歴代のディズニー映画では、プリンセスに奇妙なことが起こっています。
初期のディズニー映画では プリンセスといえば、まるで本物の女性のようでした。
しかし、年を経ていくにつれて、頭は体に比べて大きくなり、明らかに目もぱっちりと大きな目となって、どんどん子供っぽい体型に。
フローズン・プリンセスのエルサまでくると、22歳の体型は8歳並み。
モアナに関しては16歳と設定されていますが、身長と頭の長さの比率が5頭身にも満たない4歳児の体型です。
そして、このベンジャミン・ボタン顔負けのケースはプリンセスだけに起こっているわけではありません。
実際、ディズニー以外の漫画にも当てはまり、キャラクターのほとんどが時間の経過とともに、子供っぽいデザインに。
実は、このような子どもっぽさは、家畜化された動物、ひいては私たち人間にもあてはまります。
今回は、アニメのキャラクターやペットがもつ子供っぽさが与えるメリットについて、人間の進化ともつなげて紹介します。
子どもっぽさは愛される
発達の過程では、私たちの体の最も複雑な部分である「頭」のパーツが速い段階で発達し、その後、手足といった体の部位が徐々に成長していきます。
そのため、新生児の目は、すでに成人の直径の75%に達しています。
生後3ヶ月までに、新生児の脳は、大人の脳の55%にまで達します。
本来ならお腹の中にいなければいけないのに、成長しきらないで、無能力のまま、巨大な頭で早く生まれて来てしまうのが人間です。
小さな体、大きな頭、そして、大きな目。
生物学者のコンラート・ローレンツは、これらの赤ちゃんらしい特徴が、哺乳類の大人が愛情と注意を与えたいと思う本能のきっかけになると推測しています。
たとえば、ネコの赤ちゃんの写真を見せると、脳内で何かが起きて、子猫を抱きしめたり、エサを与えたりしたいと思うのです。
いいかえれば、「かわいさ」は、赤ちゃんが大人に世話をさせるための秘密兵器なのです。
実のところ、ディズニーは、これと同じ生物学的トリックを使って 観客にキャラクターを応援させているようです。
それが漫画の主人公が子どもっぽい姿をする傾向が高い理由です。一方で、悪役はそれほどではない場合がほとんど。
しかし、これはファンタジーに限った話ではありません。
たとえば、くりくりの目に耳がタランと垂れた小型犬は、歯をむきだしにしたオオカミよりも、ペットとして選ばれ、かわいがられるように大人になっても幼少期の特徴を保持しています。
つまり、これが、生物学者が「ネオテニー(幼形成熟)」と呼ぶものです。
ネオテニー(幼形成熟)とは
ネオテニーは、家畜化された動物の多くにみられます。
垂れた耳に大きな目をしたスパニエル犬だけでなく、大きな耳に短い鼻先をした豚のような動物にもネオテニーは見られます。
しかし、ベーコンのために育てていた豚が、人間に愛着をもたれる必要はあったのでしょうか?
もしかすると、可愛さは副作用なのかもしれません。
動物を家畜化するには、飼いならす必要があります。
それが仲間であろうと、働き者であろうと、餌となるものであろうと、恐ろしく攻撃的な動物とは生産性の高い関係はできません。
恐怖への反応「戦うか逃げるか反応」は、ほとんどの動物が大きくなってからの話で、赤ちゃんの動物は人間と無邪気に触れ合う落ち着いた関係であることがよくあります。
その意味では、成長しないで子供のような姿を保ったままの方が、家畜化した動物にとって、人間に愛情をもって飼い慣らされるには都合がよいのかもしれません。
家畜化された動物は、外見や行動を変化させていく
1950年代初め、ソ連の科学者ドミトリー・ベリャエフは、ネオテニーについて調べるために、動物の繁殖実験を始めました。
野生のギンギツネを使い、人間との接触にどう反応するかをみて、友好的なキツネにだけ繁殖が許されたのです。
すると、わずか20世代後に、キツネは、行動だけでなく、外見にも変化が見られました。
耳は垂れて、顎は小さくなり、尻尾は短くなり、人間が近くくるといつでも尾を振るようになっていました。
ベリヤエフは、ホルモンと脳の化学反応の変化に注目し、その変化がキツネの行動的特徴や外見の発達に影響を与えてモデルチェンジしているのではないかと考えました。
つまり、動物を飼いならすために、1つの子どもっぽい特徴を選択した場合、他も、同じようになる傾向があります。
進化生物学者のスティーブンJ.グールドは、同じことが世界で最も有名な漫画のキャラクター、ミッキーマウスに当てはまるといいます。
初代のミッキーは、少し嫌な奴でした。
しかし、彼の性格が柔らかくなると、彼の外見もそうなっていきました。
1950年代までには、ミッキーは私たちが今日知っている子どもっぽいキャラクターになっただけでなく、彼は紳士的にもなりました。
実は、ペットや漫画を超えて、私たちは、自分の中にもネオテニーを見ることができます。
人間はネオテニー
ほとんどの生物学者は、人間は多くの点で、大きな赤ちゃんであることに同意しています。
他の霊長類の大人と比較して、体毛が少なく、手足が短く、のっぺりとした平らな顔。
チンパンジーの頭蓋骨が成熟するにつれてどれだけ変形するかと比較すると、私たちの人間の頭蓋骨の形は変化が少ないことが分かります。
人間のネオテニーは、進化の上で私たちに多くのメリットをもたらしました。
体毛が少ないことは アフリカの暑さの中で より遠くまで走れることを意味します。社会的な相互作用がより重要になるにつれ、私たちは、お互いに顔を鮮明に見えるようにもなりました。
また、「戦うか逃げるか反応」の抑制は、大人数の中でお互いに協力して組織化することを意味します。
ネオテニーで生まれる人間は、長い子育て(学習期間)が必要
そして、最も重要なことは、これらの大きな脳が発達するためには多くのスペースと時間が必要なことです。
人間は、本来ならお腹の中で育つ時期に、発達が不十分で無力のまま、早く生まれ、親に育てられないと成熟しません。
事実、高度な思考を行う灰白質と呼ばれる脳領域は、他の霊長類よりもヒトは活性化(発達段階の活動期)が遅いことが分かっています。
それは、人間が親に頼る期間が 他の哺乳類よりも長い理由です。
他の動物よりも脳の発達が遅いことが人間を賢くしている?
子育ての期間は、ワオキツネザルが1年、チーターが1年半から2年、ネズミが4年から6年、オランウータンが5年から7年、ゾウが15年から16年であるのに対して、人間は16年から18年と最も長い年月をかけます。
偶然ではないかもしれませんが、社会が複雑になればなるほど、子供の自立には長い時間が必要となります。
幼少期は経験と学習に没頭する時期であり、ほとんどの動物は、大人になる頃には硬直した脳プログラムになっています。早熟な脳は、認知力低下につながる可能性があることも分かっています。
しかし、幼少期を大人にまで延ばすことができれば、生きている限り学び、脳を変化させていくことができるのです。
だからこそ、今でも多くの人がアニメを愛しているのかもしれません。
できるだけ子どもの状態を保ったまま大人になることが、私たちを人間らしくしているのかもしれません。
いわば、人間は、ネオテニーによって進化したのです。