今までに、波が押し寄せる豪華客船で、人々がワインやグラスをテーブルに置いたまま食事ができる光景を不思議に思ったことはありませんか?
そもそもクルーズ船は、なぜ大嵐の中でも横転しないで航行できるのでしょうか?
その功績の多くは、システムのひとつであるスタビライザーによるものだといわれています。
では、スタビライザーは実際にどのように機能しているのかを以下にみていきましょう。
船が揺れる理由
穏やかな海面に浮かぶ標準的な客船をイメージしてみてください。
客船は直立し、安定しています。
そして、この船の安定性は、重心と浮力によって決まります。
それらが正しい位置に並んでいる限り、船は直立したまま安定するのです。
その後、海に波を加えてみると、少し相互作用が始まります。
まず、船の片側の水位が波で上がると、その側にはより多くの浮力が生まれ、その結果、船を傾かせる力が発生します。
たしかに、まれにおこる「シンクロナスロール」のように船の固有ロール周期と波との出会い周期が一致する場合は、船が実際に転覆するほどロールの角度が急激に大きくなることがあります。
しかし、そういった特別な場合をのぞき、たいてい船は、波に乗って左右に静かに揺れ続けるだけです。
それは、船がスタビライザーを使って横揺れを最小限に抑えているからです。
船の横揺れを最小限に抑える仕組み
まず、波の頂点が船の片側にぶつかると、傾く力は最大になります。
その後、波が船の下を通り、波の頂上が中心線を通過するにつれて、力はほとんどゼロになり、反対側に移動するにつれて、力は再び最大になります。
スタビライザーは、このような波の正確な位置に応じて、発生する力の大きさを変え、そのすべての力に対抗する必要があります。
そのために、業界はいくつかのタイプのスタビライザーを開発しました。
船の両横に翼
船の横に、飛行機でいう翼のような突起をつけ、横揺れを抑制する方法です。
翼は、上下に動かせ、乱流を発生させることができます。
このシステムは基本的に、水中で伸びる油圧作動の翼で構成されています。
翼を一方向に傾けると、水流は一方向に大きな力を発生させ、もう一方に回せば、その力の方向は瞬時に入れ替わる仕組みです。
正しく使えば、船を転がそうとする波が生み出す力に対抗するように翼の傾きを変えるだけで、水流を逆回転させることができるのです。
しかし、これらの翼には、船が実際に動いている間しか機能しないという欠点もあります。
ある程度は翼を横切る水流が必要で、一定の速度(多くの場合約6ノット)以下では、水流が十分な整定力を発生させることができないのです。
幸いなことに、ほとんどの客船は最低速度がこれをはるかに上回っているため、航行中は問題にならないようですが、速度が遅い貨物船などはこれらは機能しないようです。
船の左右に水を移動させる「アンチロール・タンク」
そこでもうひとつの方法は、アンチロール・タンクです。
これは船の左右両脇に設置されたタンクです。
通常、船が直立している状態では、両側に同じ量の液体があり、船が一方に傾くと、低い側の流体が増える仕組みとなっています。
流体の流れを十分にコントロールすることができれば、波が船を横切るときに、その側に最大限の重さを持たせることができる仕組みです。
理論的には、波の頂点がそこにある間に流体をそこにとどめておけば、横揺れに対抗するのに役立ちます。
もちろん、次の波の頂上が近づいたら、それに対抗する準備ができるように、適切なタイミングで反対側に流すために流体を解放する必要があります。
あるいは、ジャイロ安定化システムと呼ばれるポンプのように、必要なときにいつでも水を汲み上げることができる仕組みを取り入れることもできます。
これは完全にアクティブなシステムであり、この種のスタビライザーは船舶に適していますが、水を移動させるのには時間がかかるため、即座の安定化はまだ達成できていません。
上記の船が転覆しない理由については、以下の動画で分かりやすく紹介されています。