枝や土、植物にできる氷の花「フロストフラワー」や「ヘアアイス」。それは、寒い冬にしか見られない氷の自然アートです。
これらの氷の結晶が生み出す絶景は冬に、特定の条件下でしか見られません。
以下に、特殊な水の性質「粘り」が原因で現れる珍しい「氷」の正体について紹介します。
氷の花「フロストフラワー」「ヘアアイス」とは
寒さが身にしみる冬、木の枝を、細い糸状の氷が何束にもわたって覆う「ヘアアイス」。
足元には、花びらが広がったような氷の花「フロストフラワー」。
この種の氷は非常に珍しく、特定の条件がそろったときにしか現れないため、遭遇できたのはラッキーだといえるでしょう。
このような氷ができる条件とは、粘り気のある「水」。
しかし、水の性質には、ハチミツのように感じる「粘り気」なんてありませんよね。
それは一体どういうことなのでしょうか?
水の粘着性とは?
水は、ハチミツのように私たちが感じる粘着性はありません。
しかし、水はお互いにくっつきあうのが大好きなのです。
水を拡大してよく見てみると、同じ形の小さなピースでできていることがわかります。
それが、お互いに磁石のようにくっついているのです。
たとえば、コインの上に水滴を重ねるとどうなるでしょうか。
水滴が、お互いに強くくっついて大きな粒になり、コインの側面からこぼれないようになっていますね。
凝集性をもつ液体
科学ではこれを「粘着性」とは呼びません。
液体の粒同士が、お互いに力を及ぼし合ってくっつくことを、「凝集性」と呼んでいます。
水の場合は、粒同士の塊の表面に水の膜ができ、ドーム状になっていくのを見ることができます。
では、同じことを、消毒用アルコールのような別の液体でやってみるとどうなると思いますか。
落とした液滴は、そのまま流れていき、ドーム状にならないのがわかります。
それは、アルコールには水のような凝集力がないからです。
とはいえ、凝集力があの氷のような髪の毛とどのような関係があるのでしょうか?
凝集性による氷のでき方
先程、氷が髪の毛や花のような形になるのは、水の凝集力が大きく関係しているといいました。
ポイントは、髪の毛のような氷が生えていた木の枝には、水分が含まれていること。
木の中には、水や養分を運ぶ小さな管がたくさんあります。
まず、木の断面図を顕微鏡で見てみましょう。小さな穴が開いていて、その管のいくつかは木の外につながっているのがわかります。
枝が何らかの影響で折れたり、枝に亀裂が入ったりすると、この管の中に雨水が入ります。
その後、枝の周りの空気が冷え始めると、外気に触れたこの小さな穴の端から水が凍り始めるのです。
小さな水のかけらが凍ると、水分子は結晶という特別なパターンに並び、水の体積は大きくなります。
この氷を形成する水分子のパターンは、液体の水よりもはるかに大きなスペースを必要とするので、水はスペースを求めて枝の外側に移動していきます。
凍る部分が大きくなると、管の中に残っている液体の水はどうなると思いますか?
氷が一列になって飛び出す仕組み
こうやって考えてみましょう。
先程、水を構成するパーツは互いにくっつくと言いました。
もし、友達同士何人かでドアの手前で手をつないで並んでいた場合、最初の友達がドアを通り抜けたらどうなるでしょう?
そうです。最初の友達は次の人の手を引っ張ってそのドアから出るので、ドアの外で列になるようにして隣り合います。
つまり、凍った水が空気中に出ていくと、次の水分子も穴の出口に引っ張られていくのです。
凝集力で引っ張られるんですね。
そして、その水も凍って穴の外に出ていく。
これが何度も何度も繰り返されて、細くて長い髪の毛のような氷ができるのです。
残念ながら氷の束は、細い糸状の氷からなるので、持ち歩いたり、気温が上がったりすると、すぐに溶けてしまいます。
実は、この水の凝集力は、植物が根から水を葉の先まで吸い上げるときにも役立っています。
溶けた「フロストフラワー」や「ヘアアイス」を再び凍らせるととうなるか
それでは、この溶けた氷の水を再び冷やしたらどうなると思いますか?
また氷の毛が生えてくるのかな?
残念ながら普通の氷になるだけで、2度と氷の毛や氷の花にはならないでしょう。
なぜなら、水は、枝の中にいないので、そこには氷が細く伸びていくための穴がないからです。
枝や土、植物にできる氷のアート
水は、この凝集力のおかげで、他にも素晴らしい形の氷に成長することができます。
水が土の穴で凍ると、土から髪の毛のように細い氷の針が。また、シモバシラのように植物の茎の細長い裂け目から凍ると、氷の花が咲きます。
次に寒い冬が訪れたら、ぜひこたつから飛び出して、寒い日にしか咲かない氷の花を探してみてください。
植物や木の枝にできた「氷のアート」を見ることができると、あなたはラッキーだといえるでしょう。