動物が花から花へと花粉を移動させ、植物を受粉させることは、既に1700年代には知られていました。
そして、科学者の知る限り、この受粉プロセスは陸上、少なくとも水上でしか起こらないと考えられていたのです。
しかし2016年、研究者たちは動物による受粉が水中でも起こることを発見。
しかし、そもそもなぜ、海洋では動物が受粉に関わることはないと考えられていたのでしょうか?
水中と陸上での受粉の違いや方法について以下にみていきましょう。
海での無脊椎動物による受粉
海の中では、1mm未満の小さな甲殻類や5mmの多毛類などが、ある種の海草(根と茎と葉の区別ができる種子植物)や海藻(根と茎と葉の区別ができない藻類など)を訪れます。
彼らはネバネバした粘液状の花粉、つまり精子(基本的には海藻版の花粉)を拾い、時にはかなりの距離を移動して、海草や海藻の雌の生殖器官へと運ぶのです。
実際に、水中での受粉が観察されたのは、熱帯の海洋性被子植物「タートルグラス」。
雄花が、無脊椎動物の活動が活発になる夜間に開き、粘液の中に花粉を放出し、それを動物が雌花に運ぶというものでした。
それによって「花粉管がめしべに形成されたこと」が受粉の成功を示しました。
受粉は被子植物のライフサイクルにおける重要なプロセスです。
地上では、植物の80%は動物によって受粉されると考えられています。
そして、今では同様のことが、水中でも起こっていることが分かったのです。
では、なぜこれまで海中での受粉には動物が関与しないと考えられていたのでしょうか?それには以下のようにさまざまな理由があります。
海中では動物は受粉しないと考えられていた理由
まず、水中で動物が受粉するという物理的な可能性はかなり低いと考えられていたこと。
海水は空気の800倍近くも密度が高く、しばしば水は動いています。
1mmにも満たない花粉媒介者たちは、水の動きに簡単に流されてしまうため、雄株と雌株の間を容易に行き来できるとは思えなかったからです。
次に、動物の受粉が進化したと考えられている頃よりずっと昔から、水生植物や海草の多くの種が存在していたこと。
そのため科学者たちは、水中で花粉が移動する唯一の方法は、海自体の動き(水流)によるものだと考えていたのです。
その結果、水中で動物受粉の証拠を探そうとする科学者はなかなかいませんでした。
さらに、受粉は夜間に、しかも鉛筆の先ほどの小さなスケールで行われます。
水生動物が花粉媒介者として機能し得ること、そして、実際に機能していることを突き止めるには、研究者たちにはかなりの根気と観察力が必要だったからです。
また、海草や海藻をはじめ、一般的な水中受粉のほとんどは、おそらく水の動きを介して行われています。
つまり、少なくとも生態学的には、水中での動物の受粉は取るに足りないような現象だと考えられていたのです。
しかし、とても豊富で多様な動物群集が夜間に花を訪れることが分かり、事実はとても大きな発見となりました。
科学者たちはその根底にある仮定から科学的な定説や有性生殖の重要性を見直す必要に迫られたからです。
私たちは、自然にはいつも驚かされてばかりですね。
参照元:
・Why Did It Take Us So Long?
・Experimental evidence of pollination in marine flowers by invertebrate fauna