生き残るためなら「尿(おしっこ)」を飲むべきか?

何不自由ない快適な生活になれてくると、大抵は「飢え」なんて自分の身には起こるはずはないと考えがちです。

しかし、少しだけ考えてみてください。

見知らぬ土地での遭難や災害に巻き込まれる可能性は誰にでもあります。食べ物も飲み物も底をついてしまったとき、あなたはどうしますか?周りには、大好きなジュースもビールも、コーヒーも、1滴の水でさえ見当たりません。

のどが渇いてしょうがないときに、考えられる液体といえば「尿(おしっこ)」だけ。

今までに宇宙飛行士が尿を飲む話を聞いたことがあるかもしれませんが、彼らが飲む尿は、高度な科学技術でろ過された水であって、地球から350kmも離れた過酷な宇宙環境のために考えられた水の再利用システムなんて私たちは持ちあわせていません。

おそらく最善の選択肢は、登山家アーロン・ラルストンがしたように、「尿」を飲むことだと考えるでしょう。彼は、実際にそれで峡谷に閉じ込められた127時間を生き抜くことができたのかもしれませんが、果たして自分も同じようにすべきなのでしょうか。

ここでは、飲み水がない極限状態で、生き残るためなら「尿(おしっこ)」を飲むべきか?について、陸軍のフィールドマニュアルや科学的な研究をもとに分かりやすく紹介します。

尿を飲むという行為

環境にもよりますが、成人の場合、水なしでは最大1週間、食料なしでは3週間生存できるといわれています。

しかし、大量な汗をかいて脱水状態になったり、なんらかの病気を患ったり、またはその両方が起きると、その期間はさらに短くなります。

そのため、陸軍には、そのような危機的状況に備えてのフィールドマニュアルがあります。

フィールドマニュアルのリストによると、極限状態であっても決して飲んではいけない飲み物は、魚汁や血液、お酒、海水、そして「尿」です。

それでは、もし、このルールを破って尿を飲んでしまうと、体はどうなってしまうのでしょうか。

尿を飲むと、脱水が速く進行する

尿は、体内で、海水と同じように分解されます。尿の成分は、95%が水ですが、ナトリウムや塩化物、尿素などの副産物との混合物でもあります。

尿と比較すると、海水の場合は、96.5%が水で、ナトリウムと塩化物が3.5%なので、基本的に海水を飲むようなものだといえるでしょう。

このように、尿には塩分(ナトリウム)が含まれているがゆえに、飲むと期待に反して体からは水分が失われていき、脱水状態が悪化する恐れがあります。

そして、さらに飲み続けると、強度の低血圧症を引き起こす可能性も考えられます。

低血圧を引き起こす

低血圧は、心臓や肺、腎臓などの重要な器官への血流が低下することを意味します。尿を飲むと、それらの重要な器官が低血圧によって損傷したり、機能不全になったりする可能性があります。

尿(おしっこ)に含まれている尿素の問題

「尿素」は、一言でいえば体の不要物で、体内にあるべきではないもの。体にとっていらないものだからこそ、腎臓は血液からろ過して、尿として体外に捨てて健康を保とうとしているのです。

それなのに、水の代わりに尿を飲むと、必然的に腎臓のろ過機能への負担が大きくなります。結果的に、腎不全にいたる可能性も考えられます。

つまり、尿を飲むことは、腎臓にとっては悪夢としかいえません。

バクテリアの問題

残念ながら、常在菌叢(じょうざいきんそう、体内に棲みつく微生物の集団)の存在する膀胱や尿道を通って体外に排出される過程で、尿は無菌ではなくなります。

ある研究によると、尿には病原菌やバクテリアなど少なくとも85の細菌種が含まれていることも分かっています。

なかでも最もよく見られるのが食中毒を引き起こすことで知られるブドウ球菌、そして、歯茎の感染症を引き起こす放線菌(ほうせんきん)で、これらの菌に感染する可能性は十分に考えられるといえます。

まとめ

奇跡の生還を果たした登山家アーロン・ラルストンは、死を覚悟したにも関わらず、尿を飲むという決断をして生き抜くことができました。

しかし、尿を飲むことによって、もしかすると救助されるまでの6日間の間に、歯茎の痛みや吐き気、臓器の機能不全に陥ったかもしれないことは否定できません。

古くからの民間療法には、健康のために飲尿(いんにょう)がすすめられる「尿療法」と呼ばれるものもありますが、それらの効果は、科学的にも統計学的にも実証されたものではありません。

以上のことから、ほんの1日、2日で考えるなら問題はないかもしれませんが、さまざまなリスクを考えたうえで、尿を飲むことは、賢い判断だとはいえないようです。