ピアノを調律することは不可能だといわれる理由

2017年10月 2日

バイオリンの音色を聴いて「ああ、動物の腸を震わせる音....」と感じる人はまずいないかもしれませんが、バイオリンの絃は、伝統的に猫の腸から作られていました。

弦は、弦楽器や鍵盤楽器においてなくてはならないもののひとつです。両端が楽器に固定された1本の細い絃の振動がボディ(内部)に共鳴することで、音が聞こえる仕組みになっています。

この振動のパターンを利用して楽器は調律されていますが、ピアノの場合、バイオリンやギターと比べて調律が難しく、数学的に考えると完璧に調律するのは不可能だとさえいわれています。

ここでは、ピアノの音を調律で完璧に合わせることが不可能だといわれている理由について、数学的な理論や科学的な根拠をもとに分かりやすく紹介します。

バイオリンの音が出る仕組み

バイオリンの美しい音色は、弦が「正弦波(サイン波)」と呼ばれる特定の波(波動)の形で振動することによって生じます。

少し難しく聞こえるかもしれませんが、正弦波とは、高校の物理にでてくるように、波動の周期的変化をグラフで表したとき、高さや間隔がきれいにそろう波の形のことです。言うなれば、なわとびのようなものです。

長なわの片方の端を持ちあげて縦方向に揺らした姿をイメージしてみてください。

このときに、一方から反対の端に向けて伝わってできる隆起(波)がまさに正弦波の形です。そして、同じ区間で1個、2個、3個、4個と波打つ突起がたくさんできるほど弦の振動は速く、音は高くなります。

バイオリンの音の特性

弦の振動の回数(周波数)はこれらの波の隆起数と等しく、今日の楽器の多くは、この正弦波を利用して、弦や空気振動管の振動数を変えながらさまざまな音を奏でているのです。

さらに理論的にいうと、バイオリンやギターでは、音に一定の法則があり、音が高くなっていく割合を、振動数に対して一定の整数の比で表すことができます(周波数が整数比で倍音が重なる)。

たとえば、和音のように特定の高さの異なる2つ以上の音が、見事に調和して聞こえるのはこの一定の法則のおかげで、この法則を利用してバイオリンやギターの音程を整える作業が、「ハーモニクス」による弦楽器の調律(チューニング)です。

ハーモニクスによる弦楽器の調律(チューニング)方法

まず、基本となる音を出して、その整数倍の振動をもつ音を組み合わせることによって、音の高さを調節するというやり方です。

たとえば、バイオリンやビオラ、チェロでは、Gの弦の1/3の位置を指で抑えて出した音を基音とし、一つ上のDの線の1/2の位置(倍音)にも指をあてて、弓でこすったときに、音が見事に調和するように調節します。

これが、ハーモニクスを利用した弦楽器のチューニングです。

どうですか?「弦楽器の調律って難しいんだな」と感じるかもしれませんが、実は、ピアノの場合、この弦楽器よりはるかに弦の数が多く、構造もより複雑なため、調律はもっともっと難しくなります。

ピアノの調律が困難な理由

ピアノの鍵盤(けんばん)は、1オクターブあたり7個の白鍵と5個の黒鍵の合計12個で構成されたものが7オクターブ分もあります。

さらに、一つの鍵盤には、低音や高音など音の高さによって、細さや長さが異なる弦がそれぞれ張られています。高音になると音のバランスのために、1つの鍵盤に3本の弦が使われており、ピアノ全体の弦の総数は、230本にも相当するといわれています。

そして、その全ての弦を、ハーモニクスを使用してチューニングした場合、整数比(倍音)の法則(振動数が整数比で調和)にあてはめようとしても、計算式がうまく当てはまらず、音の高さにズレが生じてしまうことが明らかになったのです。

つまり、ピアノは、弦楽器より弦の構造が複雑で、単純な音の積み重ねではないため、すべての鍵盤で完全な音階を実現することが数学的に不可能だというのです。

それではピアノの調律はどうすればよいのでしょうか?

平均律によるピアノの調律方法

今日、ほとんどのピアノは、1オクターブ12音の鍵盤(弦)における周波数の比率を、均等に分割した「平均律」と呼ばれる調律方法がとられています。これは、はっき言うと弦楽器に用いられている法則では、決して得ることができない無理な数字です。

そのため、平均律では、オクターブごとに同じ音の響きをもたせられるというメリットはありますが、5度や4度、長3度などいくつかの音で調節が必要となります。そこで利用されるのが、音同士の周波数が近いときに生じる「ワワワワワ」という「うなり」と呼ばれる音の現象です。

うなりの数によって、音のズレをコントロールしながら調節していくわけです。

この調律方法なら、(わからない程度の)微妙な音のズレを皆無にするまではできませんが、12音階の音が全て等しく響き、転調も自由に行えるため、どのようなピアノ曲でも演奏が可能になります。