地球上の大部分は水で覆われているにもかかわらず、飲むことができる水は不足しています。
地球上の水の約97%は海洋にあり、その塩分濃度のために飲むことができないのです。
残りの約3%も簡単に入手できるものではありません。
では、水不足であるのなら、なぜ私たちは研究所で化学的に水を製造しないのでしょうか?
たしかに、水素と酸素の組み合わせで水ができるのは化学式から分かります。
しかし、残念なことに、その解決策は見かけほど単純ではないようです。
以下に、研究室で水を作る方法についてみていきましょう。
水を作る方法と課題
水素原子と酸素原子の組み合わせは、大量のエネルギーを放出します。
最も単純な構造をした元素として知られる水素は、軌道上に電子を1個しか持っていません。
一方、酸素は、最外殻(最も外側にある電子殻)に6個の電子があり、安定した電子配置になるためには2個の電子が足りません。
この2つの元素を融合させるには、エネルギーの壁を乗り越えなければならないのです。
そして、水素のとても燃えやすい性質と、酸素の燃焼を助ける性質(酸化剤)を考えると、この2つの元素の組み合わせによって生じるエネルギーは、致命的な大爆発につながる可能性があります。
水を作る工程で大爆発につながるリスク
この揮発性反応は、1937年のニュージャージー州のヒンデンブルク号爆発事故の悲劇によって実証されています。
ドイツの旅客飛行船LZ129ヒンデンブルグ号が係留マストとドッキングしようとした際に炎上し、破壊されたのです。
火災の引き金となったのは、飛行船に蓄積した静電気による火花でした。
ヒンデンブルグ号の周りの空気には酸素が豊富に含まれていたため、その酸素が飛行船の水素と急速に反応し、致命的な爆発に至ったのです。
このような大惨事にもかかわらず、反応によって水が生成されたことは知られています。
となると、地球上の膨大な人口をまかなう量の水を製造するには、このような膨大な自然エネルギーの放出を収容できる研究所と施設が必要となります。
残念ながら、これは法外なコストがかかるため、経済的に実現不可能です。
しかし、別の解決策は存在します。
空気から水を生み出す方法
それは、冷却された金属板を使って空気の温度を急速に下げ、水蒸気を凝縮させて水を抽出する方法です。
国際特許も取得したウィッソン風車(The Whisson Windmill)もその一つです。
空気には混合ガスの他に水蒸気が含まれています。
空気中に利用できる水の量はある意味無限だといえます。大気圏の地下1キロメートルだけでも約10億リットルの水分が含まれており、常に入れ替わっています。
風車は、冷却されたブレードを使って周囲の空気から水を凝縮させます。
風車がどのように動作するかについての詳細な情報は、欧州特許庁で入手できます。
これらをうまく活用すると、わずかなコストと最小限の環境負荷で、毎日約12,000リットル(2,600ガロン)の水を生成できるでしょう。
VICI-LabsとUCバークレー全米平和部隊協会が共同で開発したWater Seer(ウィッソン風車)もこの原理を利用した機械です。
これは、動力となるのは上部の風力タービンで、風力を利用して地中に向かって空気を送り、温度を冷やして下に水を貯める仕組み。
より小規模なものでは、主に災害被災地で活用されているポータブル水製造機があります。
冷却されたチャンバー内に空気を取り込むことで作動し、1日に最大545リットルの水を生成します。
しかし、水の製造は見かけほど単純な作業ではないため、水不足に対処するための最善の解決策は、やはりすでに利用できる水を節約することに他ならないでしょう。
みなさんは、食パン1枚を作るのに必要な水の量は40リットル、リンゴ1個は70リットル、ハンバーガー1個には2,400リットルにも及ぶといわれいることをご存知でしょうか?