チョウのお尻から飛び出す毛むくじゃらの正体とは?

チョウが美しい本当の理由とは動物・植物・生き物

チョウ(蝶)やガ(蛾)の仲間には、「コレマタ」と呼ばれる毛むくじゃらの触手をお尻から出す種がいます。

その姿は、美しいチョウのイメージとは程遠いものですが、そこから放つ匂いでメスにアピールするという繁殖戦略的な意味があるようです。

もちろん美しいチョウもたくさんいます。

少なくともある種のメスのチョウは、より色鮮やかなオスを好んで生殖相手に選ぶことも科学的に証明されています。

なかには、羽の色をカモフラージュに使って、捕食者を怖がらせたり、毒を持っているように見せかけて警告し、はったりをきかせるチョウやガもいます。

今回は、チョウの見た目の美しさや大きさなどに、どのような生物学的な意味があるのかについて、とても奇妙な特性をもつガを例に紹介します。

チョウやガにとって見た目は重要なのか

オスにとって美しいことは、より健康で遺伝的に優れていることを示し、メスがより強い生命力をもった芋虫の赤ちゃん(子孫)を産めることを意味するのかもしれません。

その場合、メスのチョウが魅力を感じることは、私たち人間が、遺伝的な強さを求めて生命力や免疫力が強そうな男性、または、財力(栄養や資源の提供力)のある男性に魅力を感じることと同じようなものです。

しかし、必ずしもそうとは限らない例もあります。そのひとつが、コレマタと呼ばれる特殊な器官をもつガです。

チョウやガが求愛で使う「フェロモン」

チョウやガには、配偶者を選ぶのに複雑なシステムがあり、フェロモンと呼ばれるものが大きな役割をもちます。

フェロモンとは、ある動物が作り出して体外に分泌し、別の動物の行動や生理的変化に影響を与える化学物質で、多くの場合空気を介して運ばれます。

チョウは、求愛のためにフェロモンを使います。

オスはフェロモンでメスを引き付け、この空気中の化学信号はメスをオスの誘いに敏感にさせるとも考えられています。

フェロモンは私たち人間には気づきにくいものですが、鱗翅目(りんしもく)にとってはとても重要です。

鱗翅目とは、チョウやガなど、鱗粉(りんぷん)のついた羽をもつ昆虫の分類群の総称で、

チョウやガの仲間にはこのフェロモンをより効果的に拡散させるための特別な器官もつ種があります。

それは、羽の鱗粉を特殊化した小さな斑点のような私たちには気付けないものや、コレマタ(coremata)と呼ばれる発香器官です。

フェロモンを効果的にばらまくための器官「コレマタ」

コレマタ

コレマタは、お尻から飛び出す毛むくじゃらの触手で、普段は腹部に隠れています。

伸縮性があり、フェロモンが蒸発する表面積を増やすために、繁殖期になると腹部の後方から膨らませてメスを引き寄せるためにフェロモンを分泌します。

コレマタを膨らませるのは空気、または、血液に似た昆虫の液体「血リンパ」で、これによって昆虫はより効果的に匂いを発することができるのです。

小さくて目立たないコレマタをもつ種もあれば、クロスジヒトリやシロヒトリと呼ばれるガのように、膨らむと約37mm、羽を広げた長さと同じくらい、または、それ以上のサイズにまで膨らむ巨大なコレマタをもつ種もいます。

この種のガのコレマタは4本あり、相手を引き付けるために匂いを出す必要があるときは膨らませ、それ以外では完全に体の中に収納することができます

この種のチョウやガにとって、匂いの発散は、子孫を残すための重要な化学信号として進化的に大きな必要性があることが分かります。

集団による繁殖法「レック」

コレマタを持つ種の中には、「レック」と呼ばれるもので、オスが一斉に集まってメスにアピールする繁殖戦略をとる種もあります。

レックという繁殖法をもつ種には、オスが集まって贅沢な香りを漂わせる鱗翅目(りんしもく)の他にも、大きな音を出す種、色鮮やかな羽をもつ種、また、クジャクのようにお尻が印象的な種もいます。

レックの中で、メスを感動させることができたオスが、繁殖相手に選ばれるのです。

これは、レックのパラドックスと呼ばれる進化生物学でよく知られる問題です。

もし、メスがこの形質でオスを独占的に選んでいるとしたら、それは多様性の暴走を引き起こし、最高の器官を持つオスだけがその遺伝子を広められるはずです。その多様性の欠如は、種全体の生存にとっては悪いことだからです。

レックという繁殖法によって多様性は損なわれない理由

しかし、なんらかの理由で、このようなレックという繁殖法をもつ種には、多様性の欠如は起こっていません。それはなぜかについては、いくつかの仮説があります。

1つの考えは、遺伝的な価値があるとされる特定の形質が種の多様性を抑制しているにも関わらず、その特性をもつ種のオスはとても健康で価値のある交尾をするからです。

しかし、それより一般的な仮説は、選択された特定の形質が、それ自体、適合性のしるしであるというものです。

たとえば、あるガが大きなコラマタを育てるの成功したかどうかというよりも、適切な遺伝子を持っているから大きなコラマタになったのだろうというもの。

それならメスは、大きなコラマタにつながる特定の遺伝子をもつオスを選んでいるのではなく、全体的に健康な固体を選んでおり、遺伝的多様性は一部のガにとってそれほど大きな問題ではないということになります。

フェロモンの分泌量に影響を与えるコラマタの大きさ

大きなコラマタの完全な発達は、フェロモンの分泌量に直接影響されます。

イモムシの時によく食べた成虫のオスは、最も大きなコラマタと最も強いフェロモンを持ち、レックに集まってメスに交尾の時期を知らせるのです。

一方で、幼少期に食べ物に恵まれなかった小さなコラマタをもつ不運なオスは、レックに集まろうとさえしません。

彼らは、一日の終わりに、交尾をしていないメスが合図を開始するのを待って、交尾に参加するのです。なぜこの種がこのようなことを始めたのか、その理由はわかっていません。

レックのパラドックスは謎のまま

レックのパラドックスは謎のままです。

すべてのチョウとガがコラマタを持っているわけではなく、ほとんどがはるかに控えめなものであることには注意が必要ですが、これはチョウとガが私たちを鑑賞目的で喜ばせるためにそこにいるわけではないことは確かなようです。

その他にも、チョウには地球の磁場を検出する能力があるなど、人間にはない生態的能力隠されています。

参照元:The Absolute Worst Thing About Butterflies

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