毎年繰り広げられる季節は、初期の太陽系において、地球の地軸がわずかに傾いたことによって神秘的に生じたものです。
それでは、この地軸がさらに傾くと地球はどうなるのでしょうか?
たとえば、90度まで傾き、太陽に向かって真横に回転(自転)し始めたら。
それはまさにカオスの世界。地軸の傾きによって気候変動が生じたことで、生態系が地球規模で大きな影響を受けるまでそう時間はかかりません。
ここでは、地球の傾きが変わると、生態系や気候はどう変わり、私たちには何が起こるのかについて分かりやすく紹介します。
もし、地軸が90度まで傾いたらどうなるのか
地軸とは、ご存知の通り、地球が自転するときの北極と南極を結ぶ軸。
その地軸がなぜ現在の約23.5度にまで傾斜したのかについては、隕石かなにかが衝突した際に偶然起こったという説もありますが、はっきりとは分かっていません。
地球が太陽を周る軌道(公転軌道)に対して、90度傾き、横向きに回転した場合を考えていきましょう。
地軸の傾きに対して、決して無視できない影響のひとつに「季節」があります。
繰り返しますが、季節が変わるのは、地球の傾きによるものです。
そして、地軸のより極端な傾斜は、地球に大きな問題を引き起こし始めることを意味します。
たとえば、北半球の高緯度にあるバロー(アメリカのアラスカ州最北部の都市)のようなはるか北部の地域では、現在は、夏の間、82日間にわたって24時間日光を浴びています。
つまり、地軸の傾きによって、夏には太陽の光が真上に近い角度から当たるため、夜が訪れない白夜(びゃくや)の世界となります。
一方で、バローよりも北極から遠ざかったアメリカでは、地軸の傾きによって、同じ時期でも太陽が当たらない時間帯(夜)が生まれるため、一日に日光を受け取る時間は最大で17時間になります。
しかし、地球の軸をさらに90度まで傾けると、アメリカは1ヶ月にわたって、1週間24時間ずっと日光を浴び続けることになります。
そして、それはアメリカだけはなく、日本を含む、北半球全体が夏の間、太陽が沈まないで昼ばかりになることを意味します。
そうなると、地球の生態系はどうなってしまうのでしょうか?
夏の間の農作物や植物の成長が早い
まず、アラスカに生育する鳥のように、夏に栄養を蓄える動物は、余分に受け取る太陽光を利用して、たくさんの食べ物を得るようになるでしょう。
そうなると、夏の間、余分にエサを与えられた鳥のヒナは、南半球に住む同種の鳥よりも成長が早くなります。
長い時間、直射日光を浴びた植物たちも、爆発的に増殖します。
実際に、長い日照時間によって農産物がよく育つアラスカ北部の農場では、夏になるとロットワイラー(55cmから70cmもの大きさになる牧牛用)ほどのキャベツをはじめ、15kgを超えるブロッコリー、800kg以上もあるカボチャなど、超巨大サイズの野菜が栽培されています。
しかし、夏の間の動植物は繁栄は見られるかもしれませんが、人間はそうはいきません。
人間に起こり得る機能障害
私たち人間は、日中活動的になり、夜は眠るように進化しました。
しかし、果てしない日光にさらされると、脳はメラトニンというホルモンの産生を停止します。メラトニンは夜眠るために必要なホルモンの一種です。
すると、睡眠不足やうつ病を生じるようになり、最終的には季節性情動障害(SAD)と呼ばれるより重度の慢性的な症状が引き起こされる可能性があります。
アラスカでは、全体の9%が季節性感情障害に悩まされているという事実もあります。
しかし、それは洪水問題ほど心配ではありません。
海面の上昇、洪水問題
北極の気温は2倍以上になり、今日の赤道の気温よりも暑くなります。
その結果、テキサス州の面積のほぼ3倍に及ぶといわれるグリーンランドの氷床は速いスピードで溶け、海面を約7メートルも上昇させます。
そうなると、地球上のほぼすべての沿岸都市に洪水が発生します。ニューヨーク、コペンハーゲンは全て海に沈み、東京にも別れを告げることになるでしょう。
さらに悪いことには、海水温の上昇によって、海面で蒸発する水蒸気量が増え、それが上昇気流を加速して強力なハリケーンを頻繁に形成します。
そして、6か月後の冬の到来によって、天気は悪化します。
恐ろしい冬の到来
冬になり、一日中太陽が昇らない日(極夜)が数ヶ月も続くと、北半球は過去に記録されたどの冬よりも厳しい寒さとなり、あらゆるものを凍り付かせます。
極渦と呼ばれる極寒の空気の渦は、通常、熱帯地方の暖かい空気によって消滅しますが、それが赤道までずっと移動する可能性も生じます。
すると、信じられないことに、フロリダやブラジル、ケニアでも大吹雪になります。
夏に繁殖した植物は、日光の不足によって枯れてしまうでしょう。
農業は崩壊し、生態系が崩れ、冬の間に一気に絶滅した多種に及ぶ生物(大量絶滅)の死骸が積み重なります。
さらに恐ろしいことに、海面はますます上昇し続けていきます。
北半球が冬の間、南半球は暑い夏です。世界の氷の90%が存在する南極では、氷が溶けて、それが海面を上昇させます。
南極の氷に比べると、グリーンランドが引き起こす洪水は、水たまり程度なのです。
絶え間ない日光が、南極の氷をすべて溶かすと、地球の海面は61メートル以上も上昇します。それはイタリアの観光名所、ピサの斜塔(56.7m)とほぼ同じ高さです。
地球や生態系へのはかり知れないダメージ
いかがでしたか。
ここで紹介したシュミレーションは、まだほんの一部にすぎないものです。
休暇で、白夜の土地に行き、いつもより太陽の下で数時間余分に過ごす開放感はすばらしいものかもしれません。
季節が織りなす余分な時間の恩恵を受けられるアラスカがうらやましいと感じる人も多いでしょう。
しかし、それはアラスカだけで十分。
生態系や地球への危機的なダメージのことを考えると、地球がまさに今、偶然の産物によって傾いている事実を喜び、これからこの傾きが変わらないことを願った方がよさそうです。
地軸の傾きの変化については、まだ想像上の世界にすぎませんが、現実に、溶けたグリーンランドによる海面の上昇は1972年から1.3cm以上に及び、その半分が過去8年間に起きたといわれています。
今、グリーンランドの氷解は急速に進み、1年間に平均2860億トンという予測を上回る量の氷が海に溶け出しているという問題に、あらためて向き合う必要がありそうです。
参照元:
・What If The Earth Spun Sideways On Its Axis
・Forty-six years of Greenland Ice Sheet mass balance from 1972 to 2018