クジラに人間が誤って飲みこまれたらどうなってしまうのか?

2020年9月 8日

ピノキオといえば、クジラのお腹の中でのゼペットじいさんとの再会シーンは有名です。

感動的なシーンですが、同時に、
「もし自分もクジラに飲みこまれてしまったら」
と不安になった人もいるかもしれません。

それでは、本当にクジラが誤って私たちを飲みこんでしまう可能性はあるのでしょうか?

実は、シロナガスクジラやジンベエザメのような、プランクトンを飲みこむ巨大生物の場合、答えは「ノー」です。

しかし、科学者らは、マッコウクジラのように歯のあるクジラとなると話は別で、飲みこまれてしまう可能性は否定できないといいます。

もしマッコウクジラが誤ってあなたを口の中に入れてしまったら、一体何が起こると思いますか?

どうやらその先には、絶望が待ち受けているようです。

ここでは、南フロリダ大学の研究者、フィリップ・モッタさんの話を中心に、クジラに飲みこまれた人間はどうなるのかを紹介します。

野生動物に遭遇したときのサバイバルテクニック

運悪く野生動物と遭遇してしまったときのサバイバルテクニックについては、やってはいけないことややるべきこと、体験談など、ウェブ上には役立つ対処法がたくさんあります。

たとえば、ライオンに襲われそうになったら走って逃げようとしないこと。時速50mph(80kph)にも達するライオンのスピードに太刀打ちできるわけがありません。

専門家によると、ライオンに対して正面から向き合って、自分をいかに大きく見せられるかが大切だといいます。捕食者の頂点に立つライオンに対してなんて、ハードルの高い対応を求められるうえ、いずれにしても大きな代償を払うことにはなりそうですが。

もし遠くからクマが自分目当てで近づいてくるなら、走って逃げずに、これもまた自分を大きく見せます。切株や石の上に立ってもいいので、「ぐぁー」と狂ったように叫んだり、大きな音を立てたりして必死で威嚇。

それでもダメなら、地面にうつ伏せになって首の後ろで手を組むこと。何度転がされてもうつ伏せに戻ります。

しかし、サメの場合、死んだふりは通用しません。

サメと目を合わせたまま、できる限り水しぶきをたてないこと。

ボールのように体を丸めるのもよいといわれますが、言うは易く行うは難しですね。

しかし、こういったサバイバルテクニックは、いつかあなたを救うかもしれません。

さて、前置きはこれくらいにして、以下より、野生動物による危険の中でも、最も想像できない遭遇者「クジラ」について、もしピノキオのように誤ってクジラに飲みこまれたらどうなるのかについて、専門家の話を中心に紹介します。

本当にクジラに飲みこまれた人間はいるのか?

問題の核心に迫る前に、クジラに飲み込まれた人間の話から始めましょう。

旧約聖書のヨナの物語を聞いたことはありますか?

ユダヤ人の預言者、ヨナが、巨大な魚に飲みこまれて3日間、魚のお腹の中で祈り続け、吐き出される話です。

この巨大な魚は、クジラを意味するという説があります。

聖典には、ヨナが悔い改めて、アッラーを讃えていなかったら、彼は魚の中から出られなかったであろうと示されています。

しかし、悔い改めれば大きな魚があなたを吐き出すようになるという考えはあまり現実的ではないですね。

巨大なクジラに食べられたと話す人々の逸話

さて、シロナガスクジラに飲み込まれたと主張する人々の話もあります。

シロナガスクジラは、クジラの中でも最も大きく、体長は約100フィート(30メートル)以上、体重は40万ポンド(約18万キログラム)にも相当します。

なんと舌だけで、平均的なアジアゾウと同じくらいの重さがあるといわれています。

これは、あなたと400人の友達が一緒にクジラの口の中に入ってしまうくらいです。

シロナガスクジラより小さくはなりますが、歯のあるクジラの中では一番大きいのがマッコウクジラ。

大型のマッコウクジラは体長67フィート(20.5メートル)に達し、重さは112,435ポンド(約51,000キロ)。

これらのクジラは大食漢で、毎日体重の約3%相当の食べ物を消費します。

つまり、クジラが口を開けた時に、人間が、あるいは複数人のグループが誤って入ったとしても、クジラにとっては全く問題にはならないでしょう。

3日間クジラのお腹の中で過ごしたスペイン人の漁師の話

2015年に、ルイジ・マルケスというスペイン人の漁師が、クジラに食べられて3日間腹の中で過ごしたという記事がありました。

3日間。これは、ヨナが巨大な魚の中で過ごしたのと同じ期間です。それだけでも怪しい気がしますが、実際にこれは捏造された記事でした。

しかし、ジャーナリズムの衰退を嘆くべきことに、多くのウェブサイトがこの話を一気に広めてしまったのです。

その他にも、クジラの中に消えた男についての話はまだあります。

クジラのお腹から生きたまま発見された乗組員の話

ジェームズ・バートリー氏、別名「現代のヨナ」と呼ばれる男の話です。

1891年、イギリスの捕鯨船「スター・オブ・ザ・イースト」は、フォークランド沖で巨大なマッコウクジラを発見。乗組員たちは、すぐさま狩りのためにモリを持って小舟に乗り込みましたが、小舟は壊れて沈没。

乗組員のうち、ほとんどは救助されましたが、一人が溺死し、もう一人は行方不明となりました。バートリー氏です。

翌日、他の乗組員が捕らえたクジラのおなかを切ったところ、胎児のように膝を抱えて丸まったバートリー氏が胃の中から生きたまま発見されたのです。

彼は、救出後、数週間は狂乱状態が続いたものの、クジラのお腹の中で36時間生き延びたといいます。         

この出来事は当時のイギリスとアメリカのマスコミによって広く報道され、イギリスのメディアは、「現代のヨナの救出」という見出しで大きく取り上げました。

この時、バートリー氏が乗組員に話したと思われるクジラ内部の冒険物語は、次のようなものでした。

「バートリーは、暗闇に飲みこまれ、滑らかな通路の中を滑るようにして運ばれていった。

すると、通路から手を伸ばすことができるほどの広いスペースに出た。

そこで、壁のようなぬるぬるした物質を触ったとき、彼は、自分が飲みこまれたことに気付いたのだ」

しかし、このバートリー氏の体験談は、19世紀後半とはいえ、フェイクニュースの可能性があるため、いくつかの調査が行われました。

すると、当時「スター・オブ・ザ・イースト号」という名の船が、その海域を航海していたが、それは捕鯨船ではなく、ジェームズ・バートリーという名の乗組員はいなかったことが判明。

また、船長の妻も、「クジラの話は真実ではありません。私は航海中夫と共にいましたが、海で遭難した人物は一人もいませんでした。船乗りたちの壮大な作り話でしょう」と否定。

人間がクジラのお腹に入ったら命はない

さて、それでは、クジラの口に人間が入ることはできるのか、また、入った後はどうなるのかについて科学的に見てみましょう。

ある科学者は、もしシロナガスクジラだったら、人間は、クジラの口の中に入ることすらできないだろうと言います。

食道が小さすぎるために、口の中に入ってしまったとしても、吐き出されてしまうからです。

しかし、歯のある哺乳類となると、全く別の問題です。

マッコウクジラもシャチも、私たちよりも大きな獲物を飲み込むことができるので、あなたは食道に入れる可能性があります。

しかし、科学者によると、たとえ私たちがその鋭い歯を乗り越えて、なんとか食道に入れたとしても、次にはクジラの消化器系という難関が待ち構えています。

クジラの消化器系を満たした消化酵素は、人間の皮膚を溶かすだろうし、どうにかしてまだ生きていたとしても、マッコウクジラには牛のように4つの胃袋があり、そのうちの1つを通過する間に命は終わるでしょう。

ネイキッド・サイエンテイスト誌によると、胃袋を突破できた喜びもつかの間、そこには空気はなく、メタンガスだけが充満しているので、すぐに死んでしまいます

科学的見解という点で信頼できるスミソニアン誌も、この科学者の意見に同意し、「たしかに魚の中には空気がないので、最終的に生き残ることはできないだろう」と結論づけています。

ジンベエザメの口の中に入ってもすぐに吐き出される

あるダイバーのサイトには、ジンベエザメの口の中に、頭から吸い込まれた体験が書かれています。

彼は、太ももまで口に入りましたが、逃げようともがくうちに、サメに吐き出されたようです。

ジンベエザメは口の長さだけでも152センチメートル(5フィート)もあり、1時間に600立方メートルの水を吸い込むことができます。

しかし、誤って吸い込まれたとしても、ジンベエザメの食道の大きさは数インチしかないため、たとえプランクトンよりも人間の肉を好んだとしても、飲みこむことはできません

2010年、南フロリダ大学の研究者フィリップ・モッタ氏は、ジンベエザメの摂食解剖学と行動についての研究を行いました。

そこで、彼のチームは、ジンベエザメが異質なものを食べるのを好まないことを発見。

海水に浸した米を、ジンベエザメが水面で餌を濾過しながら口の中へ入れるタイミングに合わせて投げ込んだところ、サメは、口に入るとすぐに片手分の米を吐き出してしまうのです。次に、サルガッソ海藻を目の前に放り込んでみたところ、それも吐き出してしまいました。

しかし、ダイバーの相手が不幸にも他のサメやマッコウクジラであれば、吐き出すかわりに、かみ砕かれていたかもしれません。

過去にクジラに飲みこまれた人間の事例はない

実際に、1人のジャーナリストが、何日もかけて過去の事例を調べてみたところ、ベッドフォード捕鯨博物館の研究図書館でも、クジラに飲みこまれて生き残った人物どころか、クジラが誰かを飲み込んだ事例さえゼロでした。

シャチやマッコウクジラのような歯のある哺乳類は、腕や足を噛み切る可能性はあっても、人間を丸ごと飲みこもうとはしないようです。

いずれにせよクジラの口には近づかない方がよいでしょう。