ここでは、アニメに描かれた月のイラストによくある天文学的な間違いを5つ紹介します。
たとえば、ライオンキングに描かれたお月様。
ありふれた三日月に見えますが、実際には実在しない形をしています。
三日月の両端が中心の軸よりはみ出してしまっているからです。
さっそく以下に、イラストでよくみる月の描写の間違いについてみていきましょう。月についての豆知識も学べてとても勉強になりますよ。
月は誰でも、好きなだけ見られる存在です。それなのに間違ったイラストが蔓延しているのは、おそらく月をじっくりと観察する人がいないからでしょう。
ぜひ、今日からお月様をまた違った視点で見て楽しんでください。
三日月は半円からはみ出ない
間違いその1は、三日月を半円の枠から外した形で描くこと。
これは現実的な月ではありません。
三日月と聞くと、単純に適当な弧を描いて、その内側か外側に別の弧を引いたものを想像しがちです。
しかし月は球体で、その半分が太陽によって照らされています。
半分照らされた球体をいろいろな角度から見たとき、三日月形の反対側の頂点は常に球体の反対側の極点と一致します。
同じことは、三日月以外の月にも適用されます。
もちろん半月にも当てはまり、半月より丸っこくなった月は、暗い部分を三日月と考ええることができます。
厳密に言えば、球体(月)から無限遠に離れて初めて両極が正確に対称になります。
そこからある程度近づいていくと、三日月の端っこが両極点に届かなくなり、見えなくなります。
半円の枠から外れた形状も形成されますが、それは月が地球の影に入ることで暗くなる「皆既月食」時にのみ発生します。
月食時には、地球の影が月を覆うことで暗い部分が短くなった三日月状に見え、
同様に、日食時には月が暗い部分となり、細長い三日月状の太陽が現れます。
大切なポイントは、現実的な月の描写において、月の外側の遮られていない部分は常に半円の軸を超えることはなく、
三日月形の先端が互いに向き合うように反対側にあることです。
三日月形の弧の中に星は見えない
第二の誤りは重大です。
それは、三日月形の弧の中に星を描くことです。
月は固体の岩石球体であり、三日月形はその球体の照らされた部分です。
暗い部分は、太陽の光が当たってないだけで、月はたしかにそこにあり、そこから奥が見通せるわけではありません。
そこに何かを描きたいという芸術的欲求は理解できます。
しかし、月よりも遠くにある星は、月によって遮られてしまうため、月の円盤内には描けません。
三日月の中に何かを描きたいなら、雲や虫、国際宇宙ステーションなど、手前にあって月の影に隠れないものを選びましょう。
ただし、月を植民地化したSF未来を描き、きらめきが星ではなく都市の灯りだとする表現なら問題はなさそうです。
第三の誤りは月の向きと配置に関するものです。
月の向きと配置
月は太陽に照らされています。
月の明るい部分(三日月であれ半月であれ)は、常に太陽の方向を向くべきで、満月に見えるのは月が太陽と地球の反対側にある時だけです。
したがって、三日月であれ半月であれ、月の明るい部分は常に太陽の方向を向いているはずです。
そして、月が地球から見て太陽の反対側にあるとき、私たちはより満月に近い月を見ます。
月が地球と太陽の間に位置するときは、より細い三日月を見ます。
つまり、イラストでは、月が満月に近いほど、太陽から遠く離れているように描くべきです。
そして三日月が細ければ細いほど、太陽に近い位置にあるのです。
実際、最も細い新月の三日月が昇る時と沈む時は、太陽の近くで起こります。
四つ目の間違いは、月が夜にしか現れないという誤解につながります。
月が現れる時間帯
満月がまん丸なのは、空で太陽と正反対の位置にあるからで、 したがって満月は必ず日没時に昇り、夜通し空に留まり、日の出と共に沈みます。
しかし月が三日月形に見えるのは、太陽と同じ側の空の領域に位置しているためです。つまり三日月は太陽と共に移動し、夜明け近くに昇り、日中空に留まり、日没近くに沈みます。
この場合、月の出は日の出、月の入りは日没に相当します。
また半月は太陽から90°離れた位置にあり、夜間(太陽が沈むころに真上近くに見える)に一部、昼間(太陽が真上に上がるころに昇り)に一部見えることになります。太陽からほぼ90度遅れてから昇り、沈みます。
間違いその五は、地球上の位置に対して、月の向きを誤って描くことです。
地球の位置と月の向き
月の軌道は地球の赤道とほぼ一致しているため、 ほぼ水平に指す三日月が観測されるのは、極付近で地球の真上に立っている場合のみです。
一方、お椀のように見える三日月が観測されるのは赤道付近で、ここでは地球の軸に対して90°回転した状態となります。
逆の現象も起こります。
この地球の写真はアポロ宇宙船が月の赤道上を飛行中に撮影したものです。
ここでは地球の半月が水平ではなく垂直方向を指しています。
いずれにせよ、中緯度地域では中間的な角度となり、季節によって角度も若干変化します。
ライオン・キングには、間違い1、4、5が全て組み合わさった見事な例があります。
プライド・ロックの上にある三日月が、あまりにも細長く、むしろ皆既日食の形に似ている場面。
夜中に、細く水平に伸びた三日月を描いている場面です。
実際には、三日月は太陽とともに動き、日没近くに沈むはずですが、真夜中に浮かび上がっています。
このシーンが日没を大幅に過ぎていることは、見える星の数と日没後の色づいた残照がないことからもわかります。
月の照らされた部分は、太陽がここから約40~50°離れたこの線上にあることを示しており、太陽が地平線にとても近い位置にあるため、まだ薄明の状態であるはずなのです。
そして、三日月が水平方向に傾いている点です。
これは、例えば北米で見える三日月の向きに似ています。
しかし、映画の舞台は赤道直下のアフリカ。
そこでは三日月がカップのように上向きに傾いて見えるはずです。
さらに、このように垂直に傾いた場合、太陽は地平線よりかなり下、つまり薄明を過ぎて本格的な夜間に位置することになります。
もしリメイクが制作されるなら、このシーンの月はこうあるべきでしょう。
もし月の現在の姿を知りたいなら、簡単な方法があります。
晴れた日に外へ出て、月と同じ方向にボールを掲げてみましょう。
その光の当たり方が、月の満ち欠けとその時の姿を示してくれます。
それだけの話です。たとえ月が見えなくても、拡張現実天体観測アプリで月の位置を確認すれば、正しい月相がわかります。
豆知識:木星のしま模様の見え方
木星のしま模様も、地球の極付近から見た場合にのみ水平に見えます。
赤道付近では、それらのしま模様は垂直に見えます。
これは、月がカップ状に見えるのと同じ原理です。
イラストによくある月の描写の間違いについては、以下の動画で見ることができます。