2隻の似たような船がある場合、通常は大きい方の船の方が速いことがわかります。
たとえば、400メートル相当の大型コンテナ船の速度は通常25ノットですが、それより小型のフィーダーコンテナ船(地方への中継輸送船)の速度は15ノット程度に過ぎません。
さて、みなさんは、重量がはるかに大きな船の方が速いなんて奇妙に感じませんか?
これは、一般的な体型の成人男性よりもお相撲さんの方が足が速いようなものです。
一体なぜ、船の場合は、重量が重い大型船の方が小型船よりも速いのでしょうか。
それには、以下のように船は大きさによって、スピードアップしたときに生み出す波とその抵抗が異なってくることが関係しています。
船によって生まれる波の仕組み
まず、船は、船体が水を押しのけて進むだけであることを覚えておきましょう。
船体を水中で動かすと、船首に波が発生します。
この波は、船体が前方の水を押しのけることで発生したものです。
後方では、船体が前方に移動するときにもともとその場所にあった空間を埋めるためにそこに水が流れ込むときに波が発生します。
船を横から見ると、船首で後ろに向けて発生した1つの波システムと、船尾から後ろに向けて発生する2番目の波システムが生み出されます。
ちょっと難しく感じそうなので、わかりやすく見ていきましょう。
船によって生まれる2つの波
まず船首に注目してください。
低速では、このように船の速度と同じように波長が短くなります。
船がスピードを上げると、全体が伸びて波長が長くなります。
これは、波長が波の速度に比例し、船の速度に直接関連していることを示しています。
さて、このまま船の速度が上がると、最終的に波長が船の長さの3分の2になる点に到達します。
ピークは以下の2点、谷は以下の2点です。
ただし、ここで先ほど、船には船首と船尾から生まれる2つの波システムがあるを思い出してください。
2つ目は船尾で谷から始まる波ができます。
すると、船尾システムと船首システムの谷が同じ場所で重なってそろうため、船の後ろでお互いにポジティブに干渉し、抵抗は大きくなります。
そのため、船首波と船尾波が互いに同調してしまうと、より大規模な波が生み出されるのです。
さて、速度をさらに上げていくと何が起こるか見てみましょう。
波長が船の長さと同じになる点に到達します。
ここでは、船尾波(ピークにある青い波)と船首波(谷にある赤い波)が互いに打ち消し合って、波の抵抗は最小限(ピンクのライン)に抑えられます。
ただし、船体を見てください。
波が大きく抵抗が最大になってしまうスピード
この速度では、山が2つあり、谷は1つしかありません。船が周囲につくりだした波が荒波となって船体にかかり、それに伴って船が受ける抵抗は急激に増えます。
これは「ハル・スピード(hull speed)」と呼ばれ、排水量船にとって最も効率の悪い速度です。つまり、船が水を押しのけて走るスピードの限界のようなもの。
それぞれの船の(限界速度を意味する)ハルスピードは、「√水線長(フィート) X 1.34」という計算式によってノット(速度の単位)で出せます。
たとえば、長さ1132フィート(345メートル)のクイーン・メリー2のハルスピードは45ノットです。
300フィート(91メートル)のハルスピードは23ノット、80フィート(24メートル)の小型商用ボートのハルスピードは12ノットです。
20フィート(6メートル)の小型プレジャーボートの貼るスピードはわずか6ノットです。
もちろん、スピードをさらに上げればハルスピードを超えることは可能ですが、波長がボートの長さの1.5倍に達するまで増加し続けると、船尾は沈み、船が傾き始めます。
この速度は、船尾に谷がある「ラストハンプ(ピンクのライン)」と呼ばれます。再び船尾の波と同調して、大きな波が発生します。
これは、実際に走行するには最悪の速度ですが、このラストハンプを越えると、とても高速に達する可能性があります。
水の上を滑るように走る「プレーニング」
ラストパンプを超えると波長がボートの長さの何倍にもなるプレーニングと呼ばれる現象が起こります。
ほとんどの貨物船に見られるような排水型船体は、ラストパンプを超えるのに十分なエネルギーを生み出すことができないため、プレーニングすることはありません。
そのために設計された船体、小型スピード ボート、リブなどでのみ、プレーニングに到達できます。
これらの例をすべて組み合わせると、それぞれの船体が異なる速度で走ったときに生まれる波のパターンやそれによって生じる抵抗をグラスにすると、それはきれいな曲線にはならないことが分かります。
船が長くなると、これらの曲線のこぶ(波が高い位置)が発生する速度が変わります。
長い船は、より高速の地点で波が静かなスイートスポットが訪れるため、大きな船は自然に小さな船よりも速くなりますが、もちろんそれがすべてではありません。
球状の船首を使用して、船首波からの抵抗を減らすことができます。
船首に球状の突起「バルバス・バウ」は、船首から生まれる波を打ち消すように設計された2番目の波を生み出して、船が受ける水の抵抗を軽減します。
または、船体の形状を調整して、生成される波を減らすこともできます。
たとえば船の幅を細くして、船首の角度を鋭くした長くて薄い船体では、水をやさしく押し出して抵抗を減らし、理想の速度に到達しやすくします。
実際にハルスピードが23ノットの300フィートの船体が、そういった工夫で40ノットで航行できるようになった例もあります。
もちろん、パワーに制限がない場合は、巨大なエンジンを取り付けて抵抗の影響を気にせず、好きな速度で航行できますが、残念ながら、特に産業の世界では、それは経費がかかりすぎて選択肢になりません。
さて、なぜ大型船は小型船より速いのか。
その答えは、大型船の方が、船が生み出す波やその抵抗による影響で、高速航行が簡単であることが分かりました。これらの仕組みは以下の動画で分かりやすく紹介されています。