ヤギの目の見え方とは?横長の瞳孔の仕組みに迫る

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抜群の視野をもつ横長のヤギの目に気付かれずに近づきたいならぜひ上空から。

実は、人間の10倍もの角度まで回転できる奇妙なヤギの目には、あなたが嫉妬してしまうようなすごい能力がたくさん隠されています。

そもそもなぜヤギの目は、水平(横向き)で細長い瞳孔をしているのでしょうか?

じっと見ると奇妙で少し怖い感じもしますが、このヤギの目は、馬や羊、シカなどの草食動物に共通した瞳孔の形状や仕組みで、多くのメリットをもたらしています。

たとえば、

  • 視界は広く、常にパノラマ映像
  • 頭を下げて地面の草を食べている間も目を回転させて、立ったときの視界を確保
  • サングラスをしなくても、太陽の光をさえぎる効果(目がくらみにくい)

などがありますが、他の動物と比較してみると、ヤギの目からさらに多くの発見がありました。

さっそく以下に、カリフォルニア大学バークレー校とダラム大学が、数多くの動物の目を研究して分かったヤギの瞳孔の特徴やとてもユニークな仕組みについてBarkeley Newsをもとに紹介します。

山羊と他213種の陸上種の瞳孔形状を調べた結果、自然界での「食う食われるの関係」や「目線の高さ」によって、瞳孔の形や大きさがそれぞれに異なって進化し、それが生物学的に重要な役割を果たすことが分かってきたのです。

Berkeley Newsは、カリフォルニア大学バークレー校が大学での研究やニュースなどさまざまな情報を発信しているメディアサイトです。

横長のヤギの目(瞳孔)は視野が広い

ヤギの目は、横に長い長方形のような楕円のような奇妙な瞳孔を持っています。

これは、四本足に蹄(ひづめ)がある有蹄類(ゆうているい)ならではの特徴ともいえます。

そもそもヤギの目は、なぜ横に細長いの?

少し怖いような奇妙なその目は、一言でいうと、食う・食われるの関係で結ばれる弱肉強食の自然界で生き抜くためです。

ヤギの目は、草原を広く見渡すために顔の横についていることはよく知られていますね。横に細長い瞳孔にも同じような役割があるのです。

ヤギの目の仕組みについては、カメラのレンズを絞ったときをイメージすると分かりやすいでしょう。

横長の瞳孔は、太陽がまぶしいところで瞳孔を細め(レンズを絞って光を取り込む量を減らす)ても水平方向に広い視野を保つため、様々な方向から接近してくる捕食者を素早く見つける役割があります。

たとえば、私たち人間の視界がこのような場合でも、

ヤギがもつ横長(水平方向)に広いパノラマ映像の視界では、端のオオカミが見事に映っていることが分かります。

ヤギの目は、捕食者にさらされる野外の生活で、外敵を警戒し、捕食者に近づかれないうちに素早く逃げる助けとなっているのです。

ただし、横長に進化したヤギの目によって失われた能力もあります。

縦方向の視界です。

もしあなたが、ヤギに気付かれないように忍び寄りたいなら、ぜひ上空から挑戦してみてくだい。

ヤギの眼球は回転して視野を広く保つ

細長さに加えて、ヤギの眼球は、約50度以上も回転できるため、これが広い視野の確保に役立っています。回転角度は、なんと人間の10倍にも相当。

これは、捕食者に狙われやすい食事中にとても便利に働くのです。

基本的に、地面の草を食べるときの頭を下げた姿勢では目線が低く、どうしても視野が狭くなってしまいます。これでは捕食者に気付きにくくなってしまいますね。

しかし、ヤギは、眼球を回転させて、細長い瞳孔の角度を地面とほぼ水平に保つことで、立っているときと同じような視界をキープしたまま食事ができると考えられているのです。

太陽のまぶしさを遮って広い視野を確保

ヤギの細くて平らな瞳孔は、頭上からの強い日差しを遮るため、人間のように太陽の光がまぶしくて周囲が見えにくくなるのを防ぎ、有害な紫外線から網膜を守ることもできます。

ゆえに、夜行性、または、ネコのように昼夜を問わず活動する種には、この細長いスリット状の瞳孔が多いといわれています。

しかし、よく考えると細長い瞳孔の向きが垂直、または、水平のどちらかはよく目にしますが、斜めの種が存在しないのはなぜなのでしょうか?

スリットの角度には、一体どのような意味があるのでしょうか?

肉食動物と捕食される動物の目の違い

水平(横長)に細長いスリット状の瞳孔をもつ眼球は、ヤギだけでなく、馬やヒツジ、シカなど、捕食される草食動物に多く見られます。

対照的に、捕食動物の目は、イリエワニやヘビのような垂直方向にスリット状(割れ目のような)な瞳孔、または、ライオンのような丸い瞳孔が多いといわれてます。

そして、この垂直に細長い瞳孔をもつ動物は、地を這うように歩くワニやヘビ、トカゲ、ネコ、キツネのように比較的地面に近い位置で活動する傾向があることも分かってきました。

縦長の瞳孔は、捕食動物が獲物との距離を把握するときの知覚能力を高めるのに役立つ(カメラでいうとピントがあう奥行の距離の幅が広い状態)と考えられています。

一方で、研究者の計算によると、この奥行の認識能力は、地面から遠く離れてしまうと低下してしまいます。

これは、ネコのような小型の肉食動物が身を低くして獲物を待ち伏せる姿を思い浮かべると分かりやすいですね。

そのため、トラやオオカミのように目線が高い(脚が長くて背が高い)捕食者は、丸い瞳孔を持つ傾向があると科学者は考えています。

一般的に、垂直に長いスリット状の瞳孔は、細い瞳孔を広げる幅が大きく、光をたくさん集められるため夜行性のハンターに多く、夜間の狩りに有利に働くのです。

それに対して、人間の丸い瞳孔は、小さな丸から大きな丸になるだけであまり広げることができないので、残念ながら夜行性動物ほど夜間の視界はよくないようです。

動物の目の形は生き残るための適応進化の結果

いかがでしたか?

動物の特徴のなかでも、今回は「目」をクローズアップしてみるだけでとてもおもしろい進化的な目の役割が分かりました。

動物には、水平に細長い瞳孔(横長)、垂直に細長い瞳孔(縦長)、丸い瞳孔をもつ種がいて、それぞれに「食う食われるの関係」から、光の集め方やピンとの合わせ方、視野の広さなどにおいてメリットを得ています。

今まで、「ちょっと不気味で怖い」とさえ感じていたヤギの水平に細長い瞳孔は、太陽の光から目を保護しつつ、捕食者から逃げるために視野を広くするという理にかなった役割があったのですね。

同じネコ科でも、縦長の瞳孔をもつネコがいる一方で、ライオンやチーター、ヒョウなど目線の高い肉食動物は丸い瞳孔をもつなど、それぞれの動物の生態に合わせて、生物学的に適した機能をもつ目に進化してきたのです。

このように、動物の他とは違う特徴を見つけ、それがどのような機能をはたしているのかを考えてみるのも、また新たな発見ができて楽しいものですね。

ちなみに、タコは光を見るのに目を必要せず、皮膚にセンサーを備えているそうです。
進化の歴史は、知れば知るほど興味深いものです。

参照元:
Why goats have weird eyes
Pupil shape linked to animals’ place in ecological web
Horses and Sheep and their amazing Eye Movements