低温の限界「絶対零度」によって起こる奇妙な世界とは

2020年4月25日

極低温の世界とされる宇宙には、これ以上低い温度はないといわれる温度の限界「絶対零度」に限りなく近い状態があります。

絶対零度とは、セ氏マイナス273.15度。これは原子の動きをも止めてしまうほど冷たい温度の世界。それがどのような状態なのか想像できるでしょうか。

物質は、温度によって液体、気体、固体へと状態を変化させますが、ものが融けるときの温度(融点)や、沸騰するときの温度(沸点)は、それぞれの物質によって異なります。

たとえば、水は、常温では液体の状態ですが、100度(沸点)になると沸騰して気体になり始め、0度(融点)になると固体(氷)から液体(水)になります。これが鉄の場合、融点は1535度で沸点は2862度、食塩では融点が800度、沸点が1413度ということからも物質によってバラバラなのがわかります。

一方で、絶対零度というものは、すべての物質に共通した最低温度を意味します。

科学者たちは、この絶対零度をつくりだそうと何世紀にもわたって研究を重ねてきましたがいまだに絶対零度の世界を実現できていません。

ここでは、熱力学では到達することができないといわれる「絶対零度」の世界について、それがどのような状態なのか、また、極限まで冷やされたときに物質に起こる奇妙なできごとを中心に分かりやすく紹介します。

絶対零度とは

絶対零度とは、空気の温度を下げていったときに、物質内の原子の振動が最小限になるときの限界温度をいいます。

身近なところでは、磁気の力で体内を撮影する装置MRIでも、この絶対零度が活用されています。

1800年代半ばに、この絶対零度を0度として、メモリの単位をつけたのがかの有名なウィリアム・トムソン氏。彼は、熱が物質内を動き回る粒子であることを発見し、温度の違う物質に電流を流すと、熱は移動するという理論を打ち出しました。

そこで彼は、温度を下げて、温かい物質から冷たい物質に熱を引き込む実験を行ったところ、ある時点ですべての熱エネルギーが温かい物質から逃げ出してしまい、それ以上は冷却できなくなることを発見したのです。

この温度は、すべての物質に共通して存在する温度であるため、彼は、すべての物質の運動エネルギー量を測定することができる熱力学的温度のメモリの単位「ケルビン」をつくりました。

このメモリの単位は、今日でも使われています。

絶対零度への壁

ウィリアム・トムソン氏が、このメモリを発見してから、様々な科学者がこの絶対零度、ケルビン0度を作り出そうと挑んできましたが、これには量子力学が複雑に関わっているため、いまだに誰も成功できていません。

先ほど、絶対零度とは、原子も動きをも止めてしまうほどの温度といいましたが、量子力学では宇宙にあるどんな物質の粒子も正確な位置と運動量の両方を同時に知ることはできない(ハイゼンベルグの不確定性原理)と考えられているため、実際には、物質内で原子の振動が完全に止まるとはいえません。つまり、ケルビン0度とは、物質内の粒子のエネルギーが最小限の状態をいいます。

仮に、原子レベルで動きが止まるレベルまで鉛の塊を冷やしたとしたら、ケルビン0度の粒子の位置とそれらの運動量の両方が「ゼロ」であることを測れるかもしれません。しかし、それを測るのは量子力学では不確定性原理によって禁じられているため不可能なのです。

したがって、真の0ケルビンに到達することはできませんが、科学者たちは、その10億分の1というかなり近いところまで近づくことはできています。

絶対零度で繰り広げられる奇妙な世界

絶対零度。これほど冷たい状態まで冷やされると、物質内ではとても奇妙なできごとが起こり始めます。

一般的に、物質は、温度を下げると電気をよく通すようになります。

ケルビン30度ほどまで温度が下がると、一部の物質の伝導性は非常に高まり、超伝導になる可能性があるのです。

つまり、温度が低下すると抵抗がなくなっていくため、物質はゼロに近い電気抵抗で電流を流すことができるということです(金属は温度を下げると電気抵抗が減り、絶対零度ではゼロになる)。

これは粒子加速器や強力な電磁石を作成してMRI装置に組み込む場合に非常に役立ちます。実際に強い磁石と電磁波によって、人体の細胞組織の動きや血管におよぶ断面像までも撮ることができる装置「MRI」の仕組みは、電気をよく通すために、真空状態で液体ヘリウムを使用して絶対零度に近づけることで、伝導性を高めています。

そして、この高い伝導性の発見は、ウィリアム・トマソンが過去に実験をして熱力学温度目盛をつくったおかげで生まれたものなのです。