植物の中にもたくさんの微生物が存在していた

植物のマイクロバイオーム動物・植物・生き物

植物の体内にも、私たちと同じようにたくさんの微生物がすんでいます。

それは、いわゆるマイクロバイオーム(微生物叢:びせいぶつそう)と呼ばれるものです。

マイクロバイオームとは、私たちの体内にすむ1000種類におよぶ1000兆個もの小さな微生物の集団。ここ数年で、腸内細菌をはじめとする微生物たちがヒトや動物の食べ物の消化やビタミンの生成、免疫系の調節に役立っていることが分かり一躍有名になりました。

しかも、植物内の微生物たちは、4億年も前から、気孔の開閉や栄養の取り込みをコントロールしたり、ときには宿主を敵から守ったりして、植物の生存と進化に驚くほど大きな役割を担ってきた可能性があるのです。

今回は、この植物の内部にすむマイクロバイオームの働きや宿主との複雑でおもしろい共生関係を分かりやすく紹介します。

役立つどころか、この小さな微生物たちは、もはや宿主の体の一部といっていいほどの存在なのです。

植物とマイクロバイオームの親密な関係

植物内部で生活するマイクロバイオームは、内生菌(エンドファイト)とも呼ばれ、菌類や細菌類からなります。

内生菌は、カビや根腐れの原因となる微生物とはちがい、宿主に害を与えることはありません。

だから、植物と内生菌はとっても仲がいいんです。

一生を共生する内生菌(エンドファイト)

場合によっては、植物と内生菌があたかも一つの生物のように一生を共にすることもあります。

たとえば、偏性内生菌の中には、宿主植物の種子の中に、新しい植物のための遺伝情報をすべて含んでいることがあります。

つまり、宿主植物が存在する前から、その植物と一緒にいるのです。

内生菌は、種から植物に成長する過程で、植物の栄養分や水分を取り込みます。

また、植物がバリヤとなって危険な紫外線や極端な温度変化の影響から守ってくれるだけでなく、植物の中にいるため、他の微生物と資源を奪い合うこともありません。

このように、植物に負担をかけず、健全な生育を続けることができるのです。

その間に、内生菌はどんどん増殖し、葉や、やがて花が咲く新しい梢の先端にすみついていきます。

そうして、卵、胚、そして種子に組み込まれ、植物と微生物の新しい友情の世代が始まるのです。

一時だけ共生する内生菌

しかし、すべての内生菌が植物の中で一生を終えるわけではありません。

単独でも十分に生きていけにもかかわらず、植物の中で育つように進化してきたものもいます。

このような内生菌は、土の中や昆虫の中など、ライフサイクルの一部を植物の体外で過ごします。

しかし、土壌から植物の根の隙間に入り込んで、植物全体をコロニー化させるなど、彼らが植物に取り付くチャンスはいくらでもあります。

受け身的な内生菌

一方で、土の中の細菌や菌類など、自ら植物にすみつこうとしなくても、たまたま植物の根の傷と出会い、そこに住み着くという受け身的な内生菌(エンドファイト)もあります。

しかし、これらの微生物は植物の内部に特化しているわけではないので、実際に共生することはありません。

植物を外敵から守る内生菌

エンドファイトは、植物からメリットを受けるだけでなく、多くのお返しもします。

中には、植物の中で毒素を作り、草食動物や有害な外敵から植物を守るために分泌するものもあります。

植物は彼らの家なので、それを守ることは彼らの最大の関心事なのです。

気孔の開閉をコントロールする働きを手助ける内生菌

また、内生植物の中には、宿主の植物の気孔をコントロールするものもあります。

例えば、暑くて乾燥した日には、植物が水をムダに失わないように気孔を閉じて、乾燥から守る手助けをしたり、気孔から二酸化炭素を取り込み、酸素を排出する働きを手助したりします。

これらは光合成のインプット(入力)とアウトプット(出力)にあたるため、これらを調整することで、植物が太陽光を燃料に変換する効率を高めることができるのです。

植物が栄養分を取り込むのを助ける内生菌

内生菌が根につくと、根の表面積が増え、土壌から水や栄養を取り込みやすくなります。

また、植物に取り込まれた内生菌は、空気中の窒素を分解し、植物が利用できる別の化合物に変えることができます。

ときには、植物の種子に含まれる内生菌が窒素を栄養に変え、過酷な条件下でも宿主の発芽を助けることもあります。

さらに、養分を効率よく吸収するためのホルモンを分泌するものもあるのです。

こうした余分な資源があれば、植物はより大きく成長し、より多くの実や花をつけ、種をまいて子孫をふやすことができます。

4億年の植物にも内生菌が!

このように、植物の生存には、小さな微生物がとても重要な役割を果たすことがあるのです。

実のところ、4億年前に初めて陸上で生活するようになった植物に、菌類が定着していた可能性があることが化石記録からわかっています。

どうやら植物と内生菌は、長い間、一緒に働いてきたようです。

2003年に発表された論文によると、これまでに発見されたすべての植物種に、少なくとも1種類のエンドファイトが存在することが判明しています。

しかし、これらの植物は長い間、ただ一緒に暮らしてきたわけではありません。

植物と内生菌は、実は一緒に進化してきたようなのです。

植物と内生菌はともに進化してきた

歴史的に見ると、自然淘汰はとてもシンプルだと考えられてきました。

最高の遺伝子を持つ生物が生き残り、そのDNAを受け継ぐことで、これが種の進化を促すものだと考えられていたのです。

しかし、エンドファイト(内生菌)が発見されたとき、研究者たちは、植物にとってそれが最高の遺伝子がすべてではないことに気づいたのです。

植物と共生する内生菌、両方の遺伝子によって種の生存が保たれてきた

現在では、自然淘汰は植物種とその微生物群に作用すると考えられています。

つまり、適者生存とは、植物の遺伝子と、その植物をすみかとするすべての微生物の遺伝子によって決まるということです。

植物とエンドファイト(内生菌)の関係は、一見するとありふれた共生関係のように思えるかもしれません。

しかし、植物のマイクロバイオームは、人間と同じように非常に複雑です。

植物1つだけでなく、種全体に影響を及ぼす可能性があるのです。
これは、ミクロの世界としてはとてつもなく大きな成果です。
参照元:The Ecosystem Inside of a Plant

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