実は、私たち人間だけでなく、動物も音楽愛好家である可能性が、何十年にもわたる研究によって分かってきています。
ここでは、動物が実際に音楽をどのように感じているのかについて、研究によって分かってきたさまざまな生き物の音楽の好みや、彼らが音楽が好きな理由に触れながら科学的に分かりやすく紹介します。
音楽への動物の反応を調べた研究は、人間やほ乳類が、感覚器官を通じて音楽をどのようにとらえ、脳の神経系を進化させながら鑑賞する能力を発達させてきたのかを知る手助けにもなっているようです。
人間以外の生き物にも音楽性はある
リズムやメロディーの感じ方は人それぞれですが、クラシック、ポップ、ジャズ、ヒップホップなど、何らかの形で音楽が好きな人はたくさんいます。私たちは、「音楽」と「ただの音」の違いが分かるので、聞くと当然のようにそれらを区別できます。
その音楽への知覚能力は、「音楽性」と呼ばれ、私たちから遠く離れた種であるナイルワニでさえ持っていることが、ドイツやフランスなどの国際的研究グループによって明らかにされています。
ワニも音楽を理解している
研究では、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)と呼ばれる脳画像化技術を使って、脳の血流の変化から、ワニが音楽を聴いたときに活性化する脳の領域について調査されました。
fMRIは、「脳の血流と神経活動には関係がある」という考えのもと、血流が増加(酸素交換量の増加)している部分を、目で見て分かりやすい形で示すことで、脳の神経細胞の活動を知る方法です。
しかし、ワニが本当にfMRIの機械の中で、おとなしく脳スキャンをさせてくれるのでしょうか。
実際に研究に協力してくれたナイルワニは、まだ1メートル未満の子供で、鎮静薬によって落ち着かせたうえで、特別なヘルメットを着用していたため、頭をあまり動かせなかったようです。
この研究によって、ランダムな和音(複数の音の重なり)に比べて、バッハの音楽を聴いたときの方が、ワニの脳の活性化する領域が拡大することが分かりました。
つまり、信じられないかもしれませんが、ワニは「単なる音」と「音楽」を区別でき、バッハのような複雑な感覚刺激を与える楽曲に、より一層耳を傾けていることが発見されたのです。
そして、さらに一歩進み、多くの動物が異なるジャンルの音楽を聴き分けられることも分かっています。
動物は、音楽のジャンルを聴き分けられる
たとえば、ハトは、バッハの音楽を聴いて、特定の鍵盤をくちばしでつつき、ストラビンスキーのオーケストラを聴くと別の鍵盤をつつくというように訓練することができます。
そして、魚でさえ、バッハとブルースの違いを伝えることができるといわれています。
しかし、これらの実験から、生き物が音楽のジャンルを聴き分けられることは解明されましたが、実際に音楽が好きかどうかまでは分かりません。
それを知るために、研究者たちは、音楽のメロディーやビートへの動物たちの反応についてもっと踏み込んで調べてみることにしました。
ネコも音楽が好き
ある音楽研究者は、研究のために、ネコの発声に共通してみられる周波数を使用して、彼らがコミュニケーションに使う音やゴロゴロと喉を鳴らすテンポに合わせて拍数を設定し、ネコ専用の音楽を作りました。
すると、ネコたちは、一般的な音楽よりも、自分達のために特別に編集された楽曲が流れているスピーカーに接近し、熱心に耳を傾けてリラックスする様子が見られました。
どうやらネコも、私たちと同じように、よりリラックスした音楽を求めているようです。
動物の好みはリラックスできる音楽なのか
例えば、2012年の調査では、犬小屋にいる117匹の犬にクラシック音楽の演奏を聴かせたところ、よく眠り、吠える時間が少なくなることが分かりました。
一方で、ロック音楽の一種であるヘヴィメタルは、犬たちを不安にさせるようでした。
また、霊長類、ゾウ、鳥類、ネズミ目に関する研究においても、音楽が少なくとも彼らを落ち着かせたり、グルーミング(身づくろい)のような社会的活動を促進したり、神経質で攻撃的な行動を減らしたりできることが分かっています。
これらの研究で、音楽によって動物がリラックスすることは分かりましたが、それが必ずしも音楽を楽しんでいるとはまだいえません。
おそらく、動物が実際に音楽を好むことを証明する最も説得力のある方法は、次のように動物たちに、聴く音楽を自由に選ばせる研究かもしれません。
サルは音楽が好きではないかもしれない
2007年の研究では、部屋を区切ってさまざまなジャンルの音楽を聴けるようにして、そこでサルが自由に移動し、好きな部屋を選べる環境が用意されました。
その結果、サルはテクノ系の音楽よりも子守唄に好意的な反応を示しました。
しかし、ここでさらに「静かな部屋」というオプションを加えると、彼らは静寂の方を優先したのです。よって、研究者らは、サルが音楽を好きではないと結論づけました。
それに対して、一部の科学者は、研究に使われた音楽のほとんどが西洋のジャンルのもので、他にも音楽はたくさんのタイプがあることを指摘しました。
そこで、2014年に、研究者たちは、野外で囲いに入ったチンパンジーに、国際色の違う3種類の音楽の演奏を聴かせて、その反応を調べてみることにしました。
研究の結果、16匹のチンパンジーは、日本の太鼓の演奏にはあまり興味を示さなかったのに対して、西アフリカのアカン音楽と北インドのラーガ音楽を好み、演奏時にはスピーカーの近くで最も長い時間を費やしました。
これらを科学的にまとめると、動物、特にほ乳類には音楽的な好みがあるように思われますが、「動物は音楽が好きなのか」に対する答えは、まだナゾのままとなりました。
生き物が特定の音楽を好む理由
よく考えてみると、私たちは人間が音楽を好きな理由についても本当に理解できていません。
事実、音楽性の進化については、科学者の間でも数多くの理論があります。
音への感覚は、子宮内で過ごした時間に関係するという説によれば、私たちは、母親の心臓の鼓動や声を思い起こすため、安定したビートと発声を好む傾向があります。
しかし、この理論は、哺乳類の音楽の好みの解明につながる可能性はあるかもしれませんが、鳥のような卵を産むグループに関しては、満足のいく答えにはなりません。
そのため、他の研究者らは、少し視点を変えて、発声を理解することに重要なカギがあると考え始めました。
生き物が音楽に好意的な反応を示すようになった理由
たとえば、古代人のコミュニケーションで、合図に音楽のようなものが使われていたとすれば、音やリズムの微妙な違いを理解することが、危険の察知をはじめ、生きていくうえで必要であった可能性があります。
このように音が生存率に直結していた考えるなら、私たちの脳の報酬システムが、生存や子孫繁栄を維持するために、音楽に楽しさを見出したことが説明できます。
この仮説は、多くの発声を用いてコミュニケーションをとる霊長類や鳥類がなぜ音楽性を持つのかを説明するのにも多いに役立つでしょう。
そして、魚や昆虫でさえ、コミュニケーションに音を使うことがあるため、その理論は、どうやら動物界全体に音楽の好みがあることの説明にもつながる可能性がありそうです。