嘔吐物が1gあたり2000円以上で取引される。こんな夢のような話があります。もしあなたがマッコウクジラであったら。
ある夕暮れ、海辺を散歩していた男性が、ラグビーボールくらいの岩のような漂流物を発見しました。それはなんともいえないくささで、石のわりには持ってみると軽く、ところどころワックスのように粘り気がある部位があります。
愛犬がそのそばから離れようとしなかったため、持ち帰ってみると、なんとその拾い物が700万円で落札されたというのです。
高値がついた理由は、それがマッコウクジラの嘔吐物であることが分かったからだといいます。
その他にも、イギリスの海岸でたまたま約2.7kgのクジラの嘔吐物を拾い、2000万円を手にした男性や、オーストラリアの海岸でおよそ3390万円相当に及ぶ14.75kgの嘔吐物を発見したカップルもいます。
ここでは、クジラの嘔吐物が、なぜそれほどまでに高値で取引されるのかについて、嘔吐物の正体や用途を中心にSeekerから分かりやすく紹介します。
クジラの嘔吐物は昔から使われていた
クジラの嘔吐物は、「アンバーグリス」というとても魅力的な名前がつけられています。
古代エジプト人は、抹香としてアンバーグリスを使ったといわれ、今日ではたばこにも使われています。
中世では、頭痛や流行病といわれた黒死病(ペスト)の治療にも使われていました。当時は、疫病から守ってくれるお守りとして信じられており、アンバーグリスを持ち歩く人もいました。
エリザベス1世は手袋の香りづけに使い、チャールズ2世はすりおろして卵にかけていたそうです。中国や日本では「龍涎香(りゅうぜんこう)」と呼ばれており、香料や漢方薬として使用されていました。
アンバーグリスは、見た目は岩石ですが、臭いが強烈で、今日では非常に高値がつきます。
それでは、一体だれが、この臭い海の漂流物にこれほどの高値をつけるのでしょうか?
それは、香料を扱う会社です。
香料としてのアンバーグリス
香料業界は、クジラが嘔吐した後、それをそのまま香料として使うわけではありません。実際には、香水の香りを、人間の肌に定着させる優れた能力が注目されています。
アンバーグリスには、人間の肌から香水が蒸発する工程をゆっくりにし、香りを持続させる効果があるといわれています。
アメリカではクジラを保護する観点から、アンバーグリスの使用が禁止されているため、代替品として合成固定剤が使用されていますが、天然のアンバーグリスのほとんどは、フランスの香料業界が持っています。
マッコウクジラの嘔吐物は、今ではめったに手に入らない希少価値の高いものであるからこそ高値がつくようです。
アンバーグリスの正体
マッコウクジラがダイオウイカを好物にしていることはよく知られていますが、アンバーグリスの中には、大きなイカの嘴(くちばし)がしばしば埋め込まれています。
そのため、科学者たちは、アンバーグリスの正体について、クジラが消化しにくい硬い物を食べたときに、腸の通りをよくして排出するために腸で分泌され、それが結石されたものだと推測しています。
アンバーグリスは、一般的に、クジラの嘔吐物として知られていますが、それらは、また、便として出ることもあるようです。
このようにして、クジラが海に吐き出したアンバーグリスは、長い年月をかけて海に浮遊するうちに、固められていきます。
ときには、発見されるまでに何年も海に浮かぶこともあり、その過程で、海の塩水が、ワックスのような粘り気のある質感をもたらすこともあります。