砂漠にいるラクダのこぶは水分からなると誤解している人が多いようですが、実は、栄養補給のための「脂肪」が入っています。水分維持には、こぶよりも血液が大きな役割を果たしているようです。
みなさんは、かつてラクダが、北極圏のツンドラ地帯に生息していたことをご存知でしょうか?
そうです。あの砂漠のラクダが、氷や雪の上を歩きまわっていたのです。
どうやらラクダは砂漠で生まれたわけではないようです。
そして、科学者らは今、ツンドラ地帯の長い冬を耐え抜くために、ラクダの象徴である「こぶ」が生まれたと考えています。
以下にラクダのこぶの役割や、中はどうなっているのかについて、探検家ジョン・ヘア氏の興味深い体験談もあわせて紹介します。
驚くことに、今、ラクダのこぶが、栄養豊富なスーパーフードとして注目され始めているようです。
ラクダのこぶは非常食となる栄養源「脂肪」
ジョン・ヘア氏は「ラクダのこぶの中身を水分補給のための水だと思っている人は多いようですが、実は脂肪であり、長旅の間、彼らの貴重な栄養源となる」といいます。
ヒトコブラクダやフタコブラクダの1つのこぶには、約36キログラムもの脂肪を蓄えることができ、数週間から数ヶ月間もの間、ラクダは何も食べずに生きていくことができるのです。
エルズミア島は、カナダ高緯度北極圏(北緯80度)。
鮮新世(せんしんせい)の地質時代は、今より地球の平均気温が2度から3度高いとはいえ、動物が生育するには厳しい地帯です。
このような適応能力は、350万年前の氷河期真っ只中、現在のラクダの祖先がいた北極圏のツンドラ地帯で、太陽の昇らない日が約半年も続く長い冬を越えるうえで、特に重要だったと考えられます。
氷河期には多くの哺乳類が絶滅しましたが、どうやらラクダは非常食となる「こぶ」を発達させて生き延びたようです。
ラクダのこぶは体温を低く保つのに役立つ
やがてラクダの祖先は、当時陸続きだったベーリング海峡を越えて、北米からアジアやアフリカの地域に移動し、こぶの中の脂肪で再び新天地に適応することができました。
極寒の地から今度は、ゴビ砂漠やサハラ砂漠の猛暑に適応していくのです。
ラクダは世界で唯一、脂肪を一カ所に蓄えている動物です。
それによって、体の他の部分から熱を早く逃がせるため、体温を低く保ちやすく、暑い気候の中でも涼しく過ごすことができるのです。
ラクダに比べて、人間のような他の哺乳類は、体全体に脂肪を蓄えているので、体温を低く保つのが難しくなります。
ラクダのこぶを非常食とする人々
今日でもラクダは、こぶの脂肪を食料の備蓄として使っていますが、実は、その脂肪を活用するのはラクダだけではありません。
例えば、ケニアのトゥルカナ族は、極限状態になるとラクダの脂肪を食べて生き延びます。
信じられないかもしれませんが、彼らはラクダのこぶの上部を切り開いて、自分たちが食べるための脂肪を取り出し、またこぶの上部を元に戻すのです。
ただし、そのような例は稀なケースで、ラクダのこぶは完全に回復するようです。
ラクダのこぶがスーパーフードとして注目?
しかし、この習慣によって、ラクダの脂肪が新たなスーパーフードとして拡散され始めています。
ラクダの脂肪には、脂肪酸、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれていることが判明したのです。
ラクダの脂肪を販売するDesert Farms社によると、大さじ1杯で1日に必要なビタミンB12の40%、スーパーフードの代表格であるココナッツオイルの3倍のオレイン酸が含まれているそうです。
栄養不足になるとこぶはグニャリとなる
実は、ラクダのこぶは栄養価の高い脂肪で満たされているため、長期間の断食をすると、ぐにゃぐにゃになることがあるそうです。
過酷な環境におかれると、こぶは徐々に小さくなっていき、ラクダの背骨の横にポトリと垂れ下がってしまうのです。
なぜラクダは水なしで長期間生きられるのか
さて、水ではなく脂肪がこぶを構成しているとなると、乾燥した気候の中で、ラクダはどのように水分を補給しているのでしょうか?
ラクダは、体重の3分の1近くの水分を失っても生きられるといわれています。
その秘密は、大量の水を貯蔵できる「胃」、特に「血液」にあります。
ラクダは全身にユニークな血液細胞を持っていて、それはこぶの中にもいくつかあります。
水分を保持する能力の高い血液の仕組み
この血球はとても弾力性に富み、大量の水分を保持するのに適しています。
ラクダは10分間で115リットルもの水を飲むことができ、その過程で細胞は破裂することなく240%まで膨張するのです。
通常私たちの体は、大量の水分を急激に飲むと、血液が希釈され、体内の血液成分や電解質のバランスが崩れて、命の危険をもたらすことがあります。
一方でラクダは、全身に機能的な毛細血管が張り巡らされているので、水を飲むとどんどん膨らんで、まるで妊娠しているかのように見えるそうです。
ラクダの優れた水分保持能力
また、ラクダの血液は、水分がなくなってもどろどろになりにくく、血球が小さくて楕円形をしているため、血液量が減って細くなった血管でもスムーズに移動できるようになっています。
実は、ラクダの体温は平均37℃で、汗をかきはじめるのが42℃。
つまり、汗によるムダなエネルギーの消耗や水分の流出を防いで、水分を維持し続ける能力がかなり優れているのです。
中国の野生のラクダにおいては、海水でも生き延びることが知られています。
昼は厳しい暑さ、夜は気温がマイナス30℃まで下がる砂漠でも、何週間も食べ物や水がなくても、あるいは北極圏での暮らしでも、ラクダは、厳しい生存競争を勝ち抜いてきたのです。
そしてそれは、彼らの象徴的な「こぶ」や「血液」のおかげだったのです。
参照元:
・Where Do Camels Store Their Water?
・What’s Inside A Camel Hump?