忙しく過ぎていく今日の世界では、「なんとかして生産性を上げたい」と四苦八苦している人がほとんどです。
たしかに、短い時間でより多くの仕事を進められれば、どんどん先へ進めるだけでなく、アフターファイブや趣味の時間、休日も楽しめるようになります。
そのために、少しでも仕事をこなそうと、朝から晩までほぼ休みなく机にかじりついている人もいますが、それではかえって非生産的であることがさまざまな研究によって分かっています。
また、時間管理のアプリをダウンロードして利用したとしても、よいのは最初だけで、一時的な効果しか得られません。
なぜなら、ものごとを達成するには、「すべてやる」ではなく、「正しいやり方で行う」がカギとなるからです。
ここでは、科学的に解明されてきた「真の意味で仕事や作業の生産性を上げる方法」について、意志力に頼らない正しい取り組み方を中心に分かりやすく紹介します。
実のところ、モチベーションは簡単に引き出せても、自制心や規律を維持し続けるのが難しいという点が生産性を上げるうえで大きな壁となっているようです。
意志力(意欲)の有無は大きな問題ではない
残念ながら、多くの人が、ただ意志力が足りないから生産性が上がらないのだと勘違いしていますが、その考えでは、「どうしても仕事を先延ばしにしてしまう」、または、「いつも忙しい」という大きな落とし穴にはまってしまいます。
真の意味で生産性を上げるには、「もっと意志を強くもてないか」と思い悩むよりも、「どうすればエネルギーを持続させられるか」に焦点をあてるのみです。
なぜなら、世界で大活躍しているプロたちが最高のパフォーマンスを維持し続けられる理由を考えた場合、意志力ではなく、エネルギーの管理方法が、生産性につながっていることが分かったからです。
まずは、意志のことを考えない
多くの研究によって、意志力だけでは生産性を維持するには不十分であることが解明されています。
トロント大学の心理学者であるJanet Polivy氏の研究によると、私たちの脳は、もともと大きなプロジェクトへの恐怖心があり、それに労力を費やしたり、失敗の可能性があることを避けたがる傾向があります。
さらに、プロジェクトの最初に訪れる苦痛のサインに非常に敏感であるため、早い段階で「船を捨てる」傾向が高いといわれています。
それゆえ、長期的な目標に向けて責任を持ち続けられないことがよくあります。
成功へにむけて最初に訪れる最大の壁への対処法は、ただ「やってみること」
Kenneth McGraw氏の研究によると、成功への最大の壁は、しばしば最初にあり、大規模なプロジェクトが遅れやすいのは、脳が最初に最悪のケースをイメージ化してしまうことに要因があります。
また、John Bargh氏によると、脳は難しいプロジェクトを避けて、小さな仕事に焦点をあてようとする傾向があるため、まずは難しいプロジェクトに多くのエネルギーを費やすことへの恐怖心を克服しなければなりません。
克服する方法はいたって簡単で、とにかく少しでいいから「始めてみる」だけでいいのです。
ツァイガルニク効果を利用する
幸いなことに、私たちの心理には、ツァイガルニク効果と呼ばれる現象が存在します。これは、既に始めた仕事を完了するように強制する効果があり、仮に完了できなかった場合に、不快感や執拗に差し迫った感覚を与えます。
研究では、参加者に脳力パズルをやってもらったところ、途中でやめるように求めても、90パーセントがパズルを完成させるまでやめたがりませんでした。
これは、テレビや本、映画を見始めると、最後まで見たいという欲求が出るのと同じです。
大きなプロジェクトを任された場合、このツァイガルニク効果を利用して、なにも考えずに開始してみてください。やるべき理由や気分の状態なんて考えずに、まずは、一歩を踏み出して動くこと。
やるべきことが難題であるほど重要なのは「開始力」なのです。すぐに始動する習慣が身につけば、道は開けたようなものです。
平行作業をやめる
複数の仕事を一度にこなそうとすると、より多くのことを達成しているように感じるかもしれませんが、研究では、生産性がはるかに落ちることが分かっています。
代わりに、夜に、次の日にすべきことのリストを作成してください。それを平行して取り組むのではなく、行動計画を立ててから実行します。
難題であれば、小さな仕事に細分化して最初のひとつに手をつけることで、脳が大きなプロジェクトへの恐怖心を引き起こさずに、作業を開始しやすくします。
やらなければならないことがたくさんあると気持ちの準備が必要になりますが、小さな仕事なら気持ちの準備は必要なく、すぐに始動できるでしょう。
意志力は消耗されるものだと知ること
意思力とは、なにかを達成するために、自分をコントロールする力で、モチベーションの原動力となります。
数多くの研究で、意志力は限りある資源で消費されゆくものであって、完全に使い尽くされることさえあると示されています。これは、「自我消耗」と呼ばれるもので、意志力のエネルギーが空になると、必然的にモチベーションも底をつきます。
たとえば、ダイエットに失敗したときのことを思い出してください。痩せるための健康的な食品を冷蔵庫にストックし、毎日運動をしていたかもしれませんが、ある時を境に、結局は悪しき習慣に戻ってしまいます。
食べたいものを意志力によって自制した結果、意志力が消耗していき、結局は正しい判断ができなくなってしまったのです。
このように、人は意志力が消耗していくと、判断を誤ったり、決断から逃げたりすることがあるため、意志の力に頼るやり方を変えていく必要があります。
意志力に頼らない時間管理のやり方
世界の名だたる演奏家の練習のやり方を研究したAnders Ericsson氏によると、エリートたちは、練習に費やした時間よりも、練習のやり方によって最高のパフォーマンスを生み出していることが分かりました。
それは、演奏家が、最も大きな仕事に集中して時間を費やし、そこにエネルギーを投入するための練習方法です。
驚いたことに、トップクラスの演奏家は、朝から晩までずっと練習するのではなく、計画的に考えられた練習によって、平均的な睡眠時間を他の誰よりも多く得ていたのです。
それでは、どのようにして睡眠の時間に余裕が生まれているのでしょうか?
時間とエネルギーを集中させる
彼らは、集中すべき練習に時間を費やすために、自分のエネルギーレベルを管理する能力に優れているだけです。
一日中ずっとエネルギーを維持しようと試みるよりも、90分集中して練習した後、15分から20分間の休憩をとるなど、数回に分けてリラックスできる時間を入れた方が練習の効率は上がります。
つまり、彼らは、意志力に頼るだけではなく、習慣と規律あるスケジュールに頼っているのです。
バスケットボールの練習でいうなら、一日中シュート練習をするよりも、2時間集中して特別な練習を行った方がはるかに良いといえます。
しかし、どのようにすれば規律あるルーチンワーク(決められた日常の仕事)を実行できるのでしょうか?
効率のよい作業スケジュールを実行する秘訣
一つの重要な要素は、期限を自分自身に突きつけることです。カレンダーに印をつけることによって、仕事を完了させる可能性がさらに高まります。
さらに、あなたの進行状況を書き記した「アカウンタビリティ・チャート」と呼ばれるものを作成してください。
アカウンタビリティ・チャートとは、自らの仕事の活動内容について、外部に対して説明する責任のことです。
列ごとに、業務の遂行にあてられた時間や達成できたことを記入してください。
食べたものを記録するダイエットと同様に、あなたが行ったことを不明確なものではなく、現実的に評価することができます。
さらに、進行状況の把握は時間のムダを防ぎ、結果として意思力消耗スピードが下がるので作業効率の向上につながります。
このように、明確な目標と行動計画によって、あなたの生産性レベルは高めることができます。
参照元:
・The Science of Productivity
・The Science of Productivity