なぜダムは撤去されるのでしょうか?それによって河川はどう変わるのでしょうか?
ダムは、世界で最も印象的なエンジニアリングの偉業のひとつです。
アメリカには9万を超えるダムがあり、
などを担っています。
一方で、これらのダムは川の魚や水質にとっては大きな問題でもあります。
実は、アメリカでは、サケをはじめとする生態系や経済効果などの10年以上にわたる議論の末、オレゴン州とカリフォルニア州にまたがるクラマス川で4つのダムをすべて取り壊すという思い切った決断が下されました。
これは、これまでに実施された河川の修復・撤去プロジェクトの中で最大規模のものとなります。
さて、ダムを建設するのは大変だと思っている人は、ここでダムを撤去する方法を考えてみてください。
以下に、ダムが与える影響や撤去するならどのような方法があるのかなどを、アメリカ過去最大級のダム撤去プロジェクトをもとに紹介します。
人と経済に大きな影響を与えるダム
クラマス川は、その素晴らしい景観と野生生物で知られています。オレゴン州とカリフォルニア州の一部を400km以上流れ、その流域は31,000平方kmにおよびます。
一時期、この川には西海岸で3番目に大きなサケの生息地があり、地元の先住民族に重要な資源を提供していました。
しかし、1900年代初頭に水力発電ダムが建設されると、その状況は一変。
ダムは魚や川の栄養分、堆積物の自由な流れや循環を妨げ、濁った水の下で致命的なリスクをもたらしています。
水位が低下してフル稼働できていない問題
また、ダムはピーク時には7万世帯分の電力を供給できるほど十分なエネルギーを生産しましたが、水位低下やその他の問題により、今やフル稼働していません。
今、このように環境的な悪影響があり、現代的な目的を果たさないダムを撤去する動きが全米で広がっているのです。
生態系・水質へのデメリット
大規模インフラプロジェクトには通常、常にトレードオフがあります。
ダムのような構造物は洪水の可能性を阻止し、税収をもたらしましたが、一方で、魚が上流の産卵場所に到達するのを妨げてしまいました。
その結果、サケの生息数は当初の10%以下にまで減少。
ダムの影響はそれだけではありません。
さらにダムは、継続的なメンテナンスがなされなければ、機能不全に陥ってしまいます。
ダムの撤去が決まった理由
環境保護論者と地元の部族グループは、解決策を見出すために長い間争ってきました。
一方、ダムを撤去すれば税金がかかり、資産価値が失われると心配する住宅所有者もいます。
結局、エネルギー供給会社であるパシフィコープ社は、ダムを撤去する方が魚道(魚が産卵場所や餌場にたどり着くために川を上り下りする道)を建設するよりも安価であり、ダムが発電する電力は簡単に代替できるという結論に達しました。
運営費も考慮すると、このままダムを維持し、現在の状態で水質への影響に対処するためには、年間2,000万ドル(約30億円)かかると推定されます。
つまり、ダムを撤去することで長期的な資金を節約する方法が選ばれたのです。
過去最大級のダム撤去プロジェクト
そして2022年、連邦エネルギー規制委員会は4億5000万ドルをかけてこの4つの主要ダムを撤去することを正式に許可。
これほどの規模のダム撤去プロジェクトは過去に例がなく、そのためには綿密な計画と工事、莫大な費用が必要となりました。
ダムを撤去する方法
ダムを撤去するには、即時撤去と段階的撤去の2つの方法があります。
即時撤去
即時撤去は数時間から数日で行われます。
ダムの背後に貯まった水と堆積した土砂を下流に放流して、貯水池の水位を下げる(リザーバードローダウン)方法です。
ほとんどのダムには、水位を迅速に下げる必要がある場合に備えて緊急排水システムがあります。
これは通常、低水位用水路(水が流れるように開口された水路)か、ストップログ(本来は丸太や梁を積み上げて水を通すようにしたもの)のいずれかの形をとります。
水が下流に放流されると、ダム自体が爆薬で解体され、瓦礫が現場から撤去されるのです。
段階的撤去
段階的撤去は、通常数カ月から数年という長い期間をかけて行われます。
この方法は、あまりに早く放流すると環境リスクを引き起こすような沈殿物の量が多いダムに限られます。
段階的撤去では、河川をポンプで汲み上げたり、トンネルや水路を通して建設現場から迂回させたりするため、貯水池の汲み上げと土砂の放流をよりコントロールしやすくなります。
一旦河川の流れが迂回され、ダム流域が乾くと、ダムは素材に応じて掘削機や爆薬のような道具を使って解体されます。
クラマス・ダム撤去は段階的撤去方法を採用
この長く段階的な方法がクラマス・ダム撤去の基本です。
最終的にこのプロジェクトは、川を自由な流れの状態に戻すことになります。
2023年から、4つのうち最も小さいコプコNo.2が最初に取り壊され、2024年から残りのダムの低水位化、1日あたり1.5メートルのペースでゆっくりと水と土砂の引き下げを開始。
残りの3つの引き下げは同時に行われ、それぞれの水を動員してその水の力を利用し、押し流します。
その後、河川はダム建設当初からの新規または既存の分水トンネルを通って迂回されます。
これにより水路は干上がり、ダムを安全に撤去することができるのです。
ダムの撤去プロジェクトの意味
ダム撤去自体はプロジェクトの一部に過ぎません。
サケの遡上までには、在来種の植生と生息地の拡大による修復が必要となります。
アメリカでは、2022年だけでも、20の州で65のダムが撤去され、川と川をつなぎ直す努力がなされています。
すべてのダムを取り壊す必要があるわけではありませんが、構造物建設から数十年が経つにつれ、環境基準は変化し、予期せぬ影響が現れる可能性を私たちは心にとどめておかなければなりません。
そうなれば、これらの構造物のメリットを再評価する必要があります。
クラマス川で起きていることは、建設と解体の両方の力、そしてインフラが何百万もの人々の生活にどのような影響を与えうるかを教えてくれました。
このダム撤去の効果を見るにはまだ何年もかかるでしょう。
この事象は、世界が変わってきていることを示しているのです。
ダムを撤去すると何が起こるかについては、以下の動画で見ることができます。