さて問題です。ものごとの感じ方や認識の速さ、意思決定などをつかさどるのは体のどの部位でしょうか?
おそらく、脳によって決められていると信じている人がほとんどでしょう。
しかし、最近の研究によって、脳だけでなく、それらの意思決定には、心臓も関わっているという興味深いことが分かってきました。
さっそく以下に、りんごくらいの大きさの心臓が、どのようにものごとの感じ方や時間感覚などの意思決定をコントロールしているのかについてみていきましょう。
心臓の動きが感情に影響を与える
気分が落ち着いている時、私たちの心拍数はゆっくりと滑らかなリズムを打っています。
しかし、なんらかの恐れや興奮、極度の緊張を感じると、心臓は速く激しく打ち始めます。
このように、心臓は、感情に反応して鼓動の速度や強さを変えますが、逆に、鼓動を変化させることによって脳に働きかけて、感情をコントロールできるようです。
2016年に出版された科学雑誌「Trends in Cognitive Sciences」に掲載されたサラ・ファンケル(Dr.Sarah Garfinkel)博士の研究では、心臓がいつもより速く激しく動き始めると、脳は、覚醒反応を起こし、恐怖や不安といった感情を増強させることが分かりました。
これについて研究者らは、心臓の鼓動の速度や強さ、血圧の変化などの情報は全て、血管内部にある圧受容器と呼ばれるものに感知されて、脳へ伝達されているため、心拍数や血圧が上昇したら、圧受容器は、脳にそれを伝え、脳がその信号を恐怖として解釈すると考えています。
心臓の動く速さでものごとの認識の速さが変わる
科学者のGarfinkel氏は、参加者に色々な表情の顔の画像を見せて、心臓の収縮期(血液が送り出される時)と拡張期(血液をためこむ時)ごとに、写真の認知速度を計測しました。
すると、心臓の動きが遅くなる拡張期よりも、速くなる収縮期の方が恐怖の顔の写真を見つけるのが速いことが判明。
また、神経科学誌「Journal of Neuroscience」に掲載されたスイスの研究によると、参加者の心臓の動きに合わせて、物体にフラッシュの光(点滅)を当てると、その物体に気づくのが遅くなることが分かりました。それはまるで、心臓の鼓動が、脳に入ってくる情報を取り消しているようでした。
心拍数が時間感覚を左右する
様々な研究によって、心拍数が時間の把握に影響を与えていることが証明されています。
生物心理学雑誌「biological psychology」では、人は心臓の動きの速度や強さへの感度が思っている以上に高いと示しています。
日本感性工学会の研究によると、48人の参加者に、エアロバイクをこぐことによって心拍数を変化させながら音楽を聴かせ、運動の負担度やどれくらい長い時間行ったように感じたかを調査したところ、心拍数をわずかに上げた状態では、時間の経過を短く感じるようになり、心拍数が高く、心臓が激しく動いている状態(体に負担をかけた運動)では、時間が長く感じることが分かりました。
ちなみに、ドイツのケムニッツの大学によると、運動をすると心拍数が上がりますが、運動をしながら呼吸を止めてしまうと、心拍数がゆっくりになることが判明しています。