば、水道水のサンプルを2つ用意して、必ずどちらか一方が先に凍結する場合、それは水に混合された不純物がわずかに異なるためだと考えられます。

水は、含まれている不純物の分子構造、サイズ、および、位置の違いによって、その都度凝固点が異なるからです。

基本的に、同じ条件下では、水に他の不純物が溶け込むと沸点(液体が沸騰する際の温度)は上がり、凝固点(凝固し始める温度)が下がるため(不純物の分子が凍結を妨げる)、煮沸によって不純物が取り除かれた水道水の方が、不純物が含まれたままの水道水よりも先に凍結するはずです。

つまり、お湯が水より先に凍結したとしても、それはただ熱いことが原因だとはいえず、不純物が原因かもしれないのです。不純物の他にも要因として考えられるものはたくさんあります。

水量の減少・気化熱

それでは、水量に焦点をあてて考えてみましょう。

水は蒸発するときに、水分子の一部が気化してしまうため総量が減ります。

ゆえに量が少ない湯の方が凍結にかかる時間も少なくてすむわけです。

また、(体から汗や水滴が蒸発するときに体熱を奪うのと同じように)水分子は蒸発して気体に変化するときに湯の熱エネルギーを吸収して奪っていくこと(潜熱)も原因として考えられます。

水の対流

しかし、実際には水が蒸発して減るのを防ぐために密封された容器を使用した実験においても、このムペンバ効果は観察されているようです。

それについて、ムペンバ効果を調べた研究者らは、熱い水の動きによって冷却効率が持続すること、つまり対流の違い(冷たい水では温度を伝える対流の働きが抑制される)と関係していると主張しています。

共有結合

または、共有結合が関係しているのかもしれません。

水は、2個の水素と1個の酸素が「電子」 を共有して強く結びついています。このような水分子は、温度が高くなると、熱運動によって1つの分子が占める空間が広がり、密度は小さくなります。

この状態から温度が急激に下がって密度が大きくなると、エネルギーの放出が起こり(冷却)、早く凍りやすくなる可能性があるというものです。

このようにムペンバ効果については、さまざまな科学的要因が関わっている問題があるため、これから物理学的に、または熱力学的、流体力学的など多角的な視野から科学的根拠を考えていく必要がありそうです。

最後に

どうですか?

科学者でも再現が難しいとされる実験を自宅の冷凍庫でやってみたいと思った人は、ぜひ試してみてください。

ムペンバ効果が正しく、本当に温度が高い水の方が先に凍るのであれば、なんらかの理由が存在するはずです。

もしかすると、実験中に非常に珍しい現象が起こって、あなたの名前にちなんだ物理的効果が発見される日が訪れるかもしれません。

これからも、日常生活のさまざまな場面で、何かおかしいことはないかと注意深く目を配ってみてください。おもしろい発見があることを期待しています。

参照元:Does Hot Water Freeze Faster Than Cold Water?