なぜ人間にはしっぽがないのか?

2019年6月 5日

ネコに犬、水槽の金魚やメダカ、身の周りを見渡すとほとんどの生き物が「しっぽ」を持っています。

よく考えると、類縁のサルでさえあるものがいるのに、なぜヒトにはしっぽがないのでしょうか?

しっぽの進化は、少なくとも5億年前に始まり、生き物たちが環境に適応して生き延びていくためにあらゆる役割を担ってきました。

たとえば、ヤモリは脂肪を蓄えるためにしっぽを使用しています。

鳥は空気を操って安定して飛ぶために尾を使い、魚は泳ぐために、そして、ガラガラヘビは捕食者を追い払うためにしっぽを使います。その他にも、木にぶらさがったり、物を掴んだり、蚊を振り払ったりとしっぽを手のように使う生き物もたくさんいます。

しかし、ほとんどの哺乳動物にとってのしっぽは、一つの大きな目的を果たすためにあるといわれています。

バランスです。歩いたり、走ったり、木の上で落ちないように寝たりするのもすべてしっぽでバランスを取っているのです。

一方で、私たち人類は、「進化の木」をたどっていくにつれて、テナガザルやオラウータン、ゴリラ、ボノボ、チンパンジーと同様にしっぽを失いました。

しっぽがあれば便利そうなのに、なぜヒトは進化の過程で尾を喪失したのでしょうか。ここではその理由について、現段階で考えられている有力な説を中心に分かりやすく紹介します。

サルと人間の分岐・直立歩行によって得られた進化の恩恵

人間は類人猿と呼ばれるグループに属しており、チンパンジーやゴリラ、オランウータンと同様にしっぽがありません。テナガザルのような小型類人猿もしっぽを持ちません。

そして、それはしっぽを持たないことがなんらかのメリットになるかどうかについての手がかりを与えてくれます。

まず、しっぽを喪失した理由を理解するために、私たちの歩き方を見ていきましょう。

ゴリラのように私たちと同じ霊長類のなかには、身をかがめて上半身を地面に対して斜めに傾けて歩く半直立のものもいますが、ヒトは完全に直立して歩くことができます。

そして、この直立二足歩行は、私たちに下記のような様々なメリットを与えました。

エネルギー消費の抑制

たとえば、同じ距離を前進するにしても、四足歩行の動物は、4本のどのステップにもエネルギーを注がなければなりませんが、二足歩行なら重力をうまく利用してネルギー消費を抑えることができます。

地面を一歩踏み出すたびに、重力が私たちを前方に引っ張るため、それが結果的に四足歩行に比べて25%ものエネルギー消費の抑制につながったのです。

自然界では、エネルギー消費の問題は、生きるか死ぬかを左右する重要な要素となります。

消費エネルギーが節約できると、その分移動距離も長くなり、食べ物を探し回ったり、捕食者から逃げたりといった必要な活動に備えることができます。冬期や飢餓を乗り越えるための摂取エネルギー量をおさえることにもつながるでしょう。

それだけにとどまらず、実のところ、この直立した歩き方は、しっぽの必要性の排除につながったとも考えられています。

しっぽの喪失

動物学者で、メルボルン大学のTiegs Museumの所長でもあるデイビッド・ヤング博士は次のようにいいます。

人間でも5キログラムといわれるほどの重量物である頭が、四足歩行の場合は前方に位置するために、ほ乳動物はしっぽで頭とのバランスを調節して歩かなければなりません。

このようにしっぽは、四足歩行の動き、特に走行を助けており、ネコ科動物のように速く走れる生き物ほどより長い尾をもつ傾向があるといわれます。

しかし、直立二足歩行では、歩くときに頭が体の上に位置するため、前後の重量バランスを相殺する尾の必要性がなくなります

実のところ、人間にも尾はありますが、それは私たちが母親のおなかの中にいる胎児期のほんのわずかな期間だけです。最もはっきりと分かるのが妊娠31日から35日の間で、その後は4、5つに融合した椎骨(ついこつ)に退行します。

それでは、サルと分岐して進化する間に、私たち人類には何が起こったのでしょうか?

それについて、デイビッド・ヤング博士は、「サルと類人猿」、「しっぽの有無」の違いは、特定の環境への適応の問題だと考えています。

しっぽのあるサルとないサルがいるのは環境に適応した結果

小型類人猿のテナガザルは、長い腕を使って、東南アジアの森林の中で、枝から枝へ揺れながら移動します。彼らは揺れるときに、体幹と脚をぶら下げて、体を直立姿勢にします。そして、このタイプの移動方法において、しっぽは邪魔になるだけで、テナガザルにはしっぽはありません。

テナガザルはまた、バランスを取るために腕を使って枝の上で二足歩行をすることでも知られています。また、このしっぽの無い直立姿勢は、木の幹を登るのにも適しているのです。

一方で、南アフリカのクモザルは四足歩行で、しっぽで枝につかまったり、枝の間を移動したりと第3の手として使うことができます。

いいかえると、サルはサルでも、これらは遠く離れた別の系統グループであり、その違いは、特定の環境に適応していくにつれて自然に生じた結果に過ぎないのです。

類人猿の直立姿勢について

類人猿の直立姿勢は、解剖学的に考えると、短い腰部と尾の喪失によって可能となります。

また、私たち人間の肩甲骨は、一般的なサルのように側面ではなく、テナガザルと同様に背後にあるため、腕を上げたり振り回したりできるといわれています。

私たちの祖先は、直立して歩けるようになったことで、木の上から地面の上へと生活の場を拡大し、環境の変化に適応するために少しずつ体を調整しながら、二本の足で安定して立ち、手を自由に使って道具を持ったり投げたりして獲物を捕まえることもできるようになっていきました。

このようにして直立歩行は、尾を捨て、人類にさまざまな恩恵をもたらしてきたのです。

人間にあるしっぽの名残「尾てい骨」

実のところ、私たちの体には、今も古代の霊長類の祖先についていたしっぽの名残があります。残念ながら、そのしっぽの名残は、犬のようにうれしい時に振ったり、悲しいときに垂らしたり、恐竜のように武器として使ったりすることはできませんが。

人間の背骨を見ると、下側にいくつかの骨が部分的に融合した部分があります。それがしっぽの名残だと考えられている「尾てい骨」です。

さて、世の中にはまれに、しっぽのようなものが生えて生まれてくる赤ちゃんがいます。

しかし、それは実際のしっぽではなく、ほとんどが腫瘍、または、嚢胞(のうほう)とよばれる液体がたまった袋状の病変だといわれ、寄生性双生児であることもあります。

まれに、背骨が伸び出したケースもあるようですが、それには骨が全くなく、完全に脂肪と組織からなる柔らかい管となっています。

これらのタイプの尾は通常、先天性欠損症として形成されたものだといわれており、脊椎の奇形は二分脊椎症と呼ばれ、胎児期の脊椎骨の形成不全から生じる神経管障害のひとつとして考えられています。そして、このようなケースは通常、医者によって外科的に赤ちゃんに害を与えることなく取り除かれます。

最後に

私たち人類は、気候の変化に適応し、長い年月をかけて生存競争に勝つために進化を続けてきました。

実のところ、しっぽの喪失、または、いつどのようにして二足歩行になったのかは、いまだに不明な点が多く残されており、専門家の間でもさまざまな意見があります。

しかし、私たちの祖先が類縁のサルと分岐して発達するようになった進化のカギにつながることは確かでしょう。

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