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水が一瞬にして凍る「過冷却の仕組み」

ものの仕組み・エンジニア

過冷却とは、水やその他の物質が凝固点以下に冷やされても凍結しない現象です。

この状態の液体の入った瓶を叩くと目の前で瞬時に凍結するといった、手品のようなおもしろい現象を見ることができます。

しかし、水にはさらに興味深いことが。

みなさんは、叩いても凍結しない状態まで水を過冷却することもできるってご存じですか?

この種の現象、つまり、低温工学の研究は、おもしろいだけでなく、実はとても大きな意味があります。

なぜなら、氷の結晶が私たち人間や植物などの細胞壁に損傷を与える原因となることが多いからです。

そうです、もしこの氷の結晶の形成を防ぐことができれば、近い未来に、凍結した宇宙旅行者を蘇生させる成功率までも大幅に上がるかもしれません。

以下に、水がなぜ瞬時に凍ることができるのか、過冷却の仕組みや低温でも凍らせない方法についてみていきましょう。

過冷却にできる2つの要因

そもそも水を過冷却にすることができるのはなぜでしょうか?

第一に、その根本的な理由は、氷の結晶の形成には二つの対立する要因が存在するからです。

それは、内部表面です。

氷の内部は、液体の水よりもエネルギーを必要としないため、内部はエネルギーを無駄にしないためにも凍結したがります。

しかし、氷の表面、つまり、氷と水(液体)の境界面は、液体のままでいる場合よりも氷の形成に多くのエネルギーを必要とします。

そのため、表面は溶けようとする(液体のままでありたがる)のです。

さて、氷の内部と表面では、どちらが勝つのでしょうか?

小さな氷の結晶の場合

ここで、スケール(大きさ)についてのある法則の出番です。

何かを大きくすると、体積の増加率が表面積の増加率を上回る(生き物では体重当たりの体表面積は小さくなる)二乗三乗の法則です。

詳しくは、体積は半径の3乗に比例して大きくなりますが、表面積は半径の2乗にしか比例しません。

つまり、比率を相対的にみると大きな物体は内部が大きくなり、小さな物体ほど表面積が大きくなる傾向があります。

これは、工学や生物学における重要な法則とされています。

したがって、とても微小な氷の結晶は内部に比べて表面積の比が圧倒的に大きくなるわけです。

そして、表面の「溶けたい」という欲求が、内部の「凍りたい」という欲求に打ち勝つ過冷却水では、形成される極微小な氷結晶はすべて液体に逆戻りするのです。

とても冷たい水の中では、どんな小さな氷の結晶でも溶けて液体に戻ろうとします。

凝固点以下の水が凍結しない理由

このように特定の大きさ以上の氷の結晶のみ、氷のままでいることができますが、その特定の大きさとは水の温度によります。

十分な大きさの氷の結晶が形成されて初めて、内部の体積が比例的に十分に大きくなり、内部の凍結欲求が表面の(溶けたい)欲求に打ち勝ち、結晶はどんどん大きくなっていけるのです。

たとえば、-4℃では、結晶のサイズが約20ナノメートル(横幅で水分子約70個分)を超えると、この転換点に達します。

より低温では、転換点に達するサイズはより小さくなります。

-10℃では、約10ナノメートル(約30水分子幅)を超える結晶があれば十分です。

この内部(体積)と外部(表面積)の戦いこそが、純水が凝固点以下に冷却されても必ずしも即座に凍結しない理由です。

過冷却水を凍らせる方法

過冷却で液体の状態を維持したままの水は、そのままでは凍る必要はありません。

転換点を超える大きさの結晶が形成され、それが成長を続けて冷たい瓶の水全体を凍結させるまで待機している状態です。

これは結晶が形成されるのを待つか、あるいは、水をさらに冷却して転換点結晶サイズを小さくすることで実現します。

あるいは、水中にミネラルや塵などの異物が混入している場合、それらが臨界点より大きい結晶として氷の形成を促進することもあります。

また、瓶を叩くなどしてエネルギーを与えることで、結晶が臨界点サイズを超えて凍結することもあるのです。

過冷却水が凍るのを防ぐ方法

これらは全て有効な方法ですが、実際には過冷却水の凍結を完全に阻止することもできます。

以前、水は凍結時に膨張する性質があるお話をしたことを覚えていますでしょうか。

硬い容器で水を凍らさせようとすると、氷化した部分が膨張して容器内圧を上昇させ、最終的に残りの水の凍結を阻害します。

つまり、硬い容器内の過冷却水では、氷内部の凍りたい欲求表面の溶けたい欲求という二つの対立要因だけではない第三の要素、圧力が影響します。

圧力は氷結晶の成長を阻害します。

氷の結晶を溶かそうとする力

つまり圧力も表面積と同様に、氷結晶を溶解させようと働くのです。

当然ながら、大量の水があって、氷結晶はごく少量で膨張による圧力が残存液体にほとんど影響を与えない場合。

つまり、圧力がかかる前にたくさんの氷が形成されても、転換点のサイズを超える段階まで圧力が凍結に影響を及ぼし始めることはありません。

しかし、ごく少量の水の場合、たった一つの微小な氷結晶の形成でさえ圧力を大きく変化させうるのです。

水の量

サイズが数十マイクロメートル未満(一般的な細菌のサイズ)の容器では、転換点ではなく、氷結晶が一定サイズを超えると成長を続けていきます。

この場合、あらゆる結晶サイズにおいて、内部の凍結欲求よりも圧力が溶解を促す力が優位となるのです。

そして、全ての氷結晶はサイズに関わらず溶けようとします。

したがって、ボトルが十分に小さければの話ですが、たとえば極小の硬い瓶に入った過冷却水は、どんなに強く叩いても凍らないのです。

-1℃以下の水の場合では、ボトルの高さは200ナノメートル未満でなければなりません。

-4℃の水の場合、ボトルはさらに小さく、約50ナノメートルとなります。

これは驚くべきことではないかもしれません。

なぜなら-4℃の水では、転換点は通常約20ナノメートルサイズの結晶であり、これは容器のかなり大きな割合を占めるからです。

もし超冷却水を小さくて硬いボトルに入れていても、どうしても氷にしたいなら、容器が硬いことが凍結の邪魔をしていることを思い出してください。ボトルを開けて圧力を逃がせば、叩いた瞬間に凍ってしまうでしょう。

過冷却水が凍る仕組みについては、以下の動画で見ることができます。

The Physics of Supercooling