そもそも怒りの感情は必要なものなのでしょうか?
ここでは、体を守るための怒りの役割や、怒った時に脳や身体で引き起こされるできごとについて分かりやすく紹介します。
あなたは、最近、いつ怒りましたか?
スポーツの試合で負けたり、お願いや欲求を断られたり、原因はなんであれ、人は、嫌なことがあると突然腹立たしさを感じ、ときには、それを抑えきれなくなることさえあります。
少し怒ったときのことを思い出してみてください。
怒りを感じるとき、私たちの多くは同じような反応をみせます。呼吸が速くなっていき、胃がキリキリ傷み、歯をかみしめる人もいるかもしれません。
怒りは本当に強力な感情で、怒りを感じると、あなたの体には、心臓の拍動や血圧、体温の上昇、筋肉の緊張などさまざまな変化が起こります。
怒りが大きくなるほど、身体への負荷も増していきます。
それでは、私たちはなぜ怒るのでしょうか?以下に怒りの役割や科学的に考えられた対処法をみていきましょう。
怒りの役割
人の体は、いつも外からの脅威に備え、いざというときに体を守るために優れた防御反応をもっています。ここでいう脅威とは、体にとって悪いなにかで、防衛反応は「怒り」です。
何かに対して怒ると、脳は、なんらかの脅威にさらされたという警告メッセージを体の他の部位に送り始めます。
たとえそれが、試合に負けたり、誰かに拒絶されたりなど、すでに過ぎ去ったできごとやそれほど大きな脅威ではないとしても、体は脅威から身を守り、安全に保とうとして、危険や闘いが迫っているかのように反応し始めます。
怒ると体に引き起こされるできごと
まず怒った顔は、他人への警告を意味します。
まゆをひそめ、顔をしかめ、脅威に対して「引っ込んでろ、あっちへ行け」という合図を送っているのです。
人間だけでなく、他の動物の多くが、怒りを外に示す特別な方法を持っています。
たとえば、犬は歯をむき出しにして「ウー」とうなり声を出し、ネコは背中を丸め、サルは、あごの筋肉に力を入れて歯を出して威嚇します。
ネズミの場合は、怒ると鳴き声を強く大きく出そうとします。
ときには、怒りを外に示すだけで、脅威を追い払うのに十分な効果があるかもしれませんが、それでも解決しない場合、体は次の段階に移ります。
動悸は早くなり、血流を上げて酸素をたくさん送り出し始め、全てのエネルギーを闘う準備に向けるのです。
それによって、消化機能が抑えられてしまうため、胃腸を傷つけてしまう恐れがあります。
目は、瞳孔が開き、怒っていることに焦点をあてて、変化に敏感になります。
顔への血流が増加すると、顔は赤らみます。
脳は、闘いに備えて、素早く反応したり、体を力強く動かしたりするために、特別な化学物質であるアドレナリンを放出するようにメッセージを送ります。
このようにしてわずか1、2分の間に、体は大きな脅威と闘う準備を整えるのです。本当に素晴らしい防衛反応といえるでしょう。
しかし、実際には、これらの反応の大部分は、私たちを日々怒らせている多くの事柄には必要ありません。
怒りは闘う必要がなくても引き起こされている
そもそも怒りは本来、本当に悪いなにかが起きたときに、私たちを安全に保つためにあるもので、何かについて怒っているからといって、必ずしも闘う必要はありません。
敗北や拒絶によって失望したから闘いの体勢に入るというのは、決して正しい選択とはいえないでしょう。
また、怒りの感情は、あなたをひどく動揺させ、安全に保つために体中を過度に働かせ続けているため、ときには判断力をにぶらせてしまうこともあります。
しかし、残念ながら、交感神経系は、わずかなストレスや羞恥心、いら立ちですら脅威とみなし、体中に影響を与えていきます。
どうやら、怒りの感情や本能をコントロールする方法を見つける必要がありそうです。
怒りの感情がこみあげた時の対処法
怒りは、ほとんどが一時的な感情の変化で、その時に怒りにうまく対処できれば、あとは時間が解決してくれる傾向があります。
しかし、そのまま怒りに身をまかせてしまうと、今度は怒りに自分が支配されて感情を爆発させてしまう恐れがあるので注意してください。
それを避ける一番簡単で効果的な方法が深呼吸です。
怒りに反応して何かを判断する前に、ゆっくりと深呼吸をして10秒数えたり、下記の呼吸法を取り入れたりして、脳と体の熱を冷やす時間を与えましょう。
効果的な深呼吸のやり方
下記は、オステオパシー医療(自然治癒力を高めるための医療哲学のひとつの体系)の医師Brooke Bennisさんによる有効な深呼吸のポイントです。
- 怒りがわいてきたら、まずゆっくりと3秒数えながら、鼻から息を吸います。このとき、ポイントは腹式呼吸で、息を吸っておなかが膨らむことに意識を集中させてください。
- 息を吸った後は、6秒数えながら、口から息を吐きます。
深呼吸をすると心身がリラックスするのは、生物学的に証明されています。
ゆっくりと息を吸い込むことで、酸素をたくさん体内に取り入れられるので、その結果、脳や血液の隅々まで血流が増加して、自律神経のバランスを整えることができます。
この方法は、怒りがわいても、数十秒後には気持ちを落ち着かせる効果だけでなく、日々のストレス解消にも大変役立ちます。簡単なのでぜひ毎日、取り入れてみてください。
自分に非はないかと考える
怒りがわいた時に、相手の立場になって、自分にも非があったのではないかと考えてみましょう。
すると、怒りの感情を持つ自分を客観的に見れることができ、自分自身を成長させることにもつながるでしょう。
十分な睡眠をとる
睡眠不足になると、ストレスがたまったり、感情をコントロールしにくくなったりする傾向があるため、日頃からできる限り十分な睡眠をとるようにしましょう。
また、怒りは、空腹時に、素早く引き起こされる傾向が強いため、日頃から、十分な栄養をとるようにも心がけてください。
怒りとの付き合い方
怒りは、体を守るための防衛反応の一部です。
たしかにアスリートのなかには、そんな怒りの感情を、問題を克服するうえでの原動力としてや、どん底から這い上がるエネルギー源に転換してうまく利用している人もいます。
怒りはときに、勇気をも生み出します。
しかし、怒りは本能とはいえ、私たちはしばしば、闘いに備える必要のないことにまで怒って、冷静な判断ができなくなったり、イライラと無駄な時間を費やしたり、しいては、体調不良を引き起こすことさえあり、残念ながら後悔をもって終わることがほとんどです。
「人間は、理性によって負けた埋め合わせを怒りによって行うものである」というホレイショ・アルジャー(牧師)の言葉にあるように、人は、怒りや憤りによって思い通りにいかないことを対処してしまう傾向があります。
後で後悔をしないためにも、深呼吸や10数える方法以外にも、自分にあった心と体をクールダウンさせる有効な方法をぜひ探してみてください。
参照元:
・Why Do We Get Mad?
・Calm Down Quick
・Why Does My Face Turn Red When I’m Angry?