タンスの角につま先をぶつけたり、足の指に物が落ちてきたりしたときの痛みは、まさに言葉になりません。
まずは、衝撃的な鋭い痛みが襲い、続いてズキズキした鈍い痛みへと変わっていきます。
それには、特殊な痛みのメカニズムが関係しています。
以下に、なぜ足の指をぶつけると強い痛みが生じるのかについて、その理由を痛みのメカニズムをもとに分かりやすく紹介します。
足の指は、軽くぶつけたにもかかわらず、体重の2倍から3倍におよぶはるかに強い力でつま先を打ち付けるほどの痛みを生じるといわれています。
それは、空手のパンチを受けるときの衝撃に相当するレベルです。
さらに、つま先の表面積は小さいため、その力を分散させることはできません。
そのため、痛みは、衝撃を受けた部分に集中してしまうのです。
鋭い痛みの後に鈍い痛みが襲う理由
つま先をぶつけるとき、実際には足の先に集中した「侵害受容器」と呼ばれる特別な神経の束を打ちつけています。
侵害受容器とは、皮膚や内臓などに張り巡らされた末梢神経の先っぽにある痛みの受け皿で、異変や身体を脅かす危険を感知して、脳に知らせる役割があります。
痛みの刺激を感知すると、侵害受容器たちは興奮して、みんなで一斉に、警告をうながす電気信号を末梢神経に発します。
この危険信号は、末梢神経を介して脳に伝わるわけですが、実のところ、痛みの刺激を伝えるスピードは同じではありません。
なかでも極めて早いのがA-delta線維と呼ばれる末梢神経繊維で、毎秒20メートルともいわれる盲スピードで、何千もの密に束ねられた神経線維の間を駆けめぐり、痛み信号の最初の波を脳に向けて届けます。
それが、足の指をぶつけた衝撃の瞬間に感じる鋭い痛みを引き起こします。
しかし、神経線維の中にはC線維と呼ばれる遅い信号を送信するものもあります。
彼らは、毎秒2メートルの遅さで走り、ちょっと遅れて痛みの信号の第二波を脳に届けます。それが、鋭い痛みの後に長く続くズキズキした鈍い痛みです。
侵害受容器が多いと痛みを感じやすい
侵害受容器は、皮膚や内臓、目、膀胱にいたるまで、あなたの体中いたるところで見ることができます。
そして、それらは、指先や口唇(こうしん)のように、外部環境を調べたり、異変を敏感に感じ取ったりするために使われる部位に最も高い密度で集中しています。
手を紙で切ったり、唇がひび割れたりした場合、軽いけがであるにもかかわらず、本来の損傷よりも強い痛みを生じるのはそのためです。
つま先の侵害受容器は、手の指先ほど多くはありません。しかし、足の指には衝撃を和らげるためのクッションとなるようなものがほとんど無いので、侵害受容器に衝撃がもろに伝わってしまいます。
実は、つま先に緩衝材がほとんど無く、痛みや異変に敏感な構造をしているのには意味があるようです。
つま先が痛みに敏感なのには理由があった
研究者たちは、足の指をぶつけたときの痛みのように、つま先が痛みに敏感なことが、私たちの祖先の命を守ってきた可能性があると考えています。
医学が発達する前にさかのぼって考えてみましょう。
そのため、祖先たちは、痛みに敏感な足を使って周囲の異変を察知しながら、踏み入れる場所に注意を払っていたのかもしれません。
その結果、怪我や病気へのリスクが低下し、彼らの遺伝子を今日まで受け継ぐことができたとも考えられます。
もし次に、足の指をぶつけることがあれば、痛みに敏感な理由を思い出してみてください。
痛みに苦しむだけでなく、あなたの偉大な祖先に感謝することができるかもしれません。