今回は、人間の体温の限界について、高い熱と低体温を比べて分かりやすく紹介していきます。
そもそも人間は、何度の熱まで耐えられるのでしょうか。
過去には、熱が46.5度出ても命を落とさなかった人の記録があります。
これが人間の最高体温の限界だとしても、それは「普通の熱」より約10度高い程度です。
一方で、最低体温については13.7度の記録があります。
平熱との差はなんと20度。奇妙なことに、最高体温と平熱の差に比べると2倍以上もあるのです。
では、なぜ私たちは、体温が高くなるよりも低くなる方が、体に負担がかからないのでしょうか?
タンパク質は温度が高くなると活発になる
実は、体内で起きていることを考えると、私たちの体は常に火を起こしているようなものです。
なぜ熱が必要なのかについては、まずは、体内の生態機能において重要な役割を果たしている「タンパク質」について知る必要があります。
タンパク質は、コイルがぐるぐる巻いたような立体構造をしています。
このコイル構造は、熱によってつながりが緩みやすく、温度が高いほど他の分子との相互作用がよく働きます。
熱が上がりすぎるとタンパク質構造が破壊される
しかし、そうはいっても体内の特定の分子が壊れるまでの温度には限界があります。
40度以上になると、ある種のタンパク質は構造が緩みきって、完全にほぐれてしまうのです。
そうなると、重要な機能を果たせなくなるだけでなく、緩んだタンパク質同士が複雑に絡み合って 接着剤で固定したようにガッチガチに固まってしまいます。
この絡み合いは、生卵を焼くときに見られるものをイメージすると分かりやすいかもしれません。
卵のタンパク質は、私たちの細胞の繊細なタンパク質よりもはるかに丈夫で、高い熱にも耐えることができます。しかし、74度を超えたくらいから固まって、目玉焼きや卵焼きに姿を変えます。
人間の場合、40度を超えると、脂肪分子でできた膜が液状化したり、細胞内や細胞間での伝達物質の移動や連結が機能しなくなったりして、細胞から想定外の場所に物質が漏れてしまうこともあります。
それでも体温が上がり続けると、約47度に達する頃には、重要な成分が完全に壊れてしまうのです。
人間の機能は体温の限界点に近い温度でうまく機能する
人間の体は、他の多くの温血動物の体と同様に、温かさの恩恵を受けています。
どうやら私たちは、体温が限界の高さに近いところでうまく機能するように進化してきたようです。
そのため、たまに熱が出たり、無理をしたりした場合、体温の限界点まで少しの余裕しか残されていません。
しかし、その逆、つまり低温の場合は、もっと余裕があります。
低温に対しては余裕がある
体温が低くなると、体内分子が相互作用しにくくなり、化学反応が鈍くなります。
体は食べ物の代謝が悪くなり、脳の電気的活動は低下し、血液の循環も悪くなります。
しかし、この反応の鈍化は、本来は致命的なものではなく、むしろ有益なものです。
なぜなら、反応が遅くなるほど、臓器が必要とする消費エネルギー量や酸素量が少なくてすむからです。
臓器を移植する前に冷やしたり、脳に損傷を受けた人に低体温療法を行ったりするのはそのためです。
熊などの動物が冬の間に体温が大きく下がるのも、生き延びる方法のひとつです。
低体温の限界
しかし、体温を下げるにしても限界があります。
冷たくなって動きが鈍くなった臓器でも、生命維持に必要な資源を供給したり、生命を脅かす毒素を排出したりするために、ある程度の血流が必要だからです。
体温が13度以下では、それができず、人間は死んでしまいます。
ただし、人や冬眠中の熊の体温が、臓器を働かせるのに十分な温度を保っている限り、寒さによる問題が解決されれば、おおむね正常な状態に回復させることができるといわれています。