カマキリの英語名は、「praying mantis」です。prayingは「祈り」を意味し、mantisの語源は僧侶からきています。
カマキリが、前肢を構える姿が、祈りの姿に見えるためにそのような英語名がついたといわれています。
英語名の響きからは、「禅」や「穏やかな生き物」を連想させますが、実のところ、カマキリがもつ特殊な交尾様式を知ると、あながち間違いではないことが理解できます。
オスのカマキリにとって、交尾は、身命の全てを新しい生命に投じる、まさに命がけの行為なのです。
ここでは、共食いとしても広く知られているカマキリの交尾について、メスがオスを捕食する理由を中心に、最近の研究で分かってきた大変興味深いことを分かりやすく紹介します。
カマキリのオスが交尾中に食べられてしまう理由
カマキリの交尾は、他に類を見ない特殊な形態である「共食い」を伴うことがあります。
今までに、目にしたことがある人は、おそらくショックを受けた経験があるかもしれませんが、最近の研究によって、この交尾中の共食いには、生物学的に重要な意味があることが分かってきました。
カマキリの精子の移動プロセスは、非常に長い時間を要するため、オスは、交尾中にメスをできるだけ長い時間自分に引き付けておかなければ受精は成立しません。
交尾の時間が長いほど、オスの精子はメスの生殖器へ到達でき、確実に受精できます。
1回の交尾で受精できる確率が高くなれば、必然的にライバルの精子を退けて自分の子孫を残すことができるのです。
そして、メスを最大限自分につなぎとめておくための戦略のひとつが、メスに自分の頭から捕食させることだったのです。
なかには、捕食から逃げようとするオスもいるようですが、それは、カマキリにとって生物学的にはベストな選択肢ではないのかもしれません。
オスは食べられても交尾を続けられる
メスのカマキリは、長時間におよぶ交尾中に、おなかがすくとオスを捕食し始めます。
まずは、オスの頭から噛みちぎり、胸、前肢、胴と徐々に下へと体の残りの部位を食べ進んでいきます。
メスが前菜(頭部)を味わっている間も、オスは交尾を継続させ、メスの生殖器に向けて、精子を送り出し続けています。
それどころか、頭部には交尾の調節や抑制を行う中枢があるため、それがなくなることで、逆に交尾行動は増進するといわれています。
驚いたことに、オスは、生殖器周囲だけになってもなお交尾を続けることができるとさえいわれ、メスがオスを食べ終えるその時まで、交尾は続くのです。
メスがオスを頭から食べる理由
交尾中に、メスがオスを頭から食べ始めるのには意味があります。
オスの生殖器は、たとえ頭や胴を失っても、活動し続けることが可能なため、メスに頭を捕食させている間にも、たくさんの精子をメスの精子貯蔵器官に残すことができるというわけです。
オスの行為は、子孫を残すという生物学的な目的を達成するための厳しい手段であるように見えますが、オスの多くが、生きている間に交尾するチャンスがほんのわずかしか得られないことを考えると納得できます。
子孫を残すために自らを投資するオス
このようにして、オスは、自らがメスの産卵に必要な栄養となり、これから産まれゆく子の生命の糧となるのです。最近の研究によって、オスを食べたメスの方が産卵数が優位になることも分かってきました。
交尾中だけでなく、交尾が終わってから、空腹のメスに捕食されるオスもいますが、なかには、交尾後も生き延びるオスもいます。
そして、生き延びたオスは、次の交尾の機会に巡り合う可能性が残されることとなります。