明かされなかったカエルの舌の驚異的なメカニズム

明かされなかったカエルの舌の驚異的なメカニズム動物・生き物

カエルは空を飛ぶことはできませんが、昆虫やネズミ、さらには、鳥さえも舌だけを使って、類まれなスピードで捕獲することができます。

ここでは、カエルが獲物を捕まえるためにどのように粘弾性の舌を使っているのかについて、研究で少しずつ解明されてきたとてもおもしろい舌のメカニズムと驚異的な捕獲テクニックをもとに分かりやすく紹介します。

私たちが苦労して叩き落すハエも、カエルにとって捕まえるのは朝飯前。

なんとカエルの舌の長さは、体長の3分の1もあり、舌の表面は何千もの粘液腺で覆われているといわれています。

しかし、それはまだカエルがもつ驚異的な能力のほんの一部分にすぎません。

カエルは空を飛ぶことはできませんが、空中に向けて舌を伸ばして、ハエや蛾、トンボなど、はねを使って俊敏に逃げ惑う生き物を狩ることができます。

彼らは、ただ座って獲物を待つのみで、追いかける必要すらありません。

実のところ、このようにカエルが舌を伸ばしてエサを捕獲するための物理学についてはほとんど知られていませんでした。

しかし、近年研究がすすむにつれて少しずつその興味深い仕組みが以下のように解明されつつあります。

カエルの舌の牽引力

2014年に行われたツノガエルの唾液の研究では、カエルが粘着性のある舌を使って、自身の体重の1.4倍もの重量物を持ち上げられることが発見されました。

それは、人間が自分の舌で冷蔵庫を持ち上げるようなものです。

超高速に動く舌

カエルといえば、人間にとっての1秒が4秒に感じるといわれるほどの鋭い視覚をもつハエをいとも簡単にとらえる驚異的な能力が印象的です。

今までにハエを叩くのに失敗した経験がある人も多いと思います。

ハエは、私たちが叩く一瞬の動きがスローモーションに見えるほどの時間感覚をもつ生物であるがゆえに、人間がたやすく叩き落とせないのです。

そんな鋭い視覚をもち、俊敏な反応速度を発達させてきたハエなら、外界で捕食者から逃げるための時間には、常に余裕があるはずなのに、それでもカエルに捕まってしまうのはなぜなのでしょうか?
その秘密は、カエルの舌の構造にあります。

カエルの舌は、2つの強力な筋肉群からなり、これらを拡張させたり、収縮して引きもどしたりして、すばやく獲物を獲ります。

獲物を見つけると、まず、カエルの舌は、1秒間に4000メートルという驚異的な速さで獲物に向けて舌を発射します。これは、ジェット戦闘機の6倍に相当する速さです。

これと同時に、カエルは、さっと口を開けて発射した舌を回転させます。

その舌の動きは、まるでピストルから回転しながら発射する弾丸のようなもので、私たちが瞬きをしている間に獲物の捕獲まで全てが終わっています。

研究によると、カエルは0.07秒以内、つまり、人間の目のまばたきの5倍の速度で獲物を捕まえることができるといわれています。

しかし、カエルにとっての武器はスピードだけではありません。

舌の柔軟性と高粘度

カエルの舌の生体組織は、人間よりも10倍も柔軟性があり、私たちの脳の組織と同じくらいの柔らかさだといわれています。

この脅威の柔軟性によって、獲物は舌に即座に包み込まれます。

そして、獲物を捕獲するとき、舌は、車の衝撃吸収材のように機能し、急速に加えられた舌組織への圧力と抵抗する昆虫のエネルギーを吸収します。

舌が昆虫に衝撃を与えると、舌の表面を覆う唾液が昆虫との隙間に流れ込み、それが接着剤のような役割を維持して、捕まえた獲物を逃がしません。

たしかに粘液の接着強度だけでいうと、動物界にはハムシやトッケイヤモリなどカエルを上回る生き物が存在しますが、カエルには低い圧力で高い粘着力を発揮するための独自のメカニズムが発達しています。

少し難しくいうと、舌の柔軟性と高粘性が見事に組み合わさって、獲物を包み込む弾性エネルギーを生み出しているのです。

そして、あとは、この弾性エネルギーを保持したまま舌を引き戻して、獲物を口に入れるだけでいいのです。

カエルが引き戻すときに使う舌の筋肉は、バンジージャンプのロープに匹敵する弾力性によって、わずか100分の15秒以内にビュンっと口に獲物を引き込んでしまいます。

その後、カエルは、獲物を飲みこむために、眼球を頭の中に引き込んで圧をかけて舌から獲物を滑り落とすのです。

これから、さらに研究が進み、カエルの舌のメカニズムが解明されてくると、舌の牽引力や弾力性、柔軟性を応用して、剥がせる粘着テープや接着剤をはじめ新素材の合成繊維などを生み出せるかもしれません。

舌の対決でいうと、360度という驚きの視野をもつカメレオンも負けてはいません。

舌先が2つに分かれる!カメレオンの舌の能力

カメレオンの舌のメカニズム

カメレオンも、伸縮性のある舌先から出される粘着力のある液をペタっと獲物にはりつけてとらえますが、その一瞬の動作をBBC Earthスローモーション(50倍の遅さ)でみていくと、もっとおもしろい発見があります。

カメレオンの舌の仕組み

人間の舌には骨は存在せず、何十もの筋肉の集合体によって独自の動きを生み出しています。

それに対して、カメレオンの舌には一本の細長い骨があり、その周囲を覆っている弾力のある筋肉組織が獲物をとるために重要な役割を果たしています。

カメレオンの獲物の捕らえ方

カメレオンは、獲物をとらえるときに、まず、舌の付け根の骨を前方に突き出した後、舌の筋肉を獲物めがけて長く伸ばします。

驚いたことに、獲物まで伸びた後、舌先は2つに分かれて、2つの角度から獲物を包み込むようにしてとらえるのです。

そして、獲物をとらえた舌は、一度だらんと垂れ下がった後、筋肉を収縮させながら口の中に引き込まれていきます。

この口から舌を発射するときの加速度は、まさに驚異的な速さで、舌を発射させてから獲物をとらえるまでの時間は1秒にも達していません。

動画で計測されたカメレオンの舌の加速度は41G。この値は、ジェット機が最大スピードで急降下するときのおよそ4倍にもおよぶ速さだといわれています。

参照元:
Journal of the Royal Society
Reversible saliva makes frog tongues sticky
Chameleon Tongue Attack in Slow Motion | Earth Unplugged