なぜキツツキは脳しんとうを起こさないのか?

キツツキが脳に衝撃を受けにくい理由動物・植物・生き物

キツツキは、1秒間に約20回1日に約1万回も硬い木に向けてくちばしを打ち付けます。

薪割をはじめ、木材を削ったり、割ったりするには大きな力が必要なことを考えると、キツツキが1回打ち付けるときの脳への衝撃度(G)はかなりの強さになるはずです。

しかも彼らの頑丈なくちばし、支える足、支柱となる硬い尾っぽなど体の部位は、硬い木に与える運動エネルギーを最大化するために進化してきたものです。

では、なぜキツツキは脳への衝撃に耐えられるのでしょうか?

驚いたことに、キツツキが脳しんとうを起こさない主な要因は、脳のサイズにあり、衝撃吸収の役割はそれほど重要ではないというのです。

研究がすすむにつれて、「キツツキの頭のどこかが衝撃吸収材として機能している」という今までの説がくつがえされたのです。

衝突が脳に与える影響

高い場所から落ちたときに、危険なのは落下行為そのものではなく、最後の突然の停止だと言います。

車の衝突テストのビデオを見たことがある人なら誰でも、車が動きを止めると、車内の物体は前や横に勢いよく飛び出すことを知っています。

これは基本的に、脳しんとうを起こす直前の頭の内部の状態です。

人間の頭蓋骨は驚くほど丈夫で柔軟性がありますが、内部のデリケートな脳は、液体に浮かぶゼリーの塊のようなものです。

急激な減速は、脳が頭蓋骨の内側に衝突し、ニューロンや他の細胞に損傷を与えかねません。

キツツキの頭に衝撃吸収材がある説

今まで、キツツキが脳しんとうにならないのは、頭のどこかが衝撃を吸収するからだと考えられてきました。

頭蓋骨の前面にあるスポンジ状の骨が、衝撃を吸収、または分散させ、ふにゃふにゃの脳を保護するというものです。

そして、衝撃の直前に目を保護するために閉じる「瞬膜(しゅんまく)」と呼ばれる特別な第三のまぶたの存在。

さらに頭の奥深くにあるもう一つの秘密「」です。

頭蓋骨に収納されている舌も衝撃を吸収する説

キツツキは縄張りを誇示したり、メッセージを送ったり、巣穴を掘ったりするため、なかでも隠れた餌を掘り出すために木にくちばしを打ち付けます。

穴をあけた後、舌を入れて槍のように使い虫を引っ張り出すのです。

しかし、舌がくちばしの3倍の長さになることを考えると、舌を使わないときはどこに置いているのか不思議です。

キツツキの舌

実のところ、舌は、舌骨(ぜっこつ)と呼ばれる骨で支えられながら、口の後ろから後頭部をぐるりと回って目の間を通って鼻までいきつきます。つまり、普段は舌を頭の中におさめているのです。

一部の科学者たちは、この骨と筋肉の包み紙がシートベルトのように機能し、鳥の頭が減速したときに衝撃を吸収するのではないかと考えています。

しかし、どんぐりキツツキを考えてみてください。1 本の木に何千もの穴を開け、それぞれに種を打ち込むことができます。

シートベルト風の舌だけでは、どう考えても頭への衝撃を防ぐことはできません。

キツツキは衝撃を受ける脳の領域が小さい

物理学の基本方程式の1つは、「力は質量に加速度を掛けた値に等しい」、つまり減速です。

しかし、衝撃による怪我で本当に重要なのは、その力がどれだけの領域にかかっているのかです。

(1本では簡単んに割れても)大量の押しピンを押し付けると風船は割れなかった実験を思い出してください。

横から見ると、人間の脳は基本的に半円形で、前後軸への衝撃は力を小さな領域に集中させます。

脳への衝撃

キツツキの脳は異なる方向を向いているため、前方/後方の力が脳のより広い領域に分散され、また、脳が頭蓋骨によりしっかりと詰め込まれているため、ほとんど動く余地がないのです。

キツツキの脳への衝撃

キツツキが受ける1回の衝撃はミリ秒以内

重力は、加速度と関係します。

私たちは通常、地球上の標準的な重力加速度である1Gを感じています。

基本的に、物体が耐えることができる重力は、それがどれくらいの時間重力にさらされているかに依存します。

ジェットコースターが好きなら、おそらく5Gを数秒を経験する程度なので、まだ笑顔でいられるのかもしれません。

レーシングドライバーは200Gを超える衝突に耐えられることがありますが、それは、頭部に生じる衝撃度だけでなく、減速してから停止するまでの時間がミリ秒に限られているからです。

キツツキの脳は4000Gに耐えられる

基本的に、何かを強く打つ場合は、すばやく打つと効果的です。

キツツキの頭が全速力から停止するまでにかかる時間は1ミリ秒未満。

その時間で、私たちの脳は300Gの衝撃に耐えられますが、キツツキの脳は、4,000G以上に耐えることができるといわれています。

そんなことは本当に可能なのでしょうか?

これにより、キツツキが脳しんとうを起こさない本当の理由にたどり着きます。

脳が小さいと大きな衝撃に耐えられやすい

J.B.S Haldane氏は、1926年のエッセイ「One Being the Right Size|適切なサイズについて」で次のように書いています。

ハツカネズミを約900メートルの坑道に落としても、底に着いたら軽いショックを受ける程度ですぐに立ち去る。

しかし、同じ坑道に大型のドブネズミを落とすと命を落とし、人間は壊れ、馬はつぶれるのです。

実際に実験した人はいないと思いますが、これは単純な計算で分かります。

動物の脳が小さくなるとき、体積と質量はその値の3乗で減少し、表面積は2乗で減少します。

したがって、キツツキの小さな脳は、衝撃を吸収する頭蓋骨の表面積が私たちよりもはるかに少なく、それにも増してはるかに軽いのです。

キツツキの脳と人間の脳は同じ材料から作られていたとしても、数学的にみると、小さな鳥の脳は、より大きな衝撃に耐えられることを意味します。

つまり、キツツキが脳への衝撃に耐えられる主な理由は、キツツキの脳が小さいからです。

これなら、キツツキが、脳や筋肉の強化ではなく、小さな脳に特化して進化した理由も説明がつきます。

当たり前のことですが、彼らは衝撃を受けるように進化しましたが、私たちはそうではありませんでした。

楽しみのために、または偶然にお互いに頭をぶつけ続けている限り、 どんな種類のヘルメットをかぶっても、おそらく脳しんとうを起こし続けるでしょう。

参照元:Why Don’t Woodpeckers Get Concussions?

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