なぜ化石は全ての骨がそろっていないのか?

恐竜の化石骨格が不完全な理由キッズサイエンス

1990年、サウスダコタ州で偶然見つかった恐竜の化石は、まさに大発見となりました。

それが最も人気のある恐竜「ティラノサウルス(T.レックス)」だったからというわけでも、シカゴの有名なフィールド自然史博物館に展示されたからというわけでもありません。

大発見といわれた理由は、恐竜の化石がもっていた骨の数によるものです。

これほどまでに失われた骨の少ない骨格はとても貴重なものだったからです。

では、なぜ恐竜の化石は、完全な骨格の状態で見つかることがないのでしょうか?以下にみていきましょう。

恐竜の化石はほとんどが不完全な骨格

世界最大のティラノサウルスの化石「ス―」

現在「SUE(スー)」と名付けられたこのティラノサウルスは、その骨格の「完全性」の高さから大きな話題となりました。

化石化した骨格には、かつて生きていたティラノサウルスを構成していた380本ほどの骨のうち250本が残されていたからです。

通常、発見される恐竜の化石の大半は、数個の骨片や1本の歯程度のものしかありません。

そもそも恐竜が化石になり始めた場所でそのまま化石化する可能性はかなり低く、骨格全体が化石として残る可能性はさらに低いからです。

化石が不完全な理由

まず、恐竜のような先史時代の生物が死ぬと、捕食者やスカベンジャー(腐肉食動物)らによって体は引き裂かれ、その場から持ち逃げされます。

恐竜が化石化するまで

残された骨は水の流れによってあちらこちらに散らばり、時には物の群れに踏みつけられ、さらには太陽や風によって風化します。

恐竜の化石が残るまでの道

そのため、ほとんどの骨格は化石化する前にバラバラになってしまうのです。

また、溶存酸素量や温度など化石化に適した化学的条件のない場所では、腐敗が進むだけで骨格は全て微生物に分解されてなくなります。

仮に化石化に成功した骨格があったとしても、それは、地層や岩盤が崩れる何千万年という地質学的な激変をくぐり抜けなければなりません。

たとえ骨格が、千万年という長い年月を完全な状態で残されたとしても、完全な状態のままであるためには、完璧なタイミングで発見されなければならないのです。

化石が露出するほど浸食が進んでいるが、化石自体の大部分が風化していないような状態です。

つまり、完全ではないにしろSUEさんのような全身の骨が残っている骨格は本当に希少なのです。

恐竜の骨格が失われるのを防ぐ条件

恐竜の化石を完全に残す条件

しかし、恐竜の骨格が時間の経過によって失われるのを防げる条件はいくつかあります。

たとえば、火山の噴火や、「土石流」と呼ばれる大量の土砂によって、恐竜が命を落とすと同時に埋められたような場合です。

このような骨格は死後すぐに埋められることで、しばらく放置された骨格よりも無傷でいられる可能性が高くなります。

さらに、小型であるほど埋めるのに必要な土砂が少なくてすむため、恐竜全体が覆い隠される可能性が高く、完全な形で残る可能性が高くなります。

化石の骨格の紛失を防ぐ条件

最後に、草食恐竜のマイアサウラのような一般的な恐竜種の方が、希少な恐竜種よりも多くのきれいな骨格を残している傾向があります。

SUEは、比較的大型で希少な恐竜種ティラノサウルスであるがゆえに、これほど多くの本数が残される可能性は低いはずなのです。

おそらく巨大な岩屑流のおかげで全身の骨が残ったのでしょう。

幸運にも、SUEの化石は見て驚くだけでなく、その完全性からティラノサウルスの解剖学、生物力学(バイオメカニックス)、さらには彼らの日常生活についてまで多くのことを教えてくれました。

シカゴのフィールド博物館白亜紀の恐竜Tレックスの化石

しかし、恐竜の骨格をこれほどまでに良好に保存するためには、一連の非常に珍しい条件が必要だったということは忘れてはなりません。

SUEは、ほとんどの恐竜の死に方や、彼らの死後の体が散乱し風化するような状況とは違ったことを意味します。

そして、それらの一般的なことについて学ぶには、完全ではないより一般的な化石を研究する必要があります。

いずれにせよ、恐竜の化石を見つけるのは、どんなに不完全なものであっても素晴らしいことだといえるでしょう。

参照元:Why Most Fossils Are Incomplete