2019年、世界で最も黒い物質が公開されました。
ある真っ黒なダイアモンドによってその存在が世界に示されたのです。
なんと、それは2億円以上もするダイヤモンドを地球上で最も暗い色で覆った物体。
実際、この黒い素材はあまりにも暗く、入ってくる可視光線の少なくとも99.995%を捕らえることができるといわれています。
しかし、なぜ2億円ものダイヤモンドを覆っているのでしょうか?
そもそもどうやって作られたのでしょうか?
以下に、世界で最も暗い黒がなぜ、どのように生まれたのかを紹介します。
世界で最も暗い黒色の誕生
みなさんは、「ベンタブラック(Vantablack)」を覚えていますか?
2014年に発表され、かつて世界で最も暗い素材とメディアは呼びました。
しかし、この色は、もっと黒いのです。
そして、それはアートとサイエンスによる前代未聞のコラボレーションの成果でした。
科学と芸術の世界初のコラボレーションの成果
2019年9月、MIT(マサチューセッツ工科大学)の科学者たちは、カーボンナノチューブを使って作られたこれまでで「最も暗い黒」の素材を発表。
それは、かつて世界で最も暗い素材と言われた「ベンタブラック(Vantablack)」の材料と同じものでした。
科学者が作ったとはいえ、「Redemption of Vanity」というプロジェクトのためにディムート・シュトレーベというアーティストが発案したもの。
ディムート・シュトレーベは、米・マサチューセッツ工科大学(MIT)におけるレジデント・アーティストでもあった女性で、現代の先端科学と協働した作品を展開しています。
ダイヤモンドの光を完全に消滅させるプロジェクト
2014年、ディムート・シュトレーベは最も黒い色を見つけるというミッションに着手しました。
彼女の目標は、ダイヤモンドの光を完全に消滅させることでした。
一方、ブライアン・ワードルという科学者は、まったく別のミッションに取り組んでいました。
彼はカーボンナノチューブと呼ばれる素材を研究中でした。
これは、ベンタブラックの材料と同じ炭素によって作られる物質ですが、アルミニウムなどの素材の熱的、電気的特性を高めるために使われていました。
しかし、ワードル氏は、この時はまだバンタブラックよりもさらに暗いものを作っていることを知りませんでした。
ブライアンが最も暗い黒を探す研究で、カーボンナノチューブの光学特性を調べはじめたのは、アートプロジェクトがきっかけでした。
この新しい材料は、これまでに報告されたどの色よりも10倍も黒いのです。
世界一暗い黒の作り方
その理由は、おそらくナノチューブの構造に関係しているのでしょう。
この場合、ワードル氏と彼の研究チームは、アルミニウムの上にそれらを成長させました。
さて、成長という言葉を使いましたね。実は、このカーボンナノチューブは生きてはいませんが、実際に成長させることができます。
そして、それを炭化水素ガス(アセチレン)の存在下に置いて高温で焼く。
それだけです。
カーボンナノチューブは、種から植物が生まれるように、金属粒子から芽を出すのです。
この方法での作り方を正しく理解すれば、カーボンナノチューブの森を作ることができます。
これは非常に長いアスペクト比のもので、100万分の1くらいです。直径に対して、チューブの長さが100万にもなるわけです。
これが成長して、いわゆる「森」になるのです。
このカーボンナノチューブの森が、この黒色を生み出すカギとなります。
黒色が世界で一番暗い理由
フォトン(光子)と呼ばれる光の粒子がそこに入ると、ほぼすべての光子が捕らえられて、熱として逃げていきます。
そのため、この黒色を見ると、まったく何も見えないのです。
影もなく、線もなく、ただ黒いのです。
これが、シュトレーベのダイヤモンド消滅プロジェクトに最適でした。
実際、ワードル氏のチームは、まったく同じ手順でカーボンナノチューブをダイヤモンドの表面に直接成長させています。
ご存知のように、ダイヤモンドは炭素の塊です。
同じ元素なのに、原子構造が違うだけで、現象や見た目が極端に違ってくるのです。
その結果、この材料は数億円のアートプロジェクトに役立つだけではないことがわかりました。
科学者たちは、この新たな材料を、宇宙の遠くの天体を探査する望遠鏡などの光学センサーのまぶしさを抑えるために使うこともできます。
迷光を吸収する素材があれば、太陽系外惑星のような天体をより詳しく観察することができるようになります。
ただし、このプロジェクトで発見された色は、これほど高い光の吸収率であっても、まだ改善の余地があると考えられています。
そのため、将来的にもっと暗い色が発見されるのも時間の問題かもしれないのです。