「パルミジャーノ・レッジャーノ」が高い理由。粉チーズの「パルメザンチーズ」との大きな違い

2020年6月 2日

「チーズの王様」と称されるパルメザンチーズは、とても高価なことで知られています。

1ホールの価格では10万円以上だといわれ、1ホールの平均重量が約40キログラムとすると、1ポンド(0.45キログラム)あたりおよそ1200円。それは、平均的なチェダーチーズの2倍に相当する価格です。

今や、イタリアにとって、パルメザンチーズはビッグビジネスのひとつとなっています。生産量は、2018年に過去最多の370万ホールを超え、売り上げ高はなんと24億ユーロ(約3000憶円)にまで達しました。

驚くかもしれませんが、イタリアでは、パルメザンチーズの生産者が融資を受けるときに、お金ではなくチーズを担保にできる銀行もあるほど、市場価値が高いと考えられています。

なぜ同じチーズでも、価格において、これほどまでに他との差が生じるのでしょうか?

ここでは、パルメザンチーズを特別なものにしている要因について、生産にかかるコストや手間、時間など、FoodInsiderによるイタリアのパルマへの取材でわかった興味深いことを中心に紹介します。

1ホールのパルメザンチーズを作るには約495.8リットル(牛乳パック約500本分)の生乳が必要だといわれています。さらに、製造には1年以上、熟成の期間もあわせると長いもので10年もかかるうえ、パルミジャーノ・レッジャーノと呼ばれる本物のパルメザンチーズを作ることができるのは、北イタリアの限られた地域のみであることも大きな要因のひとつであるようです。

イタリアのパルミジャーノ・レッジャーノチーズ協会は、チーズ業界での競合に勝つために「パルミジャーノ・レッジャーノ」について、1000年も前から変わらぬ製法を守り、保存料や添加物を使わない世界でただひとつの最高品質のチーズであることを示しています。

認証制度を取り入れて本物を守り、長期熟成への取り組みや情報発信ツールの活用などを通して、ブランド力の付加価値を高める試みによって、近年では需要とともに価格も上がり続けているのです。

「パルメジャーノ・レッジャーノ」と「パルメザンチーズ」の違い

本物のパルミジャーノ・レッジャーノは、名前の由来にもなったといわれるパルマ、レッジョ・エミリアをはじめ、モデナ(エミリア・ロマーニャ州)、ボローニャと一部のマントバといった限られた地域で330ほどのチーズメーカーによって作られたものを意味します。この生産地は、ユネスコの世界遺産に登録された地域でもあるので、耳にしたことがある人も多いかもしれません。

そして、イタリアでは、本物の風味と品質を保持するために、DOP(イタリアの原産地名称保護制度)の認定を受けたものだけが「パルミジャーノ・レッジャーノ」の名で販売することが許されているのです。

「パルメザンチーズ」は、「パルミジャーノ・レッジャーノ」の英語名です。

欧州連合内では、保護された原産地表示上で分類されていますが、アメリカやアルゼンチン、オーストラリアといったパルメザンチーズを作る国をはじめ、ほとんどの国で表記の規定はなく、世界中でパルメザンチーズと記された商品は販売されています。

本物のパルメジャーノ・レッジャーノの価値を上げる要因

パルメザンチーズは、イタリアで1000年以上も前に、たった3つの材料「生乳」と「塩」、「レンネットとよばれる子牛の第4胃袋にある酵素(凝乳酵素)」で、修道士たちによって作られ始めました。現在も生産地域は、この修道士たちが作っていた頃から変わらず、この地域以外で同じようなパルミジャーノ・レッジャーノは作れないといわれています。

なぜなら、パルミジャーノ・レッジャーノづくりに必要な3つのバクテリアはこの限定された地域にしか生育しないためです。

パルミジャーノ・レッジャーノ チーズ協会のニコラ・ベルティネッリ会長は次のようにいいます。

空気中のバクテリアが牧草に付着し、それを牛が食べて胃に取り込むことで、牛の乳に生きたままのバクテリアが含まれます。チーズ作りでは、ホールの中でこのバクテリアを生きたまま発酵に活用することで、長い熟成によってパルミジャーノ・レッジャーノならではの風味やアロマの深まり、独特な食感を作り出しているのです。

パルメジャーノ・レッジャーノにかかる手間や時間

パルメジャーノ・レッジャーノを作るには、1ホールあたり、131ガロン(約500リットル)もの牛乳を使います。

まず、1000リットルほどの容量がある大きな胴製鍋に、朝に搾った新鮮な牛乳と、前日搾って用意した脱脂乳を入れて混ぜます。脱脂乳を混ぜることで、乳脂肪率が少なく、豊富なタンパク質で、消化吸収のよいチーズになるのです。

そこに、レンネット(酵素)を加えると、ヨーグルトのような粘度の高い液体になります。ヨーグルトのような生地にする理由は、チーズを長持ちさせるために水分を取り除く必要があるからです。

チーズ職人は、5分間で牛乳の温度を38度から55度まで上げて、道具を使ってかき混ぜながら牛乳を固め、カード(凝乳)を作っていきます。この工程は、有害なバクテリアを殺して、パルミジャーノ・レッジャーノづくりに不可欠な3つのバクテリアのみを活かすための試みです。

約45分経過すると、カード(凝乳)が鍋の底に沈みます。重さは、約220ポンド(約100キログラム)くらいになります。

次に、底に沈んだカード(凝乳)を、亜麻布で包み込んで棒に吊るして、水分を切ります。

そして、亜麻布ごと型の中に入れ、2時間おきに布を交換します。

午後8時。生地がまだ柔らかいうちに、プラスチックの原板を側面に巻き付けて刻印を刻みます。刻印には、生産者や生産年月日、生産地の名前が刻まれ、消費者に本物のパルミジャーノ・レッジャーノであることを示しています。

現代はIDがホールに記され、生産者や生産地情報などをスマートフォンなどで確認できるようになるなど情報管理の面でIT技術が取り入れられていますが、作り方は、修道士たちによる昔ながらの製法と変わらず、添加物も一切使われていません

4日後、チーズをホールごと飽和食塩水の中に漬け込み、約19日間かけて水分を抜きながら塩分が入れられていきます。このプロセスによって、チーズは、バリアの役割をする硬い皮のようなものを形成します。食塩水から出したチーズは、棚に並べられ、ゆっくりと管理者以外の人には触れない状態で熟成されます。

熟成したチーズは、職人によるチェックの後、焼き印が入れられます。

パルミジャーノ・レッジャーノは熟成期間が長いほど高い

チーズの熟成期間は、平均で2年ですが、なかには10年間におよぶ超長期熟成物もあり、それらは他に比べて粒度が細かく、木の実のような香りと複雑な味わいが強く出ます。

熟成期間が長ければそれだけ、チーズの価格は高騰します。

それは、利息付口座の現金のようなもので、実際に、チーズを担保に融資する銀行もあります。

そのひとつ、イタリアのCredito Emiliano銀行は、1953年以来、パルミジャーノ・レッジャーノを融資の担保として受け入れており、ハーバードビジネススクールの新しいケーススタディ「Credem:Banking on Cheese」の対象にもなっています。

銀行は保険としてチーズを空調設備の整った保管庫で保存し、熟成を促します。農家は、運転資金を得るうえ、チーズ作りの熟成プロセスを銀行に代わりに行ってもらうことで運用コストが節約でき、銀行は、リスクの高い業界(市場の需要とともに大きく変動しやすい)に関する専門知識を得られるという仕組みです。

偽物のチーズとの戦い

パルメザンチーズのように、熟成期間が長くなるほど市場価値が高くなる製品は、手間やコストがかかるので偽造しにくくはなりますが、実際には、高く取引される商品はビッグブランドとして闇市でのターゲットにもなりやすいため、イタリアの歴史は、偽物との長い戦いでした。

パルミジャーノ・レッジャーノに限らず、ヨーロッパの生産品であるチーズはEUによって守られています。

EUでは、PDO(原産地名称保護制度)の品質認証制度によって消費者に正しい情報を提供することで、数多くの品を盗用から保護しているのです。

しかし、EUから一歩外に出ると話は変わります。

ニコラ・ベルティネッリ会長は、欧州以外の多くの国で、イタリアとの同意がないまま、「パルミジャーノ・レッジャーノ」ではないチーズが、誤解を生じやすい「パルメザンチーズ」という名で取引され続けていることは非常に大きな問題だといいます。

対策として、パルミジャーノ・レッジャーノ チーズ協会では、全ての粉チーズ製造会社と包装会社を見守りながら、偽物をモニタリングするプログラムを強化しており、イタリア政府も働きかけています。

最後に

日本でパルメザンチーズといえば、粉チーズの代名詞のように普及していますが、販売されている製品は、クラフト社製をはじめアメリカで作られたものが多く、本物の「パルミジャーノ・レジアーノ」とは別物です。

長い熟成期間を経て手間をかけて作られる本物のパルミジャーノ・レッジャーノには、公認のロゴマークが必ずついているので、購入の際には、ロゴマークの表示を確認してみてください。

そうはいっても、世界では、多くの職人がパルミジャーノ・レッジャーノに触発された高品質なチーズを作っています。

本物と並べて、両方の味の違いを比べてみるのもおもしろいでしょう。

最後に、事前にすりおろしたパルメザンチーズも入手可能ですが、すりおろしたばかりのチーズに匹敵するものはないことも忘れないでください。

参照元