人間が人工的に雨を降らせることはできるのか?

雨雲の種をつくる5つの方法とは自然科学・地球科学

人間が、どのようにして雨が降る量を増やしているのかを中心に「雲の種」をまくための研究など、雨を降らせるための5つの方法について紹介します。

「雨雲をつくる方法」についての研究がすすむと、いつの日か、農作物のために意図的に雨の量を増やしたり、遠足の日を晴れにしたりといった夢のような日がやってくるのかもしれません。

古代より、人々は、なんとかして雨をコントロールしようとしてきました。

しかし、現代のテクノロジーでさえ、かろうじて雨を降らせたとしても、雨量を操作するほどの技術まではありません。

一方で、予期せぬ形で、天気に影響を与え、雨を生み出している人間の行いがあることを知っていますか?

雨雲を作りたい

仮に、ゼロから雲を作りたい場合、まずは数百トンもの水を空に運ぶために、ジャンボジェット機の艦隊、または、数百の熱気球を用意しなければなりません。

そして、その水を、浮けるほどの小さなサイズの液滴(ミスト)に分散させる必要があります。

いかがでしょう。

雨雲を作るのは、決して簡単ではないことが分かりますね。

しかし、それを実際に行っているものがあります。

地球の大気です。

大気は、海抜20kmまでの高度で、太陽エネルギーと、地上からの水を使って世界中に次々と雲を送り出しています。

雲が放出するエネルギー

小さな積乱雲でも、凝結によって放出される総エネルギーは膨大です。

驚いたことに、そのエネルギーは約270トンのTNT爆弾の威力に相当するといわれています。

そして、水蒸気の供給がはるかに多い場合、放出されたエネルギーは、激しい上昇気流、激しい雷雨、およびグレープフルーツサイズの雹(ひょう)を伴う雲の柱を生成する可能性があります。

都市のヒートアイランド現象が雨を増やした

世界の巨大市場が都市に集中するにつれて、人々は、都市生活のために景観を劇的に変えました。

その結果、周辺の郊外部に比べて、都市での雨が降る割合は増えていることが調査では分かっています。

理由のひとつは、都市のヒートアイランド現象です。

エアコンや自動車から排出された熱が気温を上げるだけでなく、ビルやコンクリートなどが太陽の熱を地表面から大気へ放出するなど多くの要因によって、都市は郊外部よりも気温が上昇する傾向があります。

人口が集中する都市には、排熱する自動車やエアコン、ヒーターなどのさまざまな発熱機械が小さな領域に詰め込まれています。

さらに都市は、コンクリートやアスファルト、鋼などの熱吸収材でいっぱいです。

保水力の低い道路や屋上などの平らな表面が、土や植物で覆われていた自然植生の多くに取って代わったため、日陰や自然冷却効果は低下しました。

いわゆるヒートアイランド現象の発生です。

そのすべての熱のおかげで、地面の水分子はより多くのエネルギーを持つことができ、液体の形に保たれた水素結合をより簡単に切断して水蒸気に変えることができます

結果的に、ヒートアイランドが発生した都市の上空には余分な水蒸気がたくさんあります

そして、それは雨を形成するプロセスを開始します。

大気中の水蒸気が凝縮して小さな液滴を形成するときに雨が形成されるからです。

十分な水滴が集まると、それらは雲から落ちるほど重くなります。

したがって、空気中の水蒸気が多いほど、雨は降りやすくなるというわけです。

すると必然的に、都市とその周辺地域では、雨がより頻繁に降り、より激しくなります。

世界中の都市に関するある調査によると、都市の風下では、平均降雨量は都市の風上よりも50パーセントも多くなります。また、地中海東岸での最近の調査によると、気温が摂氏1度上昇するごとに、降雨の強度が約3パーセント増加することも分かりました。

しかし、都市が過剰な降雨を生み出す理由は、都市の熱だけではありません。

高層ビルが立ち並ぶ風景が雨量と関係している

高層ビルやその他の建物でいっぱいのでこぼこした風景もまた、雨を降らす役割を果たしています。

これは、都市に流れ込んだ空気が高層ビルにぶつかって、所定の位置に閉じ込められてしまい、空気の流れる速度が低下するためです。

都市に流れ込んで停滞する空気が増えるほど、そこには収束(集束帯)と呼ばれる一種の湿った空気の山積みを形成されます。

湿った空気は、上昇気流に押し上げられて、たくさんの水蒸気を雲に送り込みます。

繰り返しになりますが、その水が凝縮して液滴になると、最終的には局地的に雨を降らす可能性があります。

加えて、水平の風が高層建築物にぶつかって生じる上昇気流もまた、積乱雲を発達させる要因と指摘する研究があります。

その他にも、都市が収束を生み出す方法はまだあります。

嵐の通り道にある都市で、立ち並ぶ高層ビルに嵐が分断され、街の周りに沿って流されるケースです。

ビルと空気の摩擦が雨を長引かせる

嵐の通り道に都市がある場合、高層ビルは、小川の水の流れを分断する岩のようなもので、風下で再び嵐が結合するときに、ぶつかった(再結合した)空気が上に押し上げられて、多くの雨雲を発生させます。

そうなると、嵐はより激しく強くなります。

さらに都市は、ただ雨を降らせるだけではなく、嵐を長引かせることもできます。

高い建物が空気との摩擦を起こしているからです。

すると、都市に転がり込んで勢いを失った嵐が、街の中で立ち往生してしまい、2017年にアメリカのヒューストンを襲ったハリケーン「ハービー」のように、都市に何日も雨を降らせ続けます。

実際のシミュレーションでは、ヒューストンの建物からの摩擦が、嵐の速度を遅くして、降雨量を最大50%増加させたと示されています。

さて、天気は複雑で予測困難なものなので、雨を降らせるのに人間がどの程度の役割を果たすかを正確に言うのは難しいかもしれません。

そこで役立つのが、幅広い気象パターンです。

古い気象パターンの研究では、驚いたことに核爆弾の実験によって人間が降雨量を増やしたことも示されています。

核実験が与える降水量への影響

科学者たちは以前から、核爆弾が雨量に影響を与えるのではないかと疑っていました。

放射性物質の崩壊によって、大気中に電荷(物体が帯びている電気の量)があふれるからです。

水の分子は、全体としては電気的に中性ですが、各分子の間(酸素原子(-)と水素原子(+))にわずかな電荷の違いがあります。

そのため、空気中に他の荷電粒子(かでんりゅうし、電荷を帯びた粒子)があると、反対の電荷を有する側(+なら-が、-なら+)が引き寄せられます。

これらの電荷とのペアリングは基本的に強調し、水のわずかな電荷の違いが水滴をより密着させやすくし、より多くの水滴がくっついて重くなるほど地面に落ちる可能性が高くなるのです。

しかし、科学者たちは核爆弾の効果がどれほどのものかは確信していませんでした。

そこで、核爆弾が降雨量に与える影響を調査するために、研究者たちは、とても巧妙な方法を発見し、2020年の雑誌「Physical Review Letters」に発表しました。

核実験が大気を変化させて雨を降らせる可能性

彼らは、汚染がほとんどみられないスコットランド北部の離島にある気象台を選んで調査を行い、データを集めました。

最初に、彼らは1960年代の核実験中に測定された大気中の様々な粒子を調べました。

このデータには、長寿命核種のストロンチウム90のレベルに関する情報が含まれていました。

ストロンチウム90は、核反応で生成され、「黒い雨」にも含まれている放射性原子です。

研究者たちは、これらのレベルがピークを迎えた1962年頃に、同じように大気中の荷電イオンのレベルもピークを迎えていることを発見。

その後、1963年に地上や水中における核実験を禁止する部分的核実験禁止条約(ぶぶんてきかくじっけんきんしじょうやく)が締結されると、その数年後には両者のレベルは低下しました。

そこでチームは過去の気象データを見て、条約の前後では、地域の降雨量や雲量も変化していると考えました。

特に 大きな核実験が行われていた時代には、雲が厚くなり、通常より24パーセントも降雨量が多く、雨の多い日が続いたといわれます。

さて、これらの調査結果は全く驚くべきものではありませんでした。

信じられないのは、このデータを調べた気象観測所が、核実験が行われた場所から数千キロも離れていたことです。

核実験が降水量に影響

つまり、アメリカのネバダ州やカザフスタンに投下された爆弾は、スコットランドの天候に、何年にもわたって影響を与えてきた可能性があります。

しかし、大気を変化させて雨を降らせるのは、核の降下物ではないようです。

エアロゾル(空気中に浮遊している微粒子)が雨を作る核となる

エアロゾルには様々なものがあります。

これには、火山灰のようなものや、自動車や工場からの汚染物質など、自然界と人為的に発生したものの両方が含まれています。

これらのものはすべて、、水蒸気が水(液体)に凝結するための核として作用する微粒子です(核生成サイト

そのため、空気中の粒子が増えると、それだけ水蒸気が凝結して、沢山の水滴になります。

それらが十分に軽ければ、水滴は落ちないため、ほとんどの場合、エアロゾルは降雨量を増やすことはありません。

また、通常、水蒸気は、これらの粒子の間で薄く広がっているので、雲から落ちる飛沫は、地上に到達する前に蒸発してしまうほど小さなものです。

加えてエアロゾルは、空を暗くして(どんよりとした雨雲)、空気を冷やすことができます。

これは、都市部のヒートアイランド現象の逆の効果をもたらします。

しかし 研究者は、条件が整えば、エアロゾルも雨量を増やすことができるといいます。

雲が水蒸気をたくさん含んでいれば、雨を生む核として作用するエアロゾルをたくさん取り囲むことができ、雨として降るのに十分な大きさの水滴を増やせるということです。

つまり、エアロゾルが多ければ、より激しい雨を降らせるかもしれません。

雲の種まき

一般的には、人間が雨になんらかの影響を与えているかもしれませんが、それは偶然であり、雨は私たちのコントロール下にはありません。

しかし、人々は何十年も前から、雨や雪をコントロールしようとしてきました。

それを「クラウドシーディング、雲の種まき」といいます。

雲の種まきのポイントは、先ほどの例のように、水は、水滴や氷の結晶を形成する前に何らかの核を必要とすることです。

それについて、1940年代に二人の科学者が、水の分子をより多く集められないかと考えました。

水の分子をより多く集める方法

先程のエアロゾルの例ように、雲に、何らかの、核生成サイトをたくさん追加することで、雪や氷に変えることができるはずだと考えたのです。

そこで、実際にヨウ化銀を使って研究室で試してみたところ、冷たい水蒸気を雪に変えるのに成功。

しかし、研究室の中ではなく、現実の世界でテストするのは難しく、同じ結果を繰り返して導き出すのは至難の業です。

天気とは奇妙なもので、自然界では、全く同じコンディションの天気が2日間も続くことはありません。

しかし、この二人の科学者のアイデアは世界から注目を集めたのです。

氷や雨を生成する可能性のある材料

様々な研究者が、ドライアイスや塩のような他の材料が、核生成サイトの代わりに機能し、氷や雨を生成するかもしれないと考え、実験を試みています。

例えば、1960年代に、アメリカ政府は、実際に「雲の種」を利用して、熱帯性暴風雨を弱めようとしました。

このストームフューリーと呼ばれるプロジェクトは、嵐(台風)の目の付近に雲の種をまいて目を大きく成長させることで、風速を全体的に弱めることができるかもしれないと期待していましたが、実際には効果はありませんでした。

後のハリケーンの研究において、この考えは原理的にも欠陥があることが分かりました。

しかし、2018年に科学者たちはついに突破口を開いたのです。自然界で、初めて雲の種付けを直接観察するという画期的な成果を出しました。

彼らは2機の飛行機で、アイダホ州上空の雲にヨウ化銀を注入し、レーダーを使って雪の形成を観察しました。

アラブ首長国連邦や中国でも同じように、過去に雨を降らせる実験は行われています。

これらの実験で、雲の種まきが実証されたように見えましたがしかし、私たちは、まだ有用な雲のコントロール方法を未だ確立できていません。

まずは、人間が大気に与える影響を知ることが大切

近い将来、トウモロコシ畑の上に雨を降らせたり、スポーツイベントの直前に雲を取り去ったりといった夢のようなできごとは実現するのでしょうか。

雲は、雨や雪を放ちます。そして、残念ながらそれは複雑なプロセスで、人間が操作するのは難しいようです。

しかし、この記事で分かったことがあります。

人間は、良くも悪くも、私たちが住む地球に大きな影響を与えることができます。

その力を理解すればするほど、それをどのように使用するかについてより良い判断を下すことができるはずです。

参照元:5 Ways Humans Make It Rain